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□鳳長太郎のライバル3
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先輩についてやって来たのは、屋上に続く階段の踊り場だった。
放課後、まだ残ってる生徒達の声は聞こえるけど、人影はない。
先輩は俺に向き直ると、しっかりと俺と視線を合わせた。
俺もしっかりと先輩を見つめる。
「前に、付き合ってくれって言っただろ?」
無駄な話はなく、早速本題に入る先輩。
こういうところはやっぱり男らしいと思う。
好きだなぁ。
改めて実感すると同時に、ツキンと胸が痛んだ。
「俺、好きな奴がいるんだ」
知ってます。
あなたが自覚するよりも前から、俺はあなたの気持ちに気づいていました。
心の中で伝える。
口はカラカラに渇いて、声を出すことができない。
俺が黙っていると、先輩は更に続けた。
「そいつと付き合うことになった。おまえの気持ちはありがたいと思ったけど、ごめん...」
俺の好きになった人は、やっぱり最高にかっこよくて、カワイイ人だと思った。
最後までこんな姿見せられたんじゃ、諦めきれない。
我ながら未練たらしいとは思うけど。
俺はそんな内心を押し殺して、先輩に笑いかけた。
「はっきり言ってくれて、ありがとうございます」
俺の言葉に先輩が申し訳なさそうに目を伏せた。
「でも、俺はやっぱり先輩が好きです。いつか振り向いてもらえるような、そんな男になりますから」
それだけ言って、俺は先輩に一礼すると、その場を後にした。

高瀬の後ろ姿を見送った俺は、しばらくその場から動けなかった。
あんなにもストレートに自分の気持ちを伝えられるあいつに、圧倒された。
真っすぐ過ぎるほどの好意。
他人にあんな風に求められたことはなかった。
目つきがきつくて、言動も乱暴なのは自覚している。
そんな俺を慕ってくれた後輩は、後にも先にも長太郎だけ。
長太郎以外から向けられる好意なんて、生まれて初めてだ。
見えなくなった高瀬を、いつまでもその場で見送っていた。
ありがと。
お前の気持ちに応えられなかった分、俺は長太郎と幸せになるから。
そう気持ちを新たに踵を返すと、ふとこっちを陰から伺う気配に気づいた。
はぁ、と大きな溜息が漏れる。
ったく、心配性なんだから。
呆れると共に、心の奥がジワッと温かくなった。
「長太郎」
俺の声に、壁の陰から俯きながら姿を現した長太郎。
俺は近づいて、その手を取った。

怒られるか、呆れられるか。
宍戸さんの言葉を内心ビクビクしながら待っていると、俺の手が優しく取られた。
びっくりして顔を上げると、俺に微笑んでいる宍戸さんが目の前にいた。
「心配してくれたのか?」
怒るでもなく、呆れるでもない、優しさに満ちた言葉。
俺は目が潤んで来るのを感じた。
「ししど、さん...」
「泣き虫」
クスッと笑うと、俺の頬にそっと唇を寄せてくれた。
「ごめんなさいっ、俺、」
「謝んなよ」
そう言うと、そっと俺を抱きしめてくれた。
「俺が長太郎の立場だったら、やっぱり同じようにしたと思うぜ」
俺達はしばらくその場で抱き合ったまま、動くことができなかった。
宍戸さんの鼓動が伝わってきて、それがとても心地好い。
ずっとこうしていたい。
「さ、部活行くぜ」
宍戸さんが俺の背中を軽く叩き、俺も渋々宍戸さんから体を離した。
「今日も気合い入れていこうな」
「はいっ!」
俺達は連れ立って部室に向かった。

今日は俺も宍戸さんも絶好調で、試合形式の練習でも忍足先輩、向日先輩ペアに圧勝だった。
「あかんわぁ」
「なんかますます息合ってきてるじゃん」
向日先輩の言葉に、思い切り笑顔になってしまった。
「あーぁ、嬉しそうに」
「ほんま、鳳は宍戸が好きやねぇ」
半ば呆れたように言われるけど、それも俺には嬉しい言葉。
「長太郎とだとやりやすい。考えなくても自然と動きが合ってるって感じで」
宍戸さんの言葉に、俺はもう我慢できなくなってしまった。
「ししどさぁーん、嬉しいです!」
そう言って思わず華奢なその体をギュッと抱きしめてしまった。
「ば、ばか!長太郎!ここコートだっ!」
真っ赤になって、俺の腕から抜けだそうとする宍戸さんを、忍足先輩と向日先輩がからかう。
そんな時間が、とっても幸せだ。
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