WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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荒船哲次





「う、受け取ってください!」
頭を下げて差し出したそれを見て先輩がぱちくりと瞬き。
「き、今日がお誕生日と聞いて……」
も、もしかして引かれた?
顔に不安が出てたのか先輩が一瞬慌てた。
「驚いただけ。 ……ありがとな」
随分優しい目で笑ってくれて思わずきゅんとした。
#ワートリプラス



「疲れた、この世の大半どうでもよくなること言って」
「好きだ」
無茶振りしたはずだが予想より端的な返答に言葉が詰まる。
「……は、」
「この世の大半どうでもよく思えたか?」
呆れたような笑みが私に向く。
それは、あまりに、卑怯、では。
「本当だから」
トドメも怠らない。
#ワートリプラス



「美味いクリームシチューのある店知らねーか?」
「食いてーのか?」
「俺じゃなくて彼女が……あ」
ぱっと口を塞ぐも時既に遅し。
「へぇ?」
「ほーう?」
「居たのか彼女」
「うわお前ら顔うるせぇ!」
#ワートリプラス
「オレの味覚でよければだけど、ここ美味かったぞ」
「デキる奴だなお前……」



高校3年間ずっと友達で片想いの彼に思い切って告白した。
「……返事は今と来月、どっちがいい?」
「ふ、フラれる心の準備があるので来月……」
「フラれる前提かよ」
「お友達として変わらぬ関係が残れば万々歳なので……」
「フラねーんだけどそれでも来月聞くか?」
「え、!?」
#ワートリプラス



「動くな」
脅迫のような低い声、帽子越しに何かが当たり硬直。
……息を呑んだのも束の間、視界に見慣れた帽子のつば。
「よっ」
「荒船! 誰かと思った」
「悪い」
やはりターゲットの刺繍は狙撃手が釣れる。
「この際蹴り上げ見たかったな」
ぼそり呟く君はやはりアクション脳。
#ワートリプラス



「や、卒業おめでとう」
「あざす。 荷物後部座席でいいか?」
「入れといてー」
さて、と運転席に乗り込むと彼も隣の席に。
「節目の荒船君、目標宣誓どうぞ」
「四輪免許取ります」
「おぉ」
「彼女にばっか運転させられないので」
「かっこいい」
「それまでは甘えます」
「嬉しい」
#ワートリプラス
「助手席で寝落ちちゃった哲次も好きなんだけどな」
「……それは忘れろって」



「世の中の女子は手間暇掛けてるなって思った」
味は良かったと渡されたのは手作り感あるガトーショコラ。
「えっこれ荒船が作っ」
「流石に家族に奇怪なもん見るような目された」
「あは、」
いや笑い事じゃないが??
好きな人が手間暇掛けた菓子が手元にあるの震えるんだけど、
#ワートリプラス



「ほら、肉食い時だぞ」
「おっ、やった〜荒船奉行助かる〜、本格的に冬終わる前に鍋したかったんだよね」
「気候はわりと春だけど」
「夜は寒いので実質冬」
「つーか他の奴らも呼ぶんじゃ?」
「『荒船捕まえたから鍋しよ!』って誘ったけど見事に全員に断られて」
あいつら……!
#ワートリプラス



「それどういう顔だ?」
「え?」
「唇を噛んでる?」
「え、あー……皮捲れてきたのが気になって」
「あ、待ったそれはしない方がいい」
慌てて止めようとしてくれたのかぱっと手首を掴まれる。
……近距離で合う視線、数秒の沈黙。
「……わ、わりぃ」
「い、いえこちらこそ……」
#ワートリプラス



「なんだ今の」
「ごめん、」
非なら全部私だろう。
眠る友人に口付けたのだから。
「おい、」
「ご、ごめ、」
お願いだから何も言わないで、被せるような謝罪は意図的だった。
逃れようと引っ張った腕はびくともしない。
血の気が引くのと焦りが重なると考え1つ思い浮かばない。
「あぁもう話聞かねー奴だな」
ぐっと腕を引っ張られ、よたついた身体は前へ。
現状への理解も追い付かないまま、肩と腰に回る男の腕に息が詰まる。
離そうと彼の肩を押すもまるで動かず、
腕の力だけが増して「大人しくしてろ」と咎められた。
……夢? 口は彼の肩に塞がれたまま。
#ワートリプラス



