短編棚M

突然の雨もどうにか!
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仕事中に急に土砂降りになり、窓をザァザァと打ち付ける雨に溜息を付いた。

今日時間なくて天気予報見ずに慌てて出てきちゃったんだよなぁ。
よりにもよってそんな日に大雨が降るだなんてツイていない。

勤務時間を終えて客足も少ない平日の時間帯、
ゆったりした空気のカフェの1席に腰を下ろし窓の外をじっと見つめる。

通り雨ならばしばらくすれば止むと思うけれど雨雲どうなってるだろう。
鞄の中からスマホを取り出して雨雲レーダーを調べる。


「桜ちゃん帰れそう?」
「うーん、しばらく雨宿り・・・かな。 すみません」
「別にいいのよ。 桜ちゃんには日頃お世話になってるし」


にこやかな笑顔で返事をしてくれた仕事先のカフェの店長に一言礼を述べた。

・・お世話になってるって言われても、
普通に時間通りに仕事してるだけなんだけどなぁ。

謙遜ではなく事実を述べた言葉は心の中で呟いて。
勤めてる仕事先がこのカフェでよかったと本当に思う。

スマホで調べた雨雲の様子は通り雨と呼ぶには少々広範囲で、
思ったより足止めを食らいそうだった。 うーん、不運。

折り畳み傘まで忘れてしまうとは。
そういえばこの間鞄の整理した時に一旦抜き出した気がする。

マンションの皆に連絡したら傘を持って迎えに来てくれる気はしたけれど、
学校帰りに大雨の外を歩かせるのは申し訳ない気がした。

さて、困ったな。 どうしよう。

置き忘れて数ヵ月経った客の傘を今日だけでも借りて行こうか。
もう少し待ったら車通勤のパートさんが仕事上がりになるな。

帰宅方法に頭を悩ませた矢先、扉の上部に取り付けられた鐘が
カランカランと音を立ててカフェの扉が開いた。


「いらっしゃいませー」
「あ、すんません。 俺は客じゃなくてー・・」


反射的に反応する従業員に対して控えめに否定の声を発し、
差していた傘を閉じ店内に一歩歩き出す男性。

きょろきょろと辺りを見渡す見覚えのある金髪、聞き慣れた声、え。


「あれ、黄瀬君?」
「あ、紅咲っちそこに居たんスか!」


呼びかけた声に気付いた黄瀬君は、
私が座っているテーブルに近づいてほっとした様子を見せた。

学生服、肩に掛けたスクールバッグと両手に持った傘。

片方は先程まで差していた傘らしく濡れきっており、
もう片方は傘の下に避難してあったのか乾いてた。


「よかった、濡れて帰ったんじゃないかと思ったっス」
「まさか。 大丈夫だよー」
「もしくは先に迎えが来ててすれ違っちゃったとか」
「頼むの気が引けちゃって」


カフェからマンションまではそこそこな距離がある。
大雨の中その距離を濡れて帰ろうとは流石に思わない。

私の返答に黄瀬君は「紅咲っちらしいっス」と笑った。

ソファから立ち上がって黄瀬君が差し出してくれた傘を受け取る。
客じゃない様子で私と話し込む声が届いたのか、店長が厨房から顔を出す。


「あら、噂の黄瀬君じゃない」
「どもっス。 紅咲っち迎えに来ました」
「雨宿りありがとうございました」
「気にしなくていいのよー」


ひらひらと手を振って見送ってくれる店長や同僚、先輩に小さく頭を下げ、
黄瀬君が開けっ放しで待っていたカフェの扉を潜り抜けた。

濃い雨雲が覆う空のせいで真っ暗な外、相変わらずの雨。
踏み出す一歩を重く感じながら傘を開けた。


「黄瀬君、私が傘持ってないこと気付いてたの?」
「そりゃー勿論気付いてたっスよ?
 今朝珍しく慌てて出て行った時に両手に傘ないの見てたっス」
「わぁ、よく見てる」

「紅咲っちが折り畳み傘持ってる可能性も考えたんスけどね!
 ない迎えよりある迎えかなって!!」
「大正解だった、ありがとう。 折り畳みも忘れちゃったの」
「へへ、良かったっス」


それぞれ傘を差して並んで雨の歩道を歩く。
本当に助かった、本日の救世主。

大粒の雨は歩道に落ちては跳ね、少し歩けば靴下が湿っていく感覚がした。


「学校帰りにしちゃ遅いよね、お仕事?」
「そうっス。 部活の後じゃないと平日は暇ないスし」
「なんてったって現役高校生だもんねぇ」

「っま、どっちも好きだし続けられるんスけど」
「あ、今いいこと聞いた」


現役高校生で片手にモデルの仕事、バスケ部スタメン。
並の体力じゃままならないよ絶対。

いつかそんな掛け持ちで大丈夫かと問うたこともあったが、
爽やかな笑顔で「好きなんで大丈夫っス!」と答えられてしまった。

好きから来る動力源って凄い。

尚こうして感動した後に続いた言葉は
「キツいなと思ったら迷惑掛けない程度にサボるっス!」

・・・い、潔い。

一応体調は考えて調整しているみたいだから、
それ以上は言及はやめておいた過去を思い出す。 懐かしいなぁ。

雨の音混じりに歩道を歩いていれば、
すぐ左の曲がり角から今度は見慣れた赤毛の高校生。

顔を上げたら黄瀬君もすぐ理解したようで足を止めた。


「あーっ、赤司っちじゃないっスか!」
「・・・涼太か、それと桜」
「こんばんは赤司君。 遅いね、今帰り?」
「あぁ、夕方くらいに電車の事故があったらしくて」


あ、だからこんなに帰り遅いのね。

納得した様子を見せる私に赤司君は1つ頷くと、
マンションへの道を歩いていった。 後を追う黄瀬君と私。


「洛山って電車通学っスもんねぇ・・」
「そういう涼太だって市バス使っているだろう」
「市バスで足りるレベルっスよ」
「こっから一番近い高校・・・あ、誠凛か」


歩いて行けるし。 25分は掛かるけど

陽泉は確か洛山とは真逆の方向だけど、この辺りからだと電車通学必須か。
どっちの方が遠いんだっけ。


「そういや桜、今日は随分帰りが遅いな」
「傘持ってくの忘れて職場で雨宿りしてたの」
「その傘は?」
「俺の傘っスけど」


黄瀬君の発言に、振り向いた赤司君の瞳が妙に鋭く光った、気がした。

・・・・何、今の。
言い知れぬ寒気を感じたような。


「赤司君・・どうかした?」
「別に何でもない。 気にするな」
「紅咲っち、俺今凄い殺気を感じたんスけど・・・・」
「えー・・・っと、私はどうすればいいかなぁ」



(あ、そうだ黄瀬君。 傘ありがと、助かった)
(どーいたしまして。 お礼はほっぺにちゅーでいいっスよ?)
(涼太、今すぐ地獄を見たいようだな・・・)
(ちょっ、冗談じゃないっスか! (ちゅ) !!)

(・・・今すっごくムカつきました)
(? 黒子君、お望みならやったげようか)
(え、待! 紅咲っち、それはダメッス!
 うわぁぁ、赤司っちハサミ向けないでくださいぃぃい!)
(紅咲さん、肩貸してください。 不貞寝します)





 

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