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□日常
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「ちょーたろ、ダメ...人、来る、」
宍戸がキスの合間に弱々しく鳳を制する。
しかし、その声は甘く蕩けるように鳳の耳に響き、欲望を更に煽られる。
鳳はその言葉を飲み込むように、より深く宍戸を飲み込む。

屋上に上がった時には、こんなつもりじゃなかった。
少なくとも宍戸はそうだった。
鳳の方はあわよくば、という気持ちがなかった訳じゃないが。
仕掛けたのは鳳だが、鳳から言わせれば、煽ったのは宍戸だ。
最初は幼い、戯れるような軽いキスだった。
ちゅっちゅっと啄むようなキスをしていたはずが、いつの間にか夢中になって、気づけば宍戸の唇を食べ尽くしてしまうような激しいキスを仕掛けていた。
いつも、コートの上では傍若無人に振るまい、キツイ眼差しで周りの部員を圧倒し、魅了する。
下級生の中には、そんな宍戸の男気に惚れている者も少なくない。
しかし、鳳と一緒にいる時は、普段の姿とは一転して、鳳の意思・意見を尊重してくれる。
無意識に甘えるような態度も取る。
こんな姿を見せられて、我慢なんてできるはずがない。
自分にだけ、自分だけが許されているという優越感。
周囲に自分達以外の人間がいれば多少の自制は利かせるが、こうして二人きりになってしまうともうだめだ。
愛しい気持ちが溢れだし、そして触れていたくなる。
だめだと言われても、その言い方は決して自分を拒んでいない。
「うん...でも、もうちょっと...」
鳳が甘えるようにそう言うと、宍戸の両腕が鳳の首に回される。
「んっ...ちょう、た、ろ、もっと...」
「りょう、好き...」
鳳が宍戸の名を呼べば、宍戸の頬がさっと赤らむ。
未だに名前で呼ばれるのには慣れない。
心臓がありえないくらいにドキドキする。
鳳が宍戸を名前で呼ぶ時は、いつもより声が低くなる。
「りょう、りょう」
鳳は熱に浮かされたように、宍戸の耳元で何度も何度も囁く。
「好きだよ、大好き」
宍戸はその言葉に瞳をトロンとさせている。

「あ、」
がちゃっ、と屋上に出る扉が開いた。
向日と日吉が顔を見合せる。
「お前も?」
「向日さんもですか?」
「無理そうだな」
「戻りますか」
二人はそれぞれため息をつくと、そのまま静かに扉を閉めた。
氷帝D1の邪魔をする勇気を、二人は持っていなかった。


終わり
 

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