WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




幼馴染の彼は遠慮がない。
女子の部屋に挨拶もせずに来ては本棚を漁って漫画数冊手に取りベッドに寝転んだ。
「雅人まーたあんた突然……」
「おめー良い趣味してるんだって」
……このデリカシーのない幼馴染が好きと言っても、
彼は笑って良い趣味だと言ってくれるのだろうか。
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嘘、はぐれた。
同い年の面々と遊びに来たのに皆の姿が見えない。
……近くにカゲとか居ないかな。
カゲー、カゲー? 流石に刺さんないわ。
諦めて鞄からスマホを出そうとした瞬間勢いよく肩掴まれた。
「ばっか、はぐれてんじゃねーぞ」
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「……刺さった……?」
「あァ?」



前髪で隠れた眉が寄ってる。
人混みだし悪意でなくても気になるか、と彼の手を掴み移動、
彼は特に抵抗せず大人しく引っ張られてる。
人気少ないとこで彼の服のフードを被せて引っ張って背伸びしてキスをした。
「……外だぞ」
「機嫌直った?」
「……直ったわくそったれ……」
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うちわで首周り扇いでたら「暑そーだな」と一言。
肩下の髪は夏場に向いてない。
カゲは手伸ばすと私の横髪ごと後ろでまとめた。
「こっちのがいーんじゃね」
「……そう?」
このまま括ったらポニテっぽい。
「てか、こっちのが好き」
「……そうしよっかな、」
カゲが好きなら。
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花火誘ったら秒で断られた。
なら私の家でと言ったら食いついた。
昼に到着した彼と暫く駄弁り、時間を見計らってベランダに出た。
遠い分小さいし音も随分遅いから迫力に欠けるけど私達なりに夏を楽しむ。
「花火見んの久々」
「雅人んち見えないもんね」
きっと恒例になる。
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楽しそうにあれこれ喋る口元を盗み見る。
最近してないなぁ、とぼんやり眺めてたら話す側だった彼が会話を中断した。
ぐっと肩を抱き寄せられたのも束の間、あっという間に距離が0になる。
突然の行動に顔を赤くした。
「……ちげーのかよ」
「ち、ちが、わなくは、ない……」
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突然呼び出されることはままあるけど、何らかの理由が付属してることが多かった。
今日もその類だろうと、今日はどうしたのかと聞く。
「別に、おめーと居たかっただけ」
しれっと告げられた言葉に思わず言葉が詰まる。
「……照れてんじゃねーぞ」
「カゲそういうとこだぞ……」
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付き合った当初から歯を立てられることが多い。
噛むにしては浅い歯の立て方は首にも手にも向かう。
「案外噛まないよね、」
「……噛まれてぇのか?」
「ま、まさか」
痛いのも痕付くのも嫌だもの、
慌てて否定したらはん、と鼻で笑われた。
「おめーが痛いの嫌がりそーだからな」
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制服以外では初スカート。
全身鏡の前でくるくるしてたらチャイムが鳴り、訪問者見て思わず固まる。
「……スカート」
「ひ、一目惚れして、」
た、タイミングぅ……
この際感想貰おうとしたら急にしゃがんで俯かれた。
「……刺激つえー……」
「なんて?」
掠れて聞こえなかった。
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「お、お?」
立ち作業してたらのそりと近付いてきて抱え込むように抱き締められた。
「どしたの? 拗ねた?」
「拗ねちゃいねーけど、なんとなく」
肩にグリグリ当てられる額と全身に目一杯触れる彼に心臓がきゅーっと締まる。
「はー、愛しいなぁ」
「……言わなくていーっつの」
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見事に雨にやられた。
肩を手で押さえながら、止まない雨に溜息吐くと
隣からパーカーをばさり投げつけられた。
「着とけ」
「え、ありがと……びっくりした、紳士じゃん」
「おめーが肩気にしてっからだろ」
……気付かれてた。
透けた肩紐を隠すように濡れた彼の服を羽織った。
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些細ごとで思わず顔真っ赤にしてしまった。
「……おめーさぁ」
「お願いまだ何も言わないで」
まだ告白も返事聞ける状態でもない。
なんで感情分かるカゲ好きになっちゃったんだ。
「……行き場ある方がまだマシなんじゃねーの」
頭パンクしてる私は発言を拾えず意図も汲めずで。
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最近夜中に目が覚める。
不意に込められた指先に彼が起きてしまったことを察した。
「ごめん、また起こした?」
「別に」
起きる度に起こしてしまうな、
申し訳なく思えば何も言ってないのに「いいって」と返ってきた。
「ねみーはねみーんだろ? 二度寝しようぜ」
「……ん、」
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幼馴染に二度目の恋。
気付いた時には体質を知ってた分困ったがトントン拍子で付き合った。
「過去に一度同じの向けた物好きが居たからな」
「へー……私の知ってる人?」
「おめーだよボケ」
「……えっ、待ってよ記憶力良すぎない? 何年前だと、」
「おめーだからだよボケ!」
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夏バテでダウンしたカゲがソファに寝転がって休んでいる。
腕で目元を覆い短く唸る様子を見てから、
前髪跳ね除けて額にぺとりと手を貼っつけた。
「つめて、 ……あー、きもちい」
「数秒で使い物にならなくなるけど」
「いい、しばらく置いとけ」
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「手温くなっても?」
「おう」



