説話1

□憂鬱レイン
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電車を降りると、外は凄い雨だった。同じ電車に乗車していた人も突然の雨に気が沈んでいるように見える。
昨夜、ある人が亡くなった。
私はその人を直接には知らないが、皆に好かれていて、自信を与えて、自分自身も苦悩の多かった偉大な彼。
当然その人を慕っていた人は悲しむ。見ているのが苦しいくらいに。
この豪雨は、亡くなった人の気持ちであり置いていかれた人の思いとなり私達に重く降りかかる。
近くにいた人が鞄を傘代りにして雨の中を駆けていく。
私もずっとどんよりとした空を見ていても埒が明かないから、タオルを頭にかけて一歩踏み出す。
思っていたよりも激しかった。
雨はアスファルトに溶け地面を黒く染める。
ふと、空を見上げてみた。灰色の雲の合間に、ほんの少しだけ青空が見える。
あの青空のように、残された彼を想う人と。曇り空の中にも青空があるように。
いつか、一緒に笑えますように。

2010/07/24

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