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□両想いになったから
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この日は珍しく、鳳が宍戸の三歩程前を歩き、その広い背中をぼんやりと眺めながら宍戸がその後ろを歩いていた。
普段とは違う二人の立ち位置。
そして二人の間に漂う空気もまた、いつもとは違いどこか緊張感を帯びていた。
しかし、そう感じているのは鳳だけで、一方の宍戸はどこか心ここにあらずと言った風だった。
不意に鳳が立ち止まったので、ぼんやりと規則的に足を出していた宍戸は、危うくその背にぶつかりそうになった。
寸でのところでなんとか踏みとどまり、ぶつかることは避けたが、不審げな目で鳳を見上げる。
「なんだよ、長太郎。急に止まったりして」
そう不満を口にした宍戸だったが、鳳の表情にすぐに口を噤んでしまった。
自分を見下ろす鳳の目が、優しく、でもどことなく悲しそうで、そして……気のせいだろうか、どことなく獣めいた色を帯びていたから。
宍戸は鳳に射すくめられたかのように、その身を動かすことなくその場に立ち尽くした。
ただ見下ろされているだけなのに。
いつもと変わらないはずなのに。
それなのになぜ自分の体はこうも強張っているのか。
後輩にビビるなんて激ダサ。
そう自分を叱咤するが、考えとは裏腹に体の強張りは解けない。
鳳は立ち尽くしたままの宍戸に手を伸ばし、自分の両手でそっと宍戸の両手を包み込んだ。
「宍戸さん……」
「な、なんだよ…」
鳳の醸し出す雰囲気に、宍戸は耐えられなくなり、その顔は徐々に下を向いていく。
「宍戸さん」
もう一度鳳が宍戸を呼び、そしてそっと包んでいた両手に力を込めた。
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