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□抱きしめる
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長太郎に抱きしめられる時、俺は前から抱きしめられるよりも、後ろから抱きしめられる方が好きだ。
いつも言葉にして伝えられない気持ちを、ちゃんと口にして長太郎に伝えられるから。


部活を引退したタイミングで、長太郎から告白されたのは三ヶ月程前のこと。
真っ赤になって、声も震わせていたけど、目は真っ直ぐに俺を見て、震える声で「宍戸さんが好きです」って告白してくれた。
長太郎の様子から、いつもジローや岳人に鈍い鈍いって言われてる俺も、さすがにこれは先輩後輩としての好きって意味じゃねぇなって分かった。
そして、長太郎からの告白がめちゃくちゃ嬉しい自分の気持ちにも、これが恋愛感情からくるものなんだって分かった。
「ありがとよ。俺も長太郎が好きだぜ」
素直にそう応えたら、長太郎は喜ぶどころか泣き出しそうな顔で「違うんです」って言った。
違う?
違うってなんだよ?
あ、もしかして「先輩に告白する」とかそういう罰ゲーム的なもんであって、本当の告白じゃないってことか?
そんな考えが頭をぐるぐる回り出す。
俺、からかわれたのか?
そんな気持ちで長太郎を見上げたら、長太郎は切羽詰まった顔で俺を見下ろしてた。
目が合ったと同時に、肩をがしっと掴まれて、俺は正直飛び上がる程びっくりした。
でも、さすがに後輩にビビってるなんて思われたら激ダサだから、平静を装って怒ってる雰囲気を出しながら「なんだよ?」ってぶっきらぼうに聞いてみた。
「こういう風に、好きなんです」
そう言って長太郎は、俺をぎゅっと抱きしめた。
押し付けられた体は、心臓の鼓動がありえないくらい速くて、おいおい大丈夫かよ?って聞きたくなった。
でも、そんなこと聞いてこの雰囲気を壊すのは嫌だったし、多分俺の心臓も負けないくらい速く動いてるだろう。
俺は同じ気持ちだよ、って意味を込めて、長太郎の広い背中に腕を回して抱きしめ返した。
長太郎はびっくりしたのか、体をびくっと震わせたけど、俺が回した腕に力を込めると俺の髪を優しい手つきで梳いた。
頭を撫でられたり、髪を梳かれたりなんて、この年でされることなんてなかったけど、長太郎の優しい手つきは気持ち良くて安心できた。
「俺だって、お前のこと好きなんだよ」
思いきってもう一度口にしたら、長太郎は俺の頭を抱き込むようにしてから口づけた。
「じゃあ、俺と付き合ってもらえますか?」
いつもより低い、掠れたような声で囁かれて、俺は体をびくつかせてしまった。
激ダサ。
でも、長太郎もそこまで余裕がないのか、何も言わない。
俺は「いいぜ。これからよろしくな」と返事をした。
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