短編棚R

眠る眠らない姫
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―――・・・キィ、

控えめながらも扉の開く音に顔を上げる。
廊下に続く扉を視界に入れれば、隙間から見慣れた金髪が姿を見せた。

ベッドの上で眠る彼女が全く反応しないのを確認したらしいベルは、
するりとその室内に滑り込んだ。


「何のご用事ですかー」
「まぁいつもの体勢だな、流石に慣れたぜ。
 クソガエルなのが気に食わねーけど」


フランの発言をガン無視して感想第一声。

問い自体に返答は無かったものの、フランは気にせず息を吐き出した。


「センパイこの後任務じゃないですかー。
 しかもあっちもこっちも暇人居なくて相手云々にぶつくさ言われてもー」
「そーなんだよな。 だから出発前にちっとな」
「?」


今更冒頭の問いに返事が来た。 フランの頭上に疑問符が浮かぶ。

ベルは室内をカツカツと歩いてきては、
フランの腕の中でぐっすり眠っているメーゼの様子を伺った。

「ちょい借りるぜ」と一言、右肩を下にして寝転がっていた
メーゼの左肩を掴み、仰向けにさせる。

室内に入ってきた時には気づかなかったが、
水の入ったペットボトルを手に持っているらしい。

更にポケットから錠剤を取り出すベルに、怪訝そうな顔をするフラン。


「・・何する気ですー?」
「マーモン特製超強力睡眠薬飲ませようとしてる。 あ、因みに即効性な」
「マジかこの王子・・・既に寝てるのに眠剤かよー・・・」


呆れた。 睡眠薬使うタイミングが違う気がする。
大体本来は寝付く30分とか1時間前に飲む奴では。


「どうせ陽が落ちるまでとか、夕飯までには起きるからとか言ってんだろ」
「言ってますねー」
「メーゼ睡眠時間少なすぎだと思わね?」
「思いますー」

「だからこれ」
「アホなんですー?」


ドが付くほど垂直な感想が飛び出てきた。 アホなのか。

もしかしたら本人に言えば本人が意識のコントロールとやらで、
入眠時間増やすかもーと思ったが。

そもそも声掛けるのが本人的に「若干辛いかな」のタイミングらしい。
あぁ、当の本人がアホだった。 無理しすぎなんだ。


「でもコイツ基本効かねーんだよ。
 この間ルッスに捕まって茶会した時に混ぜたけど落ちねーの」
「マジかこの女・・・」
「他にも2回くらい試したけど、まーハズレ」
「マジかこの女・・・・」


仰向けのまま、寝息を立てているメーゼに視線をやるフラン。

マーモンセンパイ特製の超強力睡眠薬カッコ即効性だろうに。

毒が効きづらい体質だとは聞いていたけど、
その体質は睡眠薬にまで反映されるのか。

そんなことを考えているうちに、彼は平然と錠剤をメーゼの口の中に放り込み
持ってたペットボトルのキャップを開け、水を飲ませた。

この堕王子もやっぱアホだ。 マジでやりやがる。

水を飲ませた際に、口から少し零れた水を
ベルは親指で掬っては「おーわり」と呟いた。

しししっ、と彼特有の笑いも添えて。


「まぁ実験半分、ガチ半分なんだけど。 当たればラッキー」
「寝すぎちゃったらメーゼセンパイびっくりしちゃうんじゃー?」
「は、累計で数えりゃこれでも足りないくれーだぜ。
 ちったぁ寝過ぎたって誰が怒るかよ」


・・・まぁそれは それは確かにそうだが。
彼女の起床時の驚きの話をしていたのだが。

フランは寝転がっていた状態から仰向けになり、
脚を軽く振って上半身を起こす。

ふとメーゼへと目を向ければ、ベルが体勢を戻してやったのか
仰向けから再度右肩を下にして寝転がっていた。

首元、服や耳に引っかかっていたメーゼの蒼い髪を後ろに払い除けては、
こともあろうかベルは高度を落とし、彼女の首筋に唇を当てた。


「・・・なんで他の人間が居る時にそんなんするんですー」
「いや、コイツ首綺麗なんだよ」
「すーんごい変態チックですね」
「てんめー・・・」


低く怒り混じりの声と、額に青筋がビシッと入ったのがフランには見えた。

おっと、ナイフが出てくるか。
そういや今ミーカエル無いぞ、ピンチ。 防御が薄い。

身構えたミーに、堕王子は今まさしくナイフを
取り出・・・そうとした手を下ろした。

・・・おっと。
思わず瞬きしてしまった。 少し意外。


「・・寝てるメーゼの傍でまでは騒がないでいてやるよ。
 席外す時は誰か幹部呼べよ」
「分かってますー」





(首にキス程度であーだこーだ言うのはガキかもしんないですけどー・・)

(・・・何かされてんじゃないですかー)





 
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