短編棚M

年末大掃除は各々で!
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「もー緑間っち そんなんだから大掃除大変なんスよー?」
「そーそー 毎日懲りもせずラッキーアイテム買うしさぁ」
「うるさいのだよ! ラッキーアイテムは毎日、
 肌身離さず持ってこそのラッキーアイテム!!」


開いた玄関の外からワーワーギャーギャー聞こえる声に笑って、
玄関の方に置いてたダンボールを、よっ と持ち上げた。

開けたままの玄関を出て肘で閉める。

エレベーターの方に少し歩くと向かい側から玲央ちゃん。


「あら、桜ちゃんはそんだけでいいの?」
「うーん、そうだね 今のところは。
 割りとすっぱり捨てるから、あんま残ってないや」
「桜ちゃんらしいわ」


とか言う玲央ちゃんも少ない方じゃない? と
私が持ったダンボールより一回り大きいダンボールを見る。

少し上げた膝でダンボールを支えて、エレベーターの降下ボタンを押す。


「残念ながらこれ2箱目なのよ」
「あ、そうなの」


エレベーターが到着して、ウィーンの中が開く。
おや、空っぽだ。 誰も居ない。


「重そうね。 持とうかしら?」
「ちょっと重いけど平気平気。 セット料理2つ持ってるレベル」
「・・・それ結構重いんじゃない?」


ヘーキヘーキ。 笑いながらエレベーターに乗り込み、
玲央ちゃんが中に入ったのも確認して、1階のボタンを押す。

閉まるドアと、ウィーンという機械音を立てながら
1階に降りるエレベーター。 迎えた1階。


「あ、紅咲っちに実渕さん!」


笑顔で、ぱたぱたと小走りで走ってきた黄瀬君。
ロビーに居た何人かも、こちらをくるりと振り向いた。


「紅咲っちと実渕さんはこれで終わりっスか?」
「うん。 いうほど捨てるものもなくて」
「私はもう少し確認してからよ。 そういう涼ちゃんは終わったのかしら?」
「あ、俺ももーちょい残ってるっスけど」


緑間っちと青峰っちの大掃除が心配なんスよ
と、麻雀テーブルから少し離れたところを指差した先。

大量のダンボールをガサガサ漁っている緑間君を、
苦笑いしながら黄瀬君が見ていた。

ああ、ラッキーアイテムか。 確かにしょっちゅう買ってた。

玲央ちゃんはこの箱置いてくるわね、と一言言って玄関の方に歩いていった。


「そんで青峰っちは整頓しない人だし、
 だりぃだりぃ言いつつ手動かしてるっス」


と、開けっ放しの青峰君の部屋の扉を指差して、
黄瀬君はまたも苦笑いをこぼした。

それでなんスけど、 とちょいちょいと手招きをされて
ダンボールを持ったまま黄瀬君に近づいた。

黄瀬君は屈んで小声で私に耳打ち。
言い終えた黄瀬君は、両手を合わせて「すませんっス!」と言った


「オーケーオーケー。 構わないよ、私は」
「マジっスか! あざっす!」


これ持つっスよ、と軽々ひょいと持ち上げられたダンボール。

あまりにも自然な流れで持ってもらってしまって思わず「あ、」と呟いた。
・・・まぁいいか。 ここは頼ろう。


「ってか思ったより軽いっスね。 何入ってるんスか? 本?」
「雑誌だよー、一昨年の。 黄瀬君載ってるのもあったけど」
「は!? 俺っスか!?」
「一昨年の黄瀬君が載ってると聞いて!」


しゅばっ と麻雀スペースから飛んできたのは高尾君だった。
なんという耳だ。 地獄耳か。


「そそ、一昨年の。 黄瀬君のデビュー写真もあったよ」
「はい!?」
「何それちょー見てぇ!」


拝! 見! と言いながら黄瀬君が持つダンボールの中身を漁り出す高尾君。
黄瀬君は発狂しながら高尾君からダンボールを離そうとしている。

・・楽しそうで何よりです。

ふと緑間君の方を見たら一箱玄関の方に置いて、
エレベーターに乗っていった。 あ、玲央ちゃんも行った。


「赤司君と火神君はもう終わり?」
「あぁ。 言うほど捨てるものもなかったからな」
「必要なもん以外は買わねーから」


なるほどね、と言っていつもの麻雀席に腰掛けた。

何か淹れるか? と立ち上がった火神君に、
数秒悩んで適当にジュースお願いと頼んだ。

火神君は了承の意を伝え、エレベーターの方に向かう。


「・・因みにさっき、涼太はなんて?」
「あ、見てたの。 黄瀬君、『掃除終わったら紅咲っちが間食作る
 とかって言ってたっスよ!』って青峰君に言ったらしくて」
「口からでまかせだな」
「実際何か作ろうかなーって思ってたとこだったからちょーどいいよ」