真夜中とはいえ室内と然程変わらない服装で外に居る姿が珍しい。
「おめーほんと1人で深夜出歩くなよ」
「急に散歩したくなる時ってない?」
「あっても夜はやめろ」
怪訝そうに寄った眉に笑ってしまう。
「カゲ甘くなったなぁ」
「誰かさんのせいだわボケ」
悪態が悪態に聞こえない。
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影浦君が彼女持ちという話がどこからか漏れたらしい。
「今んとこお前が第1候補だけど実際どうなん?」
「えっ」
こ、困る。 だって彼らの読みは大正解だもの。
戸惑ってたら後ろから肩をぐっと引っ張られた。
「何してんだおめーら」
「あ、本人帰ってきた」
「影浦く、」
「よぉ」
「意外な組み合わせと思ったけどそうでもないな」
「だろ?」
「こいつ巻き込んでくっそほどどーでもいい議論すんな」
手をしっしっと振り離れるよう指示される。
彼の助け舟に感謝しテーブルを離れた後、通知が1つ鳴った。
[夕方行くわ]
振り返れば影浦君がスマホを閉じたところだった。
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少し早いけど身支度しよ。
抜け出そうとしたら腹に腕が回ってベッドに逆戻り。
「さみぃ」
「うわっ起きてた」
「捲んな外気入んだろ」
冷え込んだのに半袖で寝るから。
文句言いかけたら濁った唸り声と一緒に肩甲骨に擦り寄られて言葉を詰まらせた。
彼のこういう行動に弱い。
#ワートリプラス



相当疲れた顔してたそうで休めばと言われた。
膝枕拝借したらおいコラ、と一言。
「脚かたい」
「文句言うなら下りろ」
「やだ」
「めんどくせー奴」
「それに付き合ってくれるカゲ嫌いじゃない」
「好きくらい言えや」
「……恋人でもない男に言えるかばーか」
片想いがバレている。

撫ではしないが頭に乗せられた手が眠気を誘う。
枕は硬いが視界を暗くさせたら眠れそうだった。
うつらうつらしてきた頃、不意に溜息の音を拾う。
「……好きでもない女にわざわざ付き合うかよバーカ」
「…………は?」
今なんて?
顔上げようとしたら頭を押さえつけられてしまった。
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あまりの眠気にごねてたら運ぶぞと言われ丁重に断った。
「やだ、落ちそう。 持ち上げたことすらないでしょ」
「あるけど」
ほら、な……え、は? いつ?
「おめーが酔い潰れた時」
「えっ」
「運べた」
#ワートリプラス
「まさかお姫様だっ、」
「わりーけど俵担ぎ」
「だと思った! はぁ色気な!」



稼働頻度の減ったエアコンを見上げてたら、不思議そうにどうしたと聞かれた。
「夏終わるなぁと思って、」
暑いのは苦手だけど思い出の多い季節だから名残惜しい。
「これからは秋も冬も一緒に居んだろ」
当然と言わんばかりにしれっと答えられ、数秒間が空いてから何度か頷いた。
#ワートリプラス



