*お宝お年賀話の部屋*

□『こあら亭』明澄香様のお年賀話
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程よく茹だったそばを
器に盛って
たっぷりとつゆと
かつお節を降らす。
別の皿には
香ばしい匂いのする
かりっとあげられたテンプラ。
それお両手に抱えて戻れば、
ゾロはぼんやりと
テレビを眺めていた。
「紅白、どっちが勝った?」
聞いてやれば、
分からないとの返事がくる。
眼を擦る仕草から、
眠っていやがったなと
思いながら
こたつの上に
そばをおいてやる。
「さんきゅ」
器を受け取って、
ゾロは両手をあわせる。
「いただきます。」
この年になって
そういう礼儀を忘れないやつは少ない。
そういうところが、
やっぱり好きなんだよなと思いながら、
俺もゾロの向かいに
腰掛ける。
「召し上がれ。」
そう言ってやれば、
ゾロはおうと呟いて、
豪快にそばを啜る。
年があけるまで
後5分
自分の目の前のそばに
とりかかりながら、
テレビの中のお姉さんの
かわいらしい声を聞く。
後二分!
声を張り上げてそう言う頃
ゾロがごちそうさまと
手を合わせた。
ゾロより少し少なめにしておいた
俺のそばももう少しでなくなる。
最後に汁を啜った頃に
カウントダウンが始まった。
5、4、3、2、1
テレビにぼんやりと見入っているゾロの後ろに
回ってその背を抱き締める。
テレビの中で爆竹が鳴り響く中、
振り返ったゾロの口を
塞いでやった。
身をよじった格好が苦しいのだろう
嫌がるゾロの口の中に
舌を潜り込ませれば、
ゾロの眉がきゅっと寄った。
名残惜しいながら
そっと唇を放してから
ぺろりと唇をなめる。
舌に残るのは、
当然ながら
俺が丹誠こめて
作ったそばの味。
「あけましておめでとうございます」
ゾロを抱き締めたまま
頭を下げれば、
深いため息を共に、
俺の腕の中に
重みがかかる。
ゾロの背から
ゾロの体温が伝わってくる。
「…おめでとう」
むくれながらも、
呆れながらも、
そうやってちゃんと返してくるゾロが
愛しくて仕方ない。
調子に乗って
ゾロの身体に指をはわせれば、
きつい視線が返ってくるけれど、
今年もよろしくって
気持ちの変わりって事で。
暖かい部屋で、
お腹もくちた状態で、
幸せに愛を確かめあうのも
粋じゃない?
そう囁いてやれば、
心底呆れたって顔しながら、
あんたはちゃんと俺を抱き返してくれるから。


ちらりと視界の端に映った
そばの器は無視をする。
後片付けはまた後にして
今は何はともかく
愛を確かめあいましょう。
今年もよろしく
来年も、再来年も、
ずっとずっとよろしくの
思いをこめて。






END>


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