女風呂の方から、あ というリコちゃんの声が聞こえて振り返った。
冬なのに袖をめくって、更にショートパンツとは少し寒そうだが。

あ、因みに黄瀬君の発狂はまだ聞こえてる。


「桜さーん! 時間あるー?」
「一応ー、どうしたのー?」


クロックスを履いてぱたぱたと近寄るリコちゃん。
ソファにもたれかかってリコちゃんの方を見た。


「今風呂場、掃除してて桜さんに助っ人頼めないかなって」


・・いう話を桃井ちゃんと喋ってたんだけど。
と言われて、あー・・・と頷いた。

そういえばこのマンションは女子の比率少ないんだよね、うん。


「一息ついたらそっち行くね」
「わ、助かります! あ、こっちのブラシ
 1本しかなかったんですけど、どこにあります?」
「え? 足りない? 男子が持っていったかな」
「あ、ごめん! 男子風呂の方にブラシあるよー!」


黄瀬君に構い倒している高尾君が横やりいれてきた。
オッケー、と返したら黄瀬君の叫びでかき消されてしまった。

高尾君頑張るなぁ。 そこまでして中学黄瀬君見たいか。


「らしいので取りに行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい。 ってか・・
 高尾君と黄瀬君、朝来てたのと服違うね」
「あっ、バレた」


リコちゃんは私に少し手を振ってから男子風呂の方に歩いてった。

そんで笑い混じりでこっちを向いた高尾君に、
隙あり! と言いたげに玄関にダンボール直行させた黄瀬君。

ああああ! って叫びながら高尾君が食いついたけど、
黄瀬君渾身のディフェンスが炸裂した。 吹いた。


「風呂掃除ついでに遊んでたらずぶ濡れっス! ってか!
 俺のデビュー当時の写真なんか見ても面白くないっスから!!」
「笑い話にはできるかもしんねーだろー!?
 くっそ、流石キセキの世代ディフェンスパねーな・・!」


そこでキセキの名が出るのか。
赤司君は2人を見ながら苦笑いしていた。

そんでエレベーターが着いた音と、中から火神君と今吉君。

火神君は紙コップとオレンジジュースの入ったペットボトルを両手に。
今吉君は大き目のダンボールを両手で抱えてた。


「おー。 ・・・玄関前で対峙してる2人どーしたん?」
「さーぁ?」
「・・紅咲、アイツらの見て楽しんでるだろ」
「そんなことないよ? 多分」


ぜってぇ嘘だ、という声に ほら、と付け足され、
紙コップを1つ突きつけられて礼の言葉と共に受け取った。

紙コップにオレンジジュースを注がれて、
火神君はさっきまで座っていた席に戻った。


「火神おるし、黄瀬と高尾もおるし打つかー?」
「麻雀、すか? 俺は構わねーっすけど」
「あ、ごめん、この後女風呂の掃除助っ人に行くんだー その後でもいい?」
「おー、いってきぃ あそこの2人はしばらく対峙しとるからな」


ケタケタ笑う今吉君に、あははと笑った。
注がれたオレンジジュースに口をつけた。 あ、冷たくて美味しい。


「・・・当然のように僕は数に含まれないんだな。 やっと役を覚えたのに」
「初麻雀なのに配牌が九種九牌で、そのまま国士無双キメた
 伝説の赤司君は4人麻雀には誘わないと決めたの」


麻雀勢でそういう暗黙のルールというのがありましてね。

役満アガる桜にも言われとーないわー
と今吉君につっこまれたけど気にしない。

私の麻雀運はいたって平均。 時々運が暴走してるだけで。


「あ、とりあえず私お風呂場掃除行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「滑ってこけんなや?」
「私そこまでドジじゃない」



(ぎゃー!? っちょ、何でそんなびしょ濡れなんスか!?)
(やっぱ転んだん?)
(違う。 聞いて? 風呂の栓抜こうとしたら全然抜けなくてさ)
(あー、あるあるっスね)

(抜けなかった反動で背中から冷たい湯船にダイブ。 寒い)
(桜ねーさん、2階からごめーん!
 部屋からバスタオルとってきたんでそっちに落とすー!)
(高尾君ありがとー 手際いいね、さっきまでここに居なかった?)
(桜ねーさんに風邪引いてほしくないんで!)





―――――
年内更新が叶わなかった年末大掃除の話だなんてそんな。

アンケで大掃除リクが2件あったので、
年内更新叶わなかったけど年末作品です。





 

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