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□鳳長太郎のライバル3
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「おはよう、宍戸さん」
朝、待ち合わせをして朝練に行く。
宍戸さんは少し照れくさそうに笑い、片手を上げて応えてくれる。
「おはよ、長太郎」
学校に着くまでのささやかな時間。
この二十分が、俺にとっては毎日の楽しみであり、この日一日の元気の源なんだ。
誰に遠慮するでもなく、宍戸さんを独り占めできる贅沢な時間。
朝練が終わると、そこからはお互いに別々の時間を過ごさなくてはならないけど、休み時間毎に宍戸さんの元へと通っている。
ほんのちょっとの時間でも、宍戸さんの顔が見たい。
話がしたい。
「いつも俺のとこまで来るんじゃ大変だろ?たまには俺が行ってやろうか」
付き合うことになってから、宍戸さんが恋人には甘い人なんだと知った。
宍戸さんが教室に会いに来てくれる。
その光景を想像してみる。
「長太郎」
そう言って俺を呼び出す宍戸さん。
あの宍戸先輩がわざわざ後輩の教室まで来るなんて!
クラスメイト達の驚きと羨望の眼差しに対する優越感。
半端なく魅力的だ。
でも!
俺は高瀬の顔を思い浮かべて断った。
あいつの目に、必要以上に宍戸さんを触れさせたくない!
ぼんやりと想像に耽る俺を、宍戸さんが心配そうにのぞきこむ。
「おい、長太郎。おい」
「あっ、はい、宍戸さん」
「ぼーっとして、大丈夫か?疲れてんのか?」
「ぜんっぜん大丈夫です」
力強く答えると、宍戸さんも安心したように笑顔を見せてくれた。
俺の教室には何かと危ない要素があるからとしつこいくらいに説明し、それから丁寧に宍戸さんの申し出を断り、改めてくれぐれも一人で俺の教室に来ないようにと念押しして言った。
特に俺に連絡なく来てはいけないと、口をすっぱくして言った。
宍戸さんは納得がいかないのか、少し不満そうに口をとがらせて「変なの」とかブツブツ言っていたけど、俺はそれをスルーした。
宍戸さんを高瀬の目に触れさせるのが嫌だ、と言うよりも、怖い。
高瀬は宍戸さんに真っ直ぐに自分の気持ちを打ち明けた。
俺がずっと悩んでできなかったことを、奴はやってのけた。
その潔さが宍戸さんと共通していて、二人はもしかしたら似たタイプなのもしれない、そう思ったら今まで以上に不安になってきた。
だから、できるだけ宍戸さんには高瀬に接触してほしくない。
俺の自信のなさが宍戸さんを窮屈にさせてしまっていることは、十分にわかっている。
でも、今はまだ我慢してもらうしかないんだ。
ホントに、ごめんなさい。
俺は心の中で、宍戸さんには伝わらない「ごめんなさい」をした。

宍戸さんの教室前で別れ、俺は急ぎ足で自分の教室に向かった。
もうすぐ本鈴が鳴る。
チャイムが鳴る前に、なんとか席に着くことができ、俺はホッと息をついた。
視線が自然に高瀬の席に向かう。
高瀬が宍戸さんを好きだと気づいてから、俺は高瀬の動向をチェックするのが癖になっていた。
(今日は来てないみたいだな)
安心からため息が出た。
宍戸さんは俺を好きだと言ってくれた。
俺の気持ちを受け入れてくれた。
それでも、俺は高瀬に怯えてしまう。
高瀬の潔さやその外見に、宍戸さんが心変わりしてしまうんじゃないかと不安を感じる。
宍戸さんを信じられないというのではなく、俺は自分に自信が持てない。
宍戸さんはああいうひと人だから、一度俺を受け入れてくれたら、自分から突き放したり裏切ったりはしないだろう。
信じている。
宍戸さんのことは。
信じられないのは、自分自身。
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