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□鳳長太郎の溺愛
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こんなに好きなのに、こんなに見てるのに、どうして気づかないの?
鈍感にも、ほどがありますよ。


帰り道、宍戸は隣の鳳に今日の練習の反省点を一生懸命話しかける。
いつもの光景だ。
鳳は「はい」「はい」と相づちを打ちながらも、頭では別のことを考えていた。
そんな鳳の様子に、宍戸が気づかないはずもなく、「聞いてるか?長太郎?」と、拗ねたような口調で問いかける。
不服そうに自分を見上げている宍戸に、鳳は慌てて取り繕って応えた。
「ちゃんと聞いてますよ、宍戸さん」
ニコッと微笑みを向ければ、宍戸はほんのりと頬を赤らめ「ならいいけどよ」と、多少不服そうながらも納得するのだ。
ちょっとしたことで頬を赤らめる宍戸。
(多分、宍戸さんも俺のことを意識してるんじゃないかとは思うんだけど.....)
でも、他のレギュラー達とも同じように仲が良いから、宍戸が自分だけを特別に好きだと言う確信が得られない。
再び自分の考えに捉えられていた鳳を、宍戸が横からコツンと小突いた。
「いたっ!」
たいして痛みなんてなかったが、鳳は条件反射で思わず言ってしまった。
「あ、わりぃ」
宍戸は鳳の言葉をまともにとったようで、すぐに謝る。
そしてついでとばかりに鳳の頭をくしゃくしゃと撫でた。
普段は勝ち気で口が悪いくせに、鳳と二人でいる時の宍戸は驚くほど素直だ。
肩肘張る様子もなく、リラックスしているように見える。
そんな素直さが、更に鳳を煽ることを宍戸は知らない。
(カワイイ...)
鳳の口元に無意識に笑みが浮かぶ。
その笑みに宍戸はホッとしたように、自分も自然と笑顔になった。
そしてもう一度、鳳の頭をワシャワシャとかき回した。
「今日のおまえボーッとし過ぎ。なんかあった?」
面倒見が良く男らしい。
しかし、態度は粗いし素っ気ない。
テニス部の後輩達は皆、宍戸のことをそう評している。
でも、自分だけは宍戸の別の一面を知っている。
見せてもらっている。
こんな風に気遣われ、優しい言葉もかけてもらえる。
それは数多くいるテニス部員の中でもわずかで、後輩の立場なら自分だけの特権と言ってもいいだろう。
そのことが、鳳に優越感を感じさせる。
でも、きっとまだあるはず。
自分にも、他のレギュラー達にも見せていない顔が。
それこそ、親にだって見せない顔があるだろう。
鳳はそれが見たいのだ。
そして宍戸が自分でもまだ気づいていない顔を知り、独り占めにしたい。
自分の中で日々成長していく独占欲。
最近では、鳳自身ももてあまし気味なのだ。
できればこの想いを受け入れてほしい。
それは無理な願いなのだろうか。
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