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□しつけ
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「長太郎」
宍戸さんに呼ばれると、それだけで気持ちが弾む。
「はいっ」
すぐさま宍戸さんの元に駆けつける俺を見て、忍足先輩がからかうように言った。
「ほんま、宍戸は鳳のことようしつけとるなぁ」
そんな忍足先輩に、宍戸さんが笑って言い返す。
「俺が?しつけられてんのはこっちの方だぜ」
宍戸さんの言葉に忍足先輩が軽く目を見張り、俺を振り返った。
「そーなん?てっきり鳳の方が忠犬だとばかり思ぉてたわ」

帰り道。
宍戸さんと並んで歩いていた時、ふとさっきのやり取りを思い出した。
「宍戸さん」
「ん〜?」
宍戸さんが俺を見上げる。
「宍戸さんが俺にしつけられてるって、あれ、どういう意味ですか?」
俺の質問に宍戸さんはフフッと笑った。
こんな風に笑う宍戸さんを、俺以外の部員に知られたくないな。
もちろん、忍足先輩達にも。
そんなことを考えたら、自分の胸の奥の方がギュッと掴まれるような感覚がした。
「そのまんまそーゆう意味だけど?」
「俺、宍戸さんには忠実ですよ?」
「それ言ったら、俺もかなり忠実だろ?」
紙パックのジュースにささったストローを、無意識なのか唇で弄ぶ宍戸さん。
俺はそのストローが羨ましいなぁなんて思いながら、その姿を眺めていた。
ぼんやりと宍戸さんを眺めていた俺の視界いっぱいに、突然宍戸さんの顔が飛び込んできた。
え?なに?と思った瞬間には、ぐっとネクタイを引っ張られて唇が塞がれていた。
「!?」
宍戸さんとキスしてる!と理解したと同時に、宍戸さんの唇が離れた。
「こーゆうことしちゃったりさ」
してやったりと言った表情で、俺を見ている。
「宍戸さん....」
「考えらんねーよな」
宍戸さんの焦げ茶色の瞳がいたずらっぽく俺を見上げる。
そしてチラッと流すような目で俺を見やる。
「俺が道の真ん中でこんなことするなんて」
何もなかったような態度で再び歩き出す宍戸さんの後を、俺は慌ててくっついて行く。
「すっかりお前にしつけられちまって......」
あーあ...我慢できねぇなぁと呟いて、また唇でストローを弄びだす。
「欲望に忠実ってヤツ?」
そう言って笑う宍戸さんはすごく色っぽい。
他の人には絶対に見せないで下さい!その笑顔。
俺は平静を装って言った。
「俺、最近待てが辛いです」
そしてさりげなく宍戸さんの手を取って、自分の指と絡める。
宍戸さんはされるままになっている。
「宍戸さん」
宍戸さんは絡めあった手を目の前に持ってくると、おもむろに俺の指をペロリとなめた。
「しし、宍戸さん!?」
思わず声が裏返る。
「おまえん家、寄ってもいいか?」
あぁ、この人にはホントかなわない。
下半身が疼く。
やっぱりしつけられてるのは俺の方だよな....そう思いながらも嫌な気はしない。
俺は宍戸さんの耳元で「今夜は寝かせませんよ」と囁いた。
「望むところだ」
宍戸さんはそう言い返してくると、ちょっと背伸びして付け足した。
「満足させろよ」
やっぱり彼にはかなわない。
手を繋いだまま、俺たちは帰り道を急いだ。


終わり

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