短編2

□冬近し
1ページ/1ページ




 ドアを開けると、モモのふらつく背中がこっちへ近づいてきた。すでに目の前まで来ている。


「うわっ、何やってんだお前」
「え!? お兄ちゃんいるの? どいてて邪魔!」


 なんて言い草だろう、とほんのり傷つきながらも廊下へ下がる。すると事の全体像が見えた。モモと、奥にいるキドとでテーブルを運んでいるようだ。テーブルに甲板はない。
 運び終わったテーブルは厚い布がかけられ甲板が戻されプラグを繋がれ、あっという間に炬燵になった。


「セトさんとかカノさんが帰ってくるまで待っても良かったんだけど……寒かったから!」
「俺は戦力外なのな……」
「え、お兄ちゃん自分が戦えると思ってるの?」


 心底バカにした様子で返してきたが、今バカを晒しているのはむしろお前だ。
「まあ、シンタローが手伝ったらシンタローの腕が折れてしまうし……」と大真面目な顔をしているキドは、フォローのつもりらしい。二人が炬燵を出すのを見守っていたらしいマリーもこくこく頷く。


「ただいまっす! ミカン買ってきたっす!」
「ネギマもちゃんと買ってきたよ〜」
「いやネギマは頼んでないぞ」


 炬燵の定番を買いに行っていたらしいセトと遥先輩が戻ってきた。律儀にツッコんだキドがプラグをコンセントに刺す。スイッチが入れられ、セトと先輩がお誕生日席に向かい合う形に、モモとマリーとキドが横に長い方に一列に座った。


「お前らそんなにオレの隣に座りたくないのか……」
「ち、違うっす! 俺でかいから狭くなると思ったんすよ!」
「ボクも……『でかくて邪魔になるのでお誕生日席でボッチしてください!』って貴……エネが」
「当たり前じゃん、なんでバカ兄の隣に座んなくちゃいけないの」
「ご、ごめんねシンタロー、モモちゃんの隣がよくて……」
「そっちに移ろうか? シンタロー」
「……イイデス」


 別にボッチがいけないわけじゃない。仲良しがいるから勝ちとかじゃないんだから。


「こんにちは、お邪魔します」
「……お邪魔します」


 きっちり挨拶をして入ってきたのはヒヨリとヒビヤだ。高校生になっても目上にため口を使う人間もいると思うと、コイツら結構ちゃんとしている。そんな二人がオレの左に座ってくれたので、ボッチはめでたく卒業できた。


「意外だなー、ヒヨリは先輩の膝に座んのかと思った」
「その手があったか」
「え」
「……ちょっとおじさん……」
「すみませんごめんなさい」


 冗談のつもりだったのにヒヨリは本当に先輩の胡座の上に座ってしまった。前髪の影が落ちた目をかっ開いて睨み上げてくるヒビヤがとても怖い。ポケットに入れたスマホから笑い声がする。アイツこっちに来てんのか。


「ただいま〜! あれっ、コタツ出したの? いいねえもうそんな季節かあ……ってシンタロー君なんでヒビヤ君に睨まれてんの……ぶふっ……あ、答えなくていいよ察したから、ぶふあはっ」


 カノは腹を抱えて笑いだした。腹筋千切れればいいのに。
 ただの散歩だったようで、カノは手ぶらだった。


「ねえ遥さん、ネギマ美味しいですか?」
「うん! あ、でもあげないよ……いや、うん、あげる!」
「えっ、いいんですか!?」


 先輩は最初、ネギマを独り占めしたいらしかったが、年上らしく分ける気になったらしい。それにしてもコノハの影響が残りまくりである。あと寒い。炬燵に入ってるはずなのに寒い。主に体の左側が。
 戻ってきたカノがすっとんきょうな声をあげる。


「よーっし僕もコタツに……ってあれ!? 僕の場所は!?」
「おめーの席ねーから!」
「お兄ちゃん、コタツに席とかないじゃん」


 うっせーなそういうネタなんだよ察しろ!
 大袈裟に泣き真似をしながら、カノは叫ぶ。


「シンタロー君ひどい! あっじゃあキド達んとこ入れてよ!」
「これ以上入るわけないだろバカが」
「じゃあセト……」
「狭いっす」
「は、遥君達は……」
「はァ?」
「ごめんなさい」