一目惚れの香水初開封、ふとした時に香りご機嫌だった。
「香水?」
「背伸びしちゃった」
「へぇ」
じっと見つめてくるカゲの鼻が僅かに動く。
「……好きじゃない?」
「逆、好きな匂い」
がたりと席を立つカゲが無造作に近付く。
「どこつけてんの」
「待って嗅ぐな嗅ぐな、焦るわ」
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「おめーこんな髪長かったっけか」
定期的に会ってるのに今頃気付いたようで髪を掴んではまじまじと。
「ぅあ、髪触られると眠気が……」
「ガキかよ」
からかうように鼻で笑う声が随分優しい。
「う、寝そう」
「俺1時間は動かねぇけど」
「……枕宣言?」
「さぁな」
「寝る」
「おう」
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「体質あって良かったと思った時はある?」
苦労が多そうなのは分かりきってるので逆に。
「好きな奴が俺のことばっか考えてんのが分かるのは利点かもな」
「へー」
好きな奴。 居たのか。
……あれそういや私カゲと付き合って、
「……私じゃん!?」
「そう言ってんだろーが!」
#ワートリプラス
「好きだったの!?」
「ちゃんと好きだわボケ!! ふざけんな!」
「2人とも一度ちゃんと話し合おうね」



夏バテによる食欲不振が戻らない。
「うーん、流石にまずいな」
「おめー体重なんぼだ」
「女子に聞かないでよ」
代わりに落ちた数字を告げたら眉が寄った。
「店来い、奢ってやる」
「え、お腹に1枚入る自信ないよ?」
「それくれーは手伝ってやらぁ」
……これは心配されているのか。
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「気圧影響受けるっつーのも難儀だな」
様子見に来た彼に手を伸ばせば掴まれた。
「たすけて……」
「俺のクソ体質と交換ならいいぜ」
「……どうしよ、即答できない」
「はん、迷う余地はあんのかよ」
宥めるように頭に乗せられた手が心地良くて、頭痛に眉を寄せながら目を瞑った。
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画面に表示されたパンダの着ぐるみパジャマが非常に可愛い。
意識が刺さったのか彼が背後から覗き見る。
「……」
「……おい」
「……パンダ……」
「……やめろ訴えんな」
「カゲパンダ……見たい……」
「やめろやめろ俺おめーの情に訴えてくる感じによえーんだよくそったれ!」
#ワートリプラス



「つめて」
「ベッドが、温かい……?」
「俺居たしな」
「えっ、私1時間でも布団温まらないよ」
「冷え性極め過ぎだろ」
温さに感動しつつ隣に潜ったらぐっと抱き寄せられた。
あ、温かい。
「……冬の間、定期的に泊まりに来ない……?」
「悪くねー誘いだが冬だけかよ」
笑われた。
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恋人は人の感情が分かるらしい。
「いつから、気付いてたの?」
「多分最初っから」
うっ、や、やっぱり。
バレてないはずの好意が筒抜けだったのは流石に羞恥心が、
「でも特定に1週間掛かった」
「え、そうなの」
「その後も気にしてたらいつの間にか落ちた、ベタかよ」
凄い溜息。
#ワートリプラス
「あまりにベタだからあんま言いたかなかったけど」
「……今教えてくれたのはなんで?」
「なんとなく。 あ、惚れた弱みか?」
「……、……」
「その顔が見てぇと思ってる節すらある」



彼の実家という店に一度行きたいと告げればあっさり快諾。
「あ、でもお袋にはぜってー会うな。 あの女はエスパーだ」
感情の分かる彼のお母様がエスパー。
「……血繋がってる……」
「入隊試験受けさせてみっか」
ぶはははと笑う彼が妙にツボったみたいでしばらく肩震わせてた。
#ワートリプラス



そっと彼の頬に手を翳すと僅かに擦り寄られて胸がきゅんとする。
「か、かわいい……」
「嬉しくねー」
怒りも咎めも含まない呆れた声色で手を重ねられる。
確かに可愛いは男性的には複雑かもしれない、なんとか別の言葉に置き換え……
「……い、愛しい、とか」
「……許したわ」
#ワートリプラス



「君1人?」
まさかのナンパである。
もーいつも遅い遅い言うから少し早く来たらコレだよ、ツイてない。
見知らぬ男性に絡まれるのは流石に怖い、
早く来てと念じてたら後ろからぐいっと腕を引っ張られた。
「!?」
「来い」
「っカゲ!」
あ、どうしよ、凄く安堵した自分が居る、
彼に腕引かれたままナンパ男を撒いて一息付いた。
「ありがと、」
「やっぱ来んの遅くていいわ」
「へ」
腕掴んだまま溜息吐く彼が「焦る」と呟く。
え、え〜……何それ、心配してくれてるの?
「カゲ優しい、調子乗りそう」
「乗っとけ」
「え?」
「あ?」
「!?」
「死ぬほど鈍いなおめー」
#ワートリプラス





 
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