WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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空閑遊真




「おねーさん荷物重そうだね、手伝おうか?」
振り向けば白髪の幼い少年が立っていた。
「え、う、うーん……重いよ?」
「大丈夫、おれ力持ちだから」
肘を曲げてむきっと服越しに力こぶを見せる少年の腕は私より細そうだ。
「どこまで行くの?」
「ボーダーの鈴鳴支部」
「なんと」
#ワートリプラス



「あの人と付き合ってんの?」
「なんで?」
なんで、と来たか。
否定でも肯定でもない返答に能力は反応しない。
返事せずにいると否定の言葉が引き出せた。
「恋愛話題に興味がある?」
「ある」
腕をくい、と引っ張ると何も知らない双眸。
「おれはおまえが好きだ」
「……えっ」
#ワートリプラス



夜間任務の後に本部に訪れた。
個人ランク戦のブースは人が居らず閑散としている。
「あれ、初めて見る子だ」
「ん?」
声を掛けられた気がして振り向くとソファに女の人が座っていたらしい。
こんな深夜に人の姿。
「人居なくて暇なの、君時間あるならランク戦どう?」
「ほう、受けて立ちます」

結果10本中7−3でおれの勝ちだった。
「や〜強いね君」
「お姉さんいつもこんな時間にランク戦してんの?」
「夜型人間が行き過ぎてね」
「夜型人間」
「日中寝て夜起きてる人」
「おぉ、すごいな……」
「だから深夜帯いつも暇なの。 またおいでよ、私居るから」
「ぜひとも」
#ワートリプラス
夜中の話し相手



「おれは傭兵だったからな、恋愛感情はない方が楽だ」
「……今は違うし、もういいんじゃない?」
「ふむ、確かに。 おまえとなら悪くないかもしれない」
……誰も私となんて言ってない、のに、
#ワートリプラス
「おれが死んでも泣くなよ」
「……残酷なこと言うね」
「おたがいさま、約束だぞ」



「かめらにまいく……こっちには記録物が多いな」
「珍しい?」
「おれにとっての記録物はレプリカだからな」
遊真が不意にスマホを突きつけてきた。
「喋ってくれ」
「好きだよ遊真」
「……これ録音だぞ」
「知ってるよ」
#ワートリプラス
人は声から忘れると言うけど、これは忘れられそうにない。



「お?」
「あっ、ゆ、遊真君、居たの……」
「腹減って。 髪ボサボサだな」
寝癖ついてたのか、
慌てて髪を抑えると遊真君がちょいちょいと手招き。
近付いて屈んだら彼が私の髪に指を通した。
一頻り触った彼は満足気に笑って、
「よし、かわいくなった」
「……〜〜〜っ……」
#ワートリプラス



「逃がさないよ」
ランク戦でも聞いた台詞だがなんだこれは。
私を押し倒した彼は相変わらず幼い顔だが、コイツ男だという確信もさせた。
「えー、っとぉ……遊真ー……?」
「おまえいつものらりくらり躱すじゃん」
「む、」
「……おれは本気なのに」
#ワートリプラス
相手は15だぞ揺れるな私



「寝ないの?」
「おれ眠んなくていいんだ」
トリオン体だからかな。
そうなんだと相槌打ちながら隣に座る。
「なら私眠くなるまでここに居る」
「もう眠そうだよ」
「ねむくない」
「……おれがウソ見抜けるの知ってて言ってる?」
しまった。
#ワートリプラス
でも遊真君は愛おしそうに笑ってた。



「なんか木ある」
「七夕だね」
「たなばた」
あ、知らないのか。 知る限りの七夕情報と笹がある理由を教えた。
「ほう、願い事。 思い付かん」
「些細な事でもいいと思う」
「ふむ」
【うまいものがたべたい】
「……それ叶えに行こうか」
「おまえおりひめだったのか」
「なんて?」
#ワートリプラス



「遊真、遊真、おいで」
ベッドの中からひょこひょこと手招き。
彼は疑問符を浮かべながら近付く。
「添い寝、付き合って」
「ふむ? でもおれ寝ないぞ?」
「いいのいいの」
おまえがいいなら、ともぞもぞ入り込んでくる遊真。
「頭撫でて〜」
「どっちが年上なのか分かんないな」
小さい手が私の頭をぽすぽすと柔く叩くように撫でる。
「私が眠るまででいいから一緒に居てよ」
「おーせのままに」
「かっこいい」
「ありがたきしあわせ」
くすくすと笑い合いながら眠りに落ちたならば、
きっと良い夢が見られるはずだ。
#ワートリプラス
(起きてもおれが傍に居たらびっくりするかな)



