説話1

□悔俊のサクラメント
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 松浪先生、お久しぶりです。一回目の同窓会の時は出席されなかったので、約十年ぶり、ということになるのでしょうか。中学生の時は先生に大変お世話になり、感謝してもしきれません。私は大学の卒業したあとに銀行に就職し、大学時代にお付き合いしていた方と来月結婚することになりました。とても優しい方で、私には勿体ないかもしれません。
 私事はさておき、あきほちゃんは女の子を出産し、お腹にもう一人赤ちゃんがいるそうです。大きなお腹を抱えて同窓会を開くなんて、良い意味で私にはできないことです。中学校の学級委員長の気質のまま大きくなったような、彼女は何一つ変わっていませんでした。
 今回、先生にお手紙に出そうと決めたのは他でもなく、同窓会のことについてです。先生は前日にぎっくり腰で急遽欠席され(お身体はもう大丈夫ですか)、当日起きた事について詳細を知りたがっている、と小耳にはさんだからです。自分の教え子があんなことをするなんて、私も先生の立場だったら知りたがっていると思います。週刊誌や新聞には事故としか書かれていませんでしたから。
出席者は先生以外の三年七組全員出席で、懐かしい顔ぶれが揃っていました。特にモデルとして活躍しているKが来ていることには驚きました。一回目の同窓会では、お仕事のスケジュールが合わなかったらしく欠席でしたが、十年振りに見るKはまとっているオーラが違うと言いましょうか、とにかく私たち一般人とは輝き方が違いました。ですが、その輝きとは別に何か、どす黒いものが纏わり付いているような気がしてならなかったのです。
 同窓会と言っても昔の教室で、お菓子を食べながら談笑するだけです。何かゲームをするでもなく、昔仲良しだった友とお喋りするだけですね。
 私もあきほちゃん、あきほちゃんのお嬢さんのあみちゃん、雪乃ちゃんとお話していると、Kが話かけてきました。
 「河合、このこと覚えてる」
 そう言ってKが取り出したものは先の尖った木の棒でした。いえ、しっかり見てみるとそれは氷菓子の当たり棒でした。氷菓子の当たり棒…。正直言って、その時は何かあったかなという程度で、はっきりと覚えていませんでした。それはあきほちゃん、雪乃ちゃんも同様なようで(雪乃ちゃんは身体が弱いのでその時は学校を欠席していたのでしょう)首を傾げていました。
 「覚えてないか…河合が引っ越す前日にこれ、投げてきたんだけど」
 言われて気付きました。そうです、中学三年生の時は受験生ながらも青春だったのです。他クラスの恋愛話をしたり、あきほちゃんがKに一目惚れをし、その恋を応援したりしていましたから。その時に先生にも相談に乗っていただいたりしましたね。
 あきほちゃんが引っ越す前日、当時Kが集めていた氷菓子の当たり棒に引っ越す家の住所を書いてKくんに渡したことを言っているのでしょう。携帯電話が普及し始めたのは最近ですから、私が中学生の頃は手紙、文通しか遠くの人と繋がる方法が無かったのです。
 「思い出した。懐かしい、Kくんまだそんなの持ってるんだ」
あきほちゃんもようやく思い出したようで、当時を懐かしむように微笑んでいました。
 「そういえば、その時当たり棒がKくんの顔に当たって鼻血出たんだよね」
 「そうそう。それであのKが鼻血を出してるって皆が笑ってね」
 Kがそんな物をもっているなんて驚きで、でも懐かしくて懐かしくて…。私とあきほちゃんは小さく笑っていました。
「結局手紙出せなくてごめん。実は俺も」
 好きだった、と言葉が続くのかと思いましたが、同窓会は成功に終わったのではないのは、先生もご存知ですよね。
 「ママ」
 あきほちゃんの娘のあみちゃんが、あきほちゃんを見上げました。彼女の目にはKくんの手にあった当たり棒が刺さっていました。あきほちゃんの顔から流れた液体が、あみちゃんの額に落ちたようで額に赤いものが付いていました。
 「―――――――」
雪乃が悲鳴にならない悲鳴をあげたことにより教室中の視線が私達に集まりました。このときの私は異常なくらいに冷静で、いいえ、目の前の状況が飲み込めていませんでした。
「お前の投げた当たり棒のせいで、俺はずっと後ろ指をさされていたんだ。分かるか。俺の気持ちが。分からないよな」
 Kはあきほちゃんに馬乗りになり、先の尖った当たり棒で、あきほちゃんの綺麗な顔立ちが分からなくなるほど顔中を刺していました。最初の一撃が脳まで達していたようでKが発狂しだしてからあきほちゃんは身じろぎ一つしませんでした。
 その後、誰かが警察に通報したらしく、警官が来ましたが事故として片付けられました。故にKは捕まっていません。昨日も楽しそうに生放送の番組に出演していました。ずっとKを苦しめていた河合あきほという存在が無くなったからでしょうか。
 これが第二回同窓会の全てです。ですが、私が先生に手紙を出したのは、このことをお知らせたかっただけではありません。先生、この事件が起こったあと、思い出してしまいました。Kに当たり棒を投げたのはあきほちゃんではありません。私なんです。必死に当たり棒を当て、それに心を込めて住所を書いたものの渡す勇気が無く(いや、渡そうとしましたが声が小さ過ぎてKには届かなかったようです)、仕方なく私が渡そうとした所、手が滑り鼻に当たってしまい、そして出血。私の隣にはあきほちゃんがいて、Kの鼻血を見て彼女は噴き出してしまったのです。このことをKは覚えていないようでしたが、もし、思い出してしまったら。
 先生が今の私の立場だったらどうされますか。

2011/12/27
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