*お宝お年賀話の部屋*

□『Marionette』水川晶様のお年賀話
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恋の成功法


さざめきごった返す人波の中、鳥居の前に綺麗に結い上げられた空色の髪が覗いた。
「ビビ!」
晴れ着の裾を捌くのに苦労しつつ、ナミは漸くビビまで辿り着いた。はあ、と息を吐くと、挿したかんざしがしゃらんと揺れる。
「ごめん、遅くなって……。」
「雪で電車が止まってしまったんだもの、しょうがないわよ。それより……」
ふふ、とビビはくすくすと笑みを零した。
「ナミさん、とっても綺麗。」
気にも留めていないようだけれど、この人出の中で20分は待ったはずだ。それでも、年の初めに、いつまでも情けない顔でいるわけにはいかない。後で何か奢ろう、そう決めてナミは笑顔になった。
「ビビこそ可愛いじゃない。その帯、自分で結ったの?」
「ええ。今年は初めて一人で着付けられたのよ。」
テラコッタさんに教えてもらったけどね、と言ってまた嬉しそうに笑ったビビにナミも笑って、二人は境内へと足を進めた。


「んナーミすわーん! ビビちゅわーん!vv」
人混みに揉まれながら参道を進むナミとビビに、不意に横から素っ頓狂な声が掛かった。ぎょっとしてそちらを見ると、真っ赤な顔でヘラヘラと笑う金の頭が、ヒョコヒョコとこちらへ近付いてきた。
「明けましておめでとうっv 二人とも何てキレイなんだぁーvv」
「明けましておめでとう。サンジさんってば、相変わらずね。」
「ていうか、いつもよりヒドくない?」
ふ、とナミは鼻についた臭いに眉を顰めた。目の前の男の吐く息が、随分とアルコールを含んでいる。
「サンジ君、昼間っから飲んでるわね?」
呆れてサンジを見ると、渦を巻いた眉がへにゃんと下がった。情けないわね、と思う間もなく、突然、サンジが両腕を伸ばしてナミに飛びついた。
「ナミさん〜〜〜ッ!」
つい思いっきり振り払うと、泣きそうな顔になってその場にしゃがみこむ。道の真ん中で邪魔になる、と思った時、その首根っこがヒョイと摘み上げられた。
「何遊んでやがる。」
「ゾロ!」
寒がりで人混み嫌いで、冬はひたすら炬燵に立てこもるゾロが、こんな日にこんな所にいるなんて、とナミとビビは揃って目を丸くした。ゾロがどさりとサンジを落とす。「ふぎゃ」と猫のような声が聞こえた。
「おぅ、おめでとさん。」
「あ、おめでと……って、何でこんな所にいるの?!」
吃驚した、とナミが言うと、ゾロは赤くなった鼻をマフラーに埋めた。
「……コイツが、朝っぱらから家まで来て煩ェから、」
サンジの家から、この神社とゾロの家は逆方向だ。
「……健気ね。」
いっそ憐れむようにサンジを眺め、ナミはちら、とゾロに目を戻した。
……気づいているのだろうか。
いつの間にか、女好きの武勇伝を聞かなくなった。皆がそう気づいたときにはもう、サンジはゾロにメロメロだった。
目線の動き、ふと掛ける声、その端々から覗くサンジの気持ちは誰が見ても一目瞭然だった。
――ただ一人、ゾロを除いては。
気づいているのかいないのか、元日でも変わらない仏頂面は、そ知らぬふりでサンジを纏わり付かせている。
「で? 何でサンジ君はこんなベロベロに酔ってるわけ?」
「……道々おっさん共がくれる甘酒と清酒、全部貰ってやがったんだよ。」
 ――呆れた、酒の力でも借りようとしたのかしら。
(早く言っちゃいなさいよ、サンジ君の根性なし。)
見れば、似たようなことを考えているのか、何だかちょっと難しい顔のビビがいる。そのビビの腕を取って、ナミはわざとらしく声を張り上げた。







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