「きゅ、急だよ」
キス強請られて思わず唇を守った。
少し考えた様子の遊真君。
「なるほど、順番か」
何が成程? 彼の言葉を脳内で繰り返すと額からちゅ、と短いリップ音。
はくはくと口を動かせばニッと笑った遊真君の顔。
「こっちは近々な」
……へ、変な色気纏ってません?
#ワートリプラス



あづい。
ノースリーブに着替えて顔を出すと遊真がじーっと見つめてきた。
「腕白いな」
「日焼け止めのおかげ〜」
「ふむ」
視線が外れない。
……ノースリーブ珍しい?
「……それで本部行くなよ」
「え」
「目の毒だ」
「え、うん?」
「行くなよ、絶対だぞ」
やけに念押しするな。
#ワートリプラス



「眠そうな遊真君見てみたい」
「難題ですな……」
彼が眠らないのはとっくに知っているので無茶を言ってるのはこっちだ。
けど普段ランク戦でかっこいいとこを見てる分気が抜けてるとこが見たい、好奇心。
「うーむ、甘える遊真くんじゃだめか?」
肩にこつんと寄り掛かられた。
#ワートリプラス



半年も居りゃ味にも随分慣れたろうに「うまい」と繰り返すのが微笑ましい。
「今日は朝からおれの好物ばっか出てくる」
「夜は小南にお願いしてます」
「カレーか!」
今日は遊真の大切な日だけど暦の違いで彼に実感はないらしい。
せめて幸せな日だったと思ってくれたら万々歳。
#ワートリプラス



彼は深夜よく屋上に居るけれど今夜は生憎の雨で遊真と鉢合わせ。
「夜ふかしよくないぞ」
「あは、ばれた」
咎めながらも隣に腰下ろす遊真。
「雨だね」
「そうだな」
「雨好き?」
「あんま好きじゃない。 けど」
「けど?」
「今日はそんなに悪くないな」
ちらりと視線が私に向いた。
#ワートリプラス



陽の高いうちからベッドでごろごろしていたら遊真君に見つかった。
特に何を言うでもなく私の隣にごろんと寝転がった彼、
しばらく私を見つめた後にゆっくりと瞼を閉じた。
「……ゆ、遊真君?」
「おまえの隣なら眠れる気がしてくる」
「へ、」
不思議だな、と呟く声が聞こえた。
#ワートリプラス



テレビでデートスポット特集をしていた。
遊真君は物珍しそうに興味津々でそれらを見ている。
「……恋人と行きたいとか思う?」
「さぁ? どうだろ、おれ恋人いたことないからな」
そう呟く君の唇を奪ったら、どう反応するのだろう。
恋心も好奇心もあるのに勇気だけがない。
「でも居たら楽しいんだろうなとは思った時はあるぞ」
相槌打つより先にテレビ特集を指す彼。
「ここ遠いのか?」
「電車で2時間くらい」
「2時間か」
「……行きたいの?」
「行きたい」
「……い、一緒に行く?」
「お、いいのか? 行く」
ど、どさくさに紛れてデートの予約取ってしまった。
#ワートリプラス



「おぉ〜これがユカタ。 動きづらそう」
珍しさの次の着眼点が彼らしくて思わず笑ってしまう。
「さっき見てきたけど屋台沢山あったぞ、早く行こう」
急かす遊真に引っ張られながら、今夜は屋台巡りに付き合うことにしよう。
#ワートリプラス
賑やかな屋台を抜けて聞く、ゲタの音が新鮮だった。



「あつい、とける」
「とけるのか」
「とけた」
「とけたのか」
先程から動きたくないとぐだる私を遊真君が適当に話し相手になってくれてる。
「まぁおまえくらいならおれ運べるけど」
「え」
「とけたおまえはどこ運べばいい?」
「えっ、は、運ばなくていい……」
多分表情が溶ける。
#ワートリプラス



目が覚めたら傍に人の気配がした。
顔を上げると遊真君がベッド脇に座っていて、
起きた私に「おはよ」なんて声を掛けてくる。
「……やっぱり起きてないとな」
「?」
「寝てるおまえはそれはそれでかわいいけど」
「待って待って、何の話?」
#ワートリプラス
眠る相手に口付けても反応ないし。



付き合ってはいるが、身長差のせいか正直恋人に見られた試しがない。
「身長欲しい?」
「うーん……どっちでも?」
おや。
どっちでもと言うその意味はなんだろうと不思議に思い見ていたら
彼の顔がにー、と悪戯っ子のように笑った。
「ここからだとおまえの顔がよく見えるんだ」
#ワートリプラス



