説話1

□君がため、 1
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西日が差し込み昼間とはまた違った印象の教室に、
吹奏楽部の音に混ざって学校とは不釣り合いな肉のぶ
つかり合う音と水音、女の高い喘ぎ声が響く。忘れ物
を取りに来たら営み中でした、というベタな状況に圓
山彰大は廊下にへたりこんだ。
 笑いたくても笑えない。事情中の二人に気付かれな
いよう、そっと中を覗いてみるとこちらに見せ付ける
ように座った男の上に女が股がる、所謂背面座位で見
知った女が快楽に頬を染めていた。扉も開けたままだ
ったし実際見せ付けているのかも知れない。胸までた
くしあげられたセーラー服と、勃起した男根を飲み込
む様は厭にグロテスクであり淫靡で彰大は自分の下肢
に熱が貯まるのを感じた。
 よりによって、何で今日忘れ物をしたのか。明日提
出の課題を鬼畜教師に忘れたと言えば内申点を大幅に
減点されるだろう。指定校推薦を狙う彰大にとって、
些細なことで成績を落としたくない。明日早朝に登校
して、とも考えたが鬼畜教師の授業は一時限目だし半
時間で終わるものとも考えられない。
 今日、どうしてもいるのだ。事情中に取りに行くか、
終わってから取りに行くか。後者が無難な気もするが
二人が服装を正している時に入るのか出ていってから
入るのか。もし出会したらどうする。やぁ、こんな時
間にどうしたのでは済まされないだろう。
 そうこう考えているうちにお楽しみは終わったらし
い。内容までは聞こえないが何かを話している。今
入るのは無理だ、取り敢えずここから逃げよう。
「入っておいでよ」
 彰大が立ち上がると同時に中から声がした。明らか
にこちらに声をかけているが、気のせいだと踵を返そ
うとした。それなのに何故か足は意思とは逆に教室に
向いている。
「谷口、」
 谷口チカ。黒セーラーをきっちりと着、幻覚かと思
うほどさっきまでの状況を微塵も感じさせない様子で
机に座っていた。違う様子と言えば谷口の相手をして
いた綾部が床に倒れている。普通ならば身体に負担の
多い谷口が綾部の立場ではないのか。浮き上がった疑
問を飲み込んだ。
「覗きが趣味だなんて。意外」
「違っ、俺は忘れ物を取りにきただけで」
「そう」
 彰大は急いで自分の席の忘れ物を取りに行き教室を
出ようとした。自分の主張しかけている下半身がばれ
ないように。
「私とする気ない」
 幻聴まで聞こえる。どうしよう。下半身の状態ぬ気
付かれたのか。取り敢えず聞こえてないふりをしよう
と返事をせずに扉へと歩き出した。
「私とセックスしようよ」
 制服が引っ掛かった感覚があり、その部分を見てみ
ると谷口が詰襟学生服の裾を引っ張っていた。初めて
こんな至近距離で見る彼女は予想していたよりもはる
かに小さくて、女の子故か肌目がとても細かい。黒曜の瞳は吸い込まれるようにどこまでも黒く、
唇は血のように赤い。
「冗談」
「あら、その反応は童貞かしら」
 十五才の健全な男子で何が悪い、と出かけて止めた。
谷口は同い年なのにどこか大人びた雰囲気があるため、
反論しても言いくるめられるのは目に見えていた。
此処は逃げるが勝ち。課題のプリントに皺が寄るの
も構わずに握りしめ、一刻も早くこの場から離れるよ
うに谷口に背を向けた。
 教室の扉から出る時、綾部をちらと見ると血の気の
失せた真っ青な顔をしていた。取り敢えずこの下半身
を処理しなければ家には帰れない。近くにあるトイレ
に彰大は駆け込んだ。

***

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