 アヤノやその母親にどことなく似ているからか、カノはヒヨリに睨まれただけで平謝りした。
 いつも弄られている恨みをここで晴らすべきか−−どうしてやろうか考えた瞬間、モモがあっと声を上げた。


「じゃあヒビヤくん、私の膝に座んなよ!」
「は、はあぁ!? おばさ……モモ何言ってんの!? そこまでバカだったの!?」
「失礼な! だって、そしたらカノさん座れるし、それにヒビヤくん、ずーっとヒヨリちゃん達見てたじゃない? 自分も膝に座らせてほしかったんでしょ!」


 ヒビヤがヒヨリを好きだと知っているくせにこの解釈なのだから救いようがない。
 モモは炬燵から出てヒビヤを抱え、元の場所に戻った。妹が思春期に入ったショタを膝に乗せているというこの状況。なんとも言えない。それはヒビヤも同じなようで、オレを睨むのを止めて視線をうろちょろさせている。


「これで入れる〜」
「い、いやそこエネの場所だから!」


 カノが座る前に床にスマホを置く。画面では、目をぱちくりさせたエネが浮いている。


「いやいやいやいや、エネちゃん入らないでしょコタツ」
「なに言ってんだエネにだって炬燵に入る権利くらいならあるだろ、人権だ人権」
『『お前って女なの?』とか聞いてきた人がよくもまあ……』


 エネがじと目で見てくる。やっぱりコイツを出すのはよくなかったか。


『てゆーかぁ、ご主人が出ればいいじゃないですか。よく『あちぃ……あちいよぉ……』って干上がりかけてたんですし』
「夏の話だろそれ! っつーかオレの音声使うな!」
『あ、いいんですかぁそんなこと言って。秘蔵ファイルばらまきますよ?』
「くっ、三次元でオレに勝てないからって二次元に行きやがって……」
『はあ!? 聞き捨てらんないわね! 体が眠れるからこうしてるだけよ!』
「口調崩れてますよ先輩? いやーそれにしても先輩が律儀に約束守るのは意外でした評価上げときますね」


 とってつけた敬語で嫌味を返しながらも、ファイルをばらまかれると怖いので炬燵を出る。寒い。スマホはテーブルに置いておいた。
 皆で飯を食う時に使う、大きなテーブルの手前の椅子に腰を下ろす。


「こんにちは、遊びにきたよー! おおおコタツ! 急に寒くなったもんね」


 ペカーッとした笑顔でやって来たのはアヤノだった。おみやげだ、とカードのおまけが付いている菓子が大量に入ったエコバッグを炬燵のテーブルに置く。数個抱えてこっちに来た−−と思うと、隣に座った。


「え、姉ちゃん、ココ空いてるよ!」
「そこ、たか……エネさんの場所でしょ?」
「炬燵に入ってるわけじゃないんだから平気だよ!」
「でも、シンタローの隣落ち着くんだよねえ」


 シスコンパラメーターがカンストしている上に微妙にこじらせているカノは必死だった、が、アヤノの言葉に撃沈した。


「何だかんだ、中二からずっと席隣だったもんなぁ」
「うんうん。あ、でも偶然じゃないんだよ。シンタローの隣にしてくださいって、私が先生に頼んでたの」
「は? 何やってたんだお前」


「僕は! やっぱり! 君が気に食わない!」と叫ぶカノを笑いながら先輩とヒヨリにねちねち絡むエネの向かいでマリーが花が飛んでいそうな空気でセトと話していてその隣ではまだモモに抱えられている状況に慣れていないヒビヤがキドが剥いたミカンを食べていた。


 今日もアジトは賑やかだ。





END.









* * *
前の前に話を上げた時は夏だったので、季節ネタいただいたのにこれじゃ季節合わない……とがっくりしていたのですが、ギリギリセーフなような時期に上げることになりました。単に私が書くの遅かっただけですリクいただいた時は冬でしたもの……! 申し訳ありません。
ギャグということで、私なりに精一杯ネタを入れたつもりです〜。カップリング指定はなかったのでカップルはないつもりです。リクエストありがとうございました!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