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□仕掛ける
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放課後、宍戸さんの教室まで彼を迎えに行くのが俺の日課だ。
今日から定期テスト一週間前ということで、部活動は全面禁止。
ホームルーム終了後は、速やかに下校すること、と決まっている。
俺は宍戸さんの教室に向かいながら、帰り道、どうやって宍戸さんを自宅に誘おうかと頭の中で策を練っていた。
そこへ後ろから声をかけられる。
「よぉ、鳳じゃん」
ポン、と肩甲骨の辺りを軽く叩かれる。
振り返ると、向日先輩と芥川先輩が立っていた。
「りょーちゃんのお迎A?Oとりはほんと、マメだねぇ」
芥川先輩の言葉に苦笑を漏らす。
「りょーちゃんはまだ教室にいたよ。じゃーねぇ〜」
そう俺に教えてくれると、二人の先輩ヒラヒラと手を振って、昇降口へと連れ立って行った。

宍戸さんの教室の後ろのドアから室内を覗くと、宍戸さんが俺の知らない男子生徒と何やら熱心に話し込んでいた。
恐らく、テニス部員ではないだろう。
教室には宍戸さん達二人しかいなかったから、俺は足音を立てないように気をつけながら、そっと宍戸さんへ歩み寄った。
宍戸さんの前の席に男子生徒が座り、椅子の背にもたれるようにして、宍戸さんの机上に広げられたノートを覗き込んでいる。
宍戸さんもノートを覗き込んでいるから、二人の距離が異様に近かった。
男子生徒は近づいて来た俺に気づいて顔を上げたけど、宍戸さんはまだノートを真剣に見ていて気づかない。
そっと唇に人差し指を当て、静かにとジェスチャーすると、男子生徒は小さく頷いた。
そして俺は、そのまま宍戸さんの背中にガバッとのしかかった。
「うわっ!?」
宍戸さんが驚きの声を上げ、背中にへばりついている俺を振り返った。
「なんだ、長太郎かよ。おどかすなよなぁ」
何をそんなに熱心に見ていたのかとノートを覗くと、そこにはたくさんの数式が書かれていた。
「数学ですか?」
「おう。わかんねぇから、こいつに教えてもらってた」
こいつ、と言われた男子生徒は、「じゃ、俺はそろそろ帰るよ」と言って席を立ち、宍戸さんの頭にポンと手を乗せた。
「じゃあな、宍戸。残りの問題がんばれよ」
「おぅ。サンキューな」
宍戸さんも笑顔で挨拶し、男子生徒は鞄を手に教室から出て行った。
残ったのは俺と宍戸さんの二人だけ。
宍戸さんは机の上のノートや教科書、筆箱をまとめると、手早く鞄にしまった。
「待たせたな。じゃぁ、俺らも帰るか」
宍戸さんの言葉を無視して、後ろから座っている宍戸さんを抱きしめる。
「どうした?長太郎」
「ごめん、ヤキモチです」
宍戸さんの首筋に軽くキスをして、耳元で囁くように答えると、宍戸さんは体をフルリと震わせた。
「さっきの人と、なんか仲良かったから...」
「......」
宍戸さんはクルリと振り返ると、俺の唇に優しくキスをした。
「!?」
学校では極力こうした行為はしない!
付き合う時に宍戸さんと交わした約束だ。
それでも、ついつい宍戸さんに触りたくて俺からスキンシップを仕掛けちゃうことはあるんだけど、宍戸さんから俺に触れてきたりすることはほとんどなかった。
ましてや教室でキスなんて。
思いもしなかった宍戸さんの行動に、俺がびっくりして宍戸さんの顔を凝視していると、宍戸さんは顔を真っ赤にして俯き、小さな声で言った。
「だって、長太郎が首にキスするから、我慢できなくなっちまった...」
俺はすぐに宍戸さんの手を取って立たせると、「は、早く帰りましょ」と言って引っ張るようにして教室を後にした。
帰り道、宍戸さんの手を握ったまま「俺、キスだけじゃ我慢できないんで、家に寄って行きませんか?」と露骨なお誘いをすると、宍戸さんはまた真っ赤になって小さく頷いてくれた。


終わり
 

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