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□屋上
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屋上が好きだ。
あの人に、会えるから。

「長太郎」
手すりに凭れるようにしながら校庭を眺めていた宍戸さんが、俺に気づいて声をかけてくれる。
この瞬間が好きだ。
扉を開けると、こっちを振り返るより前に「長太郎」と呼びかけてくれるこの瞬間が。
なんで宍戸さんには分かるんだろう?
屋上に来たのが俺だってことが。

一度、宍戸さんを試したことがあった。
この話を忍足先輩と向日先輩にした時のことだ。
向日先輩が、「扉が開いたら、とりあえず「長太郎」って言ってんじゃないの?」なんて言い出して、俺がむきになって否定したら、「じゃあ確かめてみようや」と忍足先輩が言ったのがきっかけだ。

最初、向日先輩が扉を開けた。
その様子を俺と忍足先輩は屋上に続く階段で見守っていた。
それから少し時間をおいて、今度は忍足先輩が扉を開けた。
扉の向こうで、どんな会話が繰り広げられているんだろう。
ドキドキして、足がすくんだ。
もし、向日先輩が屋上に出た時に、宍戸さんがいつものように「長太郎」って声をかけていたら?
そしたら俺は、一体どんな気持ちになるのだろう。

いよいよ俺の番。
胸元のクロスをグッと握りしめて、取っ手を回した。
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