短編
□消失
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ご主人は私が好きで、私はご主人が好き。つまり両思い。
でも私達は付き合っていない。
ご主人は私の気持ちに気付いていない。私は気持ちを伝えていない。だから。
なぜ伝えないか? 所詮私は二次元ですから。
だから、私達の関係は、恋人になんかならずに平行線のまま進む。そう思ってた。
「エネ、好きだ」
ある時、ご主人はそう言った。そのまま、顔色も変えずキーボードを叩く。多分、無意識に言ったんだろう。じゃなきゃヘタレご主人がこんなに平然としているわけがない。
つられて「私もご主人が好きです」と返してしまった。
そしたらご主人はふ、と私を見て、顔を真っ赤にした。やっぱり無意識だったんだ。
その時のご主人はからかいがいがあったけど、私もさすがにからかう余裕がなかった。「顔赤いですよー」と照れ隠しするので精一杯だった。
頭いいクセにバカで、なよっとしてて、度胸があるのかないのか分からなくて、カッコ悪くて、ちょっとだけカッコいいご主人。私はこれでも、ご主人が大好き。
思いが通じあってからも、私達はあまり変わらなかった。ご主人はニジオタコミュショーヒキニートで、私はそんなご主人をからかった。
でも、たまに、画面越しにキスしたりした。ご主人が気持ち悪いくらい優しい顔で目で私を見て、私はそれに呑まれてときめいたりした。
きちんと、彼氏彼女だった。
ご主人の寝顔を妹さんに撮ってもらい、私の秘蔵フォルダに収めたり。ご主人の寝言がおかしくて可愛かったから録音して、私の秘蔵フォルダに保管したり。
「動物見たいです!」
「…ほら、動物図鑑」
「違います! 生の動物が見たいんです!」
「モモに動物園に連れてってもらえ」
「やーでーす!」
ご主人と行きたいの、どうして分かってくれないんですか! ――と言いそうになって慌てて口をつぐんだり(その後ご主人は私を連れて動物園に行ってくれた)。
世間に縛られず、毎日毎日一緒。それでもまったく嫌にならない。「好き」が増えるだけ。
ずっと、ご主人が死ぬまで、ずっと一緒。そう考えてた。
触れない、それだけを除いたら、私達は普通の恋人同士だから。
でも、でも、どうして?
どうして私に話しかけてくれないんですか?
どうして私を冷たい目で見るんですか?
どうして私に笑いかけてくれないんですか?
どうして「好きです」と言ったら嫌な顔して黙るんですか?
どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうして!!
「…………あ……?」
右手が、消えてる。ああ、手首が消えた。腕が、消えていく。