夢小説 長編『child's play』

□child's play
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 双児宮の朝は早い。宮主は眉目秀麗な双子の兄弟で、兄をサガ、弟をカノンといった。
 サガは、彼らの仕える女神アテナを祀る聖域で教皇補佐の職に就いており、同時に双子座の黄金聖闘士としてアテナを守護する役割も担っていた。
 一方のカノンは、アテナの聖闘士の兄を持ちながらも、敵である海神ポセイドンの海闘士、海龍へと身をやつした。
 一度はアテナへ拳を向けたカノンであったが、かつてアテナから幾度となく命を救われた事を知り、双子座の影の聖闘士としてアテナへの忠誠を尽くす事を心に誓った。そして、彼に与えられた役割は、双子座の黄金聖闘士兼、海神を封じたアテナの壺の監視役だった。
 定期的に海底神殿へ赴き、異変の兆候がないかを確認している。
 一卵性双生児の彼らは見た目は瓜二つだが、その気質は全く異なっていた。
 生真面目なサガと奔放なカノン。
 対照的な性格の兄弟だったが、生活リズムの刻み方は、離れて生活していた時間が長いにもかかわらず、非常に似通っていた。
 鳥のさえずりが聞こえる頃に起床し、身支度を整えた後に朝食を摂る。調理は週替わりの当番制にしている。
 今週はサガが当番だった。
 長く柔らかい金髪を、無造作に後ろで束ねて朝食を作るサガ。片手で器用に卵をフライパンに割り入れる。
 メニューは大抵、カリカリに焼いたベーコンとサニーサイドアップで、サガは半熟、カノンは固焼きが好みのようだ。それにサラダとパンを付け合わせたごく簡単なもので、食後のコーヒーは、二人ともブラックと決まっていた。
「…カノンはまだ起きないのか」
 いつもならとっくに起きている時間のはずなのに、カノンが起きてこない。朝食はとっくに出来あがっている。
 小さく溜息をつくと、サガはカノンの部屋へ向かった。
「カノン、朝だぞ」
 ドア越しに声を掛けるが返事がない。
「おいカノン」
 ノックをしてみるがやはり返事はない。
「入るぞ」
 部屋に入るとまだカーテンも閉められたままだが、東向きのカノンの部屋には朝日が差し込んできていて、既に明るい。
「…カノン?」
 弟のベッドに目を遣ったサガは訝しそうに声を掛ける。掛布団の膨らみがやけに小さいのだ。
 カーテンを開け朝日をたっぷりと部屋に入れてやると、サガは弟のベッドに近付いた。
「おい、カノン…?」
 弟の布団を剥ぐってやったサガは、そのままの体勢で固まった。
 カノンが寝ているはずのベッドでは、体を丸めた小さな子供が規則正しい寝息をたてて眠っていたのだ。
「…何だ、これは…」
 さすがのサガもこれには驚いた。弟のベッドに子供が寝ている。では、肝心の弟はどうした。
 と、眠っている子供が身じろぎをした。小さな手が布団の在処を探るように動かされる。
 その様子を見たサガは慌てて布団を掛けてやった。すると、子供は安心したように布団に包まり、また動かなくなった。
 口元に手を当てて考える。
 なぜ弟の部屋に子供がいるのか、弟はどこに行ったのか。そもそも、この子供はどこから来たのだ。
 色々と考えてみて、サガははたと気付いた。
『この子供、何故カノンのパジャマを着ていたのだ』
 さっき布団を剥ぐったときに見た子供は、確かにカノンのパジャマを着ていた。着てたというよりも埋もれていたと言うべきか。
『…まさか』
 有り得ない事を考えたサガは、その自分の考えを打ち消すために、もう一度布団に包まって眠っている子供の顔を見た。
 すうすうと寝息を立てている子供は、年の頃だと3〜4歳くらいだろうか。少し癖のある金髪に桃の実のような柔らかい頬。
 サガはその少年の顔を知っていた。
 20年以上昔の、まだ聖闘士など知らなかった頃の自分達の姿。
「一体、何があったのだ…」
 サガは茫然とその場に立ち尽くした。

 朝食は、既に冷めてしまっていた。
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