空を見上げる様子がどこか現実離れしてる。
動きを止める私にどうしたのかと声を掛ける遊真君に思わず口ごもる。
嗚呼、欲は言わないからせめて私が知らなければ。
上手く濁せない。
「みと、れてました……」
「……ショージキですな」
3を描く口が少し歪んだように見えた。
#ワートリプラス



支部周知となった食欲不振、
エプロン姿の遊真に朝ご飯要らないと伝えるとふむ、と1つ頷かれた。
「んむ、」
準備してたらしい苺を唇に押し付けられて反射的に口に含む。
甘酸っぱい。
「固形物とは言わないけどもう少し食べた方がいいぞ、夏バテねーさん」
「はぁい」
「よろしい」
#ワートリプラス



横断歩道の白線だけを踏んで歩いてたら彼が
「意外と子供っぽいことするんだな」と笑った。
「遊真君が大人びてるんだよ」
「そんなことないぞ」
口を尖らせた彼は急に大股で白線を避けて横断歩道を渡る。
「……おまえは黒が似合うよな」
「え、ありがと?」
なんでその話になった?
#ワートリプラス



「ふむ、先輩はおれを甘く見過ぎてる節があるな」
ランク戦で連敗喫した彼に言われぐうの音も出ない。
「見た目で侮るクセやめた方がいいぞ」
「この見た目のチビを警戒しろって方が難しいよ」
「でもおれはおまえを押し倒すくらいはわけないぞ?」
「えっ」
なんか話変わってない?
#ワートリプラス



体重を掛けるように寄りかかられ、
流石に支えきれないと抗議するべく振り返ったら仰向けでどさり。
事故か故意か、珍しい角度で見下ろされる赤い瞳に思わず口を噤んだ。
「……何か言いなよ」
「……えー……遊真が男に見える、」
「男だよ」
ニュアンスは伝わってない気がした。
#ワートリプラス



「ふむ、風邪ですな」
体温計の数字を確認した遊真の声に思わず重い溜息を吐く。
「風邪の時、1人で心細いのよね……」
しかも伝染るから強く引き止められないし。
「だからおれが看病役だろ?」
「わぁい遊真すき」
「……ウソじゃないけど心が籠もってない」
あ、拗ねてしまったか?
#ワートリプラス



寝付けなくて外の空気を吸おうと屋上へ。
「お、いいところに」
「ゆ、遊真君?」
こんな時間に、という言葉が出てくるよりも先に手招きされた。
「今日は星がきれいだからだれかに見せたくて」
小さな手が指した先があまりに綺麗で思わず感嘆の声。
「運がいいな」
緩む口元を見た。
#ワートリプラス



「おまえが死ぬ時まで忘れられない恋人になるから」
意思表明のような宣言に思わず言葉を飲み込んだ。
齢15、なんてことを言うんだろう。
「……最高の、彼女だったと、思わせるから、」
負けじと吐いた強がりもいいとこの台詞、
だけど彼は満足そうに「たのしみだな」と笑った。
#ワートリプラス



「あ、月が綺麗、だね」
深い意味はなかったのに偉人の解釈を思い出して語尾に戸惑いが出た。
「死んでもいいな」
「!?」
知らないだろうに、嘘、なんで。
「こくごの授業で先生が言ってた」
見透かしたように呟く遊真君。
「ニホン人は回りくどいな」
意味分かって言ってる風だ……
#ワートリプラス



「……おまえ1つのみかん食べるのに30分掛けるのか」
「白いとこ取りたくて」
話し相手として遊真を捕獲したが、時計を見て呆れられた。
「まぁみかん相手に真剣な顔するおまえを見れるのは悪くないな」
思わず視線を向ければ、彼は先程受け取った蜜柑一粒咀嚼してうまいと零した。
#ワートリプラス



頻発する中途覚醒からの度重なる遭遇で彼が眠らないことを知った。
「眠いのに寝付けないのも大変だな」
「遊真が居て助かるわぁ……」
寝付けない時間を1人で過ごすのはあまりにも虚無過ぎる。
「まさかこの身体が話し相手で感謝されるとは」
謝ろうとしたら謝る気も失せる微笑み。
#ワートリプラス



「……お?」
「ん?」
「小さい木が増えてる」
机の端に置いたもみの木の雑貨に目を奪われたらしい。
「飾り付けするの」
「くりすますつりーになるのか」
「お、詳しい」
最近日本に来たのではと聞けば教えられたの返事。
「遊真も飾り付け作る? 修行の息抜きにでも」
「面白そう」
#ワートリプラス



※Twitter掲載 ツリー合計5ツイート 準備当日

かぼちゃは笑顔かもしれない
┗5ツイート分を短編化した当サイト掲載の作品。


 
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