夢小説 長編『child's play』

□child's playV
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 万里亜が、装備を解除しようと小宇宙を抑えはじめた。白金色の輝きが少しずつ薄れていくに従い、万里亜の華奢な体を覆っていた神聖衣も次第に消えていく。
 装着した時よりも時間がかかるのは、まだ小宇宙の制御に不慣れだからだろう。
 神聖衣が全て収まる頃にカミュが戻ってきた。
「お帰りなさい。どうもありがとうございました」
 装備を介助し終え笑顔を向ける万里亜の姿を目にしたカミュは、慌てて視線を外した。
「カミュさん?」
 怪訝な表情の万里亜に、カミュは背のマントを外しそれで彼女の体を覆った。
「…その御姿では、その…余りにも…」
 そう言うカミュは、彼の髪色に負けないくらい顔を真っ赤にしていた。
 海水の雨に打たれびしょ濡れになった万里亜の体には、薄手の衣服が体のラインに沿ってぴたりと張り付いている。それは、万里亜の豊かなバストと細いウエストをことさら強調していた。しかも淡い色のシャツを着ていたので、下着まで透けて見えていたのだ。
「あ、すみません…。御見苦しい姿で…」
 カミュの赤面の意味を知った万里亜もまた、負けじと顔を真っ赤にさせて俯き、体を覆っている水瓶座のマントをギュッと握り締めた。 

 それから、万里亜の瞬間移動で三人はアテナ神殿へと戻ってきた。
「カミュは万里亜を部屋へ送ってやれ。報告は俺一人で十分だ」
「しかしシュラ…」
「そんな格好の万里亜を一人で歩かせる訳にもいかんだろう。いくら教皇宮とはいえ人の目がある」
「…そうだな。分かった」
 万里亜をカミュへ託したシュラは、マントを翻しながら教皇宮へ下る石段の方へ歩いて行った。
 カミュのマントを巻いた状態の万里亜は、天を仰いで結界の破れ目を確認していた。さすが神話の時代から聖域を守り続けている結界だけあって、行く時に開けた亀裂は全く広がっていなかった。
『これならすぐに閉じられるわ』
 小さく頷くとカミュに下がるように命じた。
「破った結界を修復します。少し待っていて下さい」
「はっ」
 アテナ神像に手を当てると、そこから戦女神の強い小宇宙を感じる。伯母と姪の関係にあるヘスティアとアテナの小宇宙には多少なりとも似通った部分がある。そこへ慎重に波長を合わせて行く。
『ここだわ』
 小宇宙を同調させる事に成功した万里亜は、次に結界の破れ目に向けて小宇宙を放出し始めた。

 黄金色に近い白金色の小宇宙がゆっくりと結界の亀裂箇所を繕っていく。

 海底で見せた攻撃的小宇宙とは異なり、雄大で慈愛に満ちた小宇宙は、アテナと酷似している。しかし、アテナよりも更に深い包容力を持っているようにカミュは感じた。
 黒髪の先から海水の雫を落としつつ祈りを捧げる女神。眩いほどに煌めく小宇宙は、か細い体を覆う水瓶座の純白のマントを揺らめかせ、徐々にアテナの結界を修復していく。
 その神秘的な美しさからカミュは目を離す事が出来なかった。
 結界の修復に成功した万里亜は、大きく息をついてその場にヘタヘタと崩れ落ちた。
「ヘスティア様!大丈夫ですか」
「…ええ、大丈夫です。心配しないで」
 駆け寄ってきたカミュに笑顔を見せるが、疲労の色は隠せない。
「さ、戻りましょうか」
 膝に手をついて立ち上がろうとするが、足がふらついてよろりと体が傾いた。短時間で小宇宙を大量放出したため、かなりの体力を消耗したようだ。
「…私がお運び致します。御体に触れる事、御容赦願います」
 眉根を寄せたカミュは、背と膝裏に腕を回しそのまま万里亜を抱き上げた。
 過去、任務遂行に際して同じように女の体に触れた事はあった。決して万里亜が初めて触れる女と言う訳ではなった。だが今までに触れたどの女よりも、万里亜の体は細く柔らかだった。 
 カミュはまるで猫のようにしなやかな万里亜の体に、全身が甘く疼くのを感じた。

 アテナ神殿を下り教皇宮の入口へ差し掛かったところで、柱に身を凭せかけて腕を組んだ人物が二人を待っていた。
「待っていたよ。カミュ、後は私が引き受ける。君も報告へ行くと良い」
「アフロディーテ、お前の心遣いには感謝する。だが、報告はシュラが行っている。私はヘスティア様を部屋へ御送りする。」
「万里亜の御守まで君の任務には含まれていないだろ」
「御守だと?」
 アフロディーテの言葉にカミュの顔色が変わった。
「お前は随分と無礼な物言いをするのだな」
 互いに牽制し睨み合う二人に万里亜は困惑しながら仲裁に入った。
「あ、あの私は大丈夫です。一人で戻れますので、カミュさんは報告にアフロディーテさんは執務に戻って下さい」
 そう言ってカミュの腕から下りようと体を捩るが、当のカミュは万里亜を下ろすどころか、その体を抱く腕に更に力を込めたのだ。
「失礼する」
 強い口調で言い切ったカミュは、アフロディーテの横を通り抜け教皇宮の中へと入って行った。

 カミュは万里亜の私室に到着すると、漸く腕の力を緩め彼女を解放した。
「ヘスティア様、何卒御無礼をお許し下さい」
 跪き頭を垂れるカミュ。
「私は構わないのですが…。それよりも、カミュさんは御怪我しなかったですか?」
「はい。私もシュラもヘスティア様の御陰で無事にございます」
「そうですか。それは良かった」
 ホッと息をついて安心した笑顔を浮かべる万里亜に、カミュははっきりと己の心の内に細波が立つのを自覚した。
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