main

□やきもち
1ページ/1ページ


宍戸さんの膝枕で気持ち良さそうに眠っているのは芥川先輩。
部室に入ってすぐに飛び込んできた光景。
俺は、今までのわくわくしていた気持ちが、スウッと萎んでいくのを感じた。
「あ、鳳」
俺に気づいた向日先輩が「よっ」と声をかけてくれる。
俺はそんな先輩の態度に、少しだけ気持ちを持ち直して、「お疲れさまです」と短く挨拶した。
「お疲れさまって、疲れるのはこれからやろ」
忍足先輩が着替えながら俺に突っ込みを入れる。
「これからやでぇ。跡部の容赦ないメニューをこなさなならんのは」
「あ、ですね...」
そのまま三人で雑談しながら着替え始める。
横目でチラッと確認すると、宍戸さんは既に着替えを終えていた。
忍足先輩や向日先輩と言葉を交わしたお陰で、多少気持ちを切り替えることができた。
俺は宍戸さんと芥川先輩の方をあえて無視して、先輩二人との会話に集中するように努めた。
宍戸さんが俺以外の人に膝枕してる姿をまともに目にするには、俺のメンタルは弱すぎる。
イライラして、自分の気持ちがうまくコントロールできなくなる。
すぐにでも芥川先輩を、宍戸さんから引き離したい。
そんな気持ちを抱きながら、殊更冷静を装う。
宍戸さんはそんな俺を気にする様子もなく、芥川先輩を起こし続けているようだ。
その起こし方にしても、俺から見たら優し過ぎて腹が立つものだった。
そんなんで起きるわけないでしょう。
起こす気なんて更々ないでしょ?
そんな風に内心宍戸さんを責めるように悪態をついてしまう。
最終的に、最後に部室に現れた跡部部長に一喝されて、芥川先輩は宍戸さんから渋々離れた。
「なんかさぁ、ししどの膝って別格なんだよねぇ〜」
気持ち良くってさぁ。
固さがいいのかなぁ。
後、肌もすべすべしてるC。
芥川先輩の言葉に、向日先輩が「お前なぁ、宍戸じゃなくって女子にしてもらえよ。そういうのは」と呆れた口調で言い返す。
そんな二人を構うことなく、芥川先輩が膝から離れると、宍戸さんはさっさと部室を出て行ってしまった。

「宍戸さん.....」
その後ろ姿を見送り、力なく呟く。
無意識にため息が出る。
「おっかけた方がええんちゃう?」
俺の呟きが聞こえたのだろうか。
忍足先輩が背中を軽く押してきた。
「宍戸、きっと外で待ってるで」
この先輩は、何でもお見通しと言った風なことを言って、しょっちゅう俺の気持ちをかき乱す。
まさか。
そう思いながらも、宍戸さんが待っててくれたらいいなと淡い期待を抱きながら、慌てて部室を出た。
「宍戸さん」
ドアから少し離れたところに、宍戸さんが立っていた。
「行こうぜ」
そう俺に声をかけて、ラケットで俺の腰の辺りを軽く叩く。
それ以上の言葉はない。
でも、俺はそれだけで充分だ。
「はいっ」
宍戸さんが待っていてくれた。
それだけで俺の気持ちは、今までの憂鬱が嘘のように払拭されてしまった。

いつものきつい練習が終わった。
帰り道では、一人抜け、もう一人抜けと減っていき、とうとう俺と宍戸さんの二人きりになった。
「長太郎」
宍戸さんがふいに立ち止まる。
「なんですか?」
俺も足を止める。
「おまえさ、向日と忍足と何話してたんだ?」
宍戸さんの質問の意図がすぐには分からず、俺は返事につまった。
部活が始まる前の着替えの時かな?
二人と話していたのはその時しか思い浮かばない。
たいした話をしたわけじゃないんだけど。
俺がすぐに答えなかったことが気に入らなかったのか、宍戸さんがふて腐れたような表情で俺を見た。
「ま、話したくないならいいけどよ」
宍戸さんの機嫌を損ねてしまった俺は慌てた。
「違うんです!」
宍戸さんのムスッとした表情は変わらない。
「あまりにも他愛ない話だったんで、とっさに思い当たらなくて」
そう早口で答えると、宍戸さんは少し表情を和らげた。
「そっか」
返ってきた言葉は短いけど、宍戸さんの表情で機嫌が直ったことが分かる。
あぁ、やっぱりカワイイ。
ムスッとした顔もカワイイけど、やっぱり宍戸さんは笑った顔の方がカワイイ。
俺がそんな風に考えていたら、宍戸さんがそっと手を握ってきた。
宍戸さんから手を握ってくるなんて!
俺は滅多にない出来事にドギマギしながらも、その手をギュッと握り返した。
宍戸さんはゆっくりと歩き出すと、うつむいたままポツリと言った。
「俺さ、やきもち妬いてたんだ」
えっ?
宍戸さんの言葉が予想外過ぎて、頭がついていかない。
何も言えずにいる俺に、宍戸さんは更に続けた。
「こんな俺、嫌か?重いよ、な...」
決まり悪そうにしょんぼりとうつむいた宍戸さんは、ホントにもうかわいくて、俺は我慢できずに強引にキスをした。
「んんっ!?」
宍戸さんはびっくりしたようだけど、すぐに俺を受け入れてくれた。
何度も何度も、角度を変えてキスを繰り返す。
宍戸さんの唇を舌でなぞれば、俺の舌をおずおずと迎え入れてくれた。
嬉しくて止まらない。
宍戸さんを離したくない。
「宍戸さん、今日はずっと一緒にいて」
そう耳元で囁くと、宍戸さんは真っ赤な顔をして頷いてくれた。
普段、他の人といる時には決して見せない素直な態度に、俺の口角は自然と上がる。
「たくさん、おしおきしますから。楽しみにしていて下さい」
俺の言葉に、宍戸さんは体をピクリと震わせて、怯えたような瞳で俺を見上げた。
あぁ、なんてかわいいんだろう。
自分の中の嗜虐的な部分がぞわっと動くのを感じる。
宍戸さん、今日はあなたをたくさん苛めたい気分です。
やきもちを妬いたのはあなただけじゃないけど、俺を妬かせた罪はしっかりと償ってもらいますね。
そんな想いを込めて、俺はもう一度宍戸さんの唇にむしゃぶりついた。


終わり

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