覚醒するには充分すぎた。
「……」
「……」
え、多分、寝込みにキスされてた?
かつてない微妙な空気。
「悪い頭冷やす」
「待って!?」
離れかけた荒船の腕を慌てて捕まえる。
ちょ力強すぎて引き摺られる靴裏擦れてる。
「だ、大丈夫だから! 私荒船好きだし!」
「……は?」
#ワートリプラス



「あんまり男が出入りするとこで寝んなよ」
「あだっ」
人の気配で目覚めて早々、溜息混じりに軽くデコピンされ額を押さえた。
言われなくても寝る場所くらいは弁えてる。
「ここは大丈夫な人しか来ないもん」
「バカ、大丈夫じゃなさそーな奴が目の前に居んだろ」
「は、あ!?」
#ワートリプラス



名前と顔が一致してる程度の知り合いだった。
恋文に分類されるだろうそれの返事をするには相手を知らなさすぎて何も書けなかった。
意識すれば自然と視界に彼女は入ってきた。
目が合う度に会釈をされた。
筆を執る、それらが脳裏を過るたびに書きかけの便箋を握り潰す。
#ワートリプラス



「お母様のをお借りするくらいなら荒船の方が遠慮しなくていいな」
汚れた服のまま帰るのもアレなので上下借りる話に。
着替えて出てきた私を一瞥すると「肩落ちそうだな」と呟いた。
「……ちょっと別の見繕ってくる」
「え、私は別にこれでも」
「よくねーだろなんかいろいろと!!」
#wtプラス



作業していたら近付く気配に気付けなかった。
「ッひゃ」
耳のすぐそばでちゅ、と立てられたリップ音にびくり。
ぱっと耳を塞ぎ犯人を睨み見上げる。
数度瞬きを繰り返した彼の口角が上がった。
「……ほぉ?」
「お、驚いただけ、」
「それはこれから確かめる」
「ま、まっ待った!!」
#wtプラス



「おい集中しろ」
「いたっ」
課題の助けに呼んだのにぼーっとしてしまい軽めの手刀が落ちてきた。
「ったく、俺に何か付いてんのか?」
「いや、綺麗な顔なのに帽子のツバで影になるの勿体ないなぁと思ったの」
「はっ、……何言ってんだ、早く解け」
ツバを落として顔隠されてしまった。
#wtプラス



屋台巡りに張り切る彼らが一足先に人混みへ。
「あー……似合ってんな、浴衣」
「……あ、りがと、」
私と彼だけ、まだ動き出してもいない夏祭り。
喧騒に紛れて、遠くから彼の名前が呼ばれた。
「今行く!」
ぱしっ。
「!」
掴まれた手首、交わした視線、そしてそのまま人混みへ紛れに。
#wtプラス



「何か手伝えることある?」
「今は要らん」
とは言われても。
ご飯の準備してくれる彼の傍らで、何もしないのも落ち着かない。
そわそわしてキッチンの近くでうろついたら溜息。
「来い」
「! 何したらい、」
肩を掴まれ口にしかけた言葉ごと唇を奪われる。
「座ってろ」
「……はい」
#wtプラス



「ハグの日だそうです!」
と、仕掛けはしたが基本取り合われないんだよなぁ。
腕を広げて諦め半分で待つ。
沈黙数秒、応答が。
「え、えええ荒船さん!?」
「なんだよ」
「どっ、どういう風の吹き回しで……?」
「随分な言い様じゃねーか」
思いの外、抱き締める力が強くて緊張する、
#wtプラス



「っ危な、〜っお前なぁ、加減しろよ」
「すいません今日は勢い付けすぎた」
腹筋辺りに抱き着いてると頭上から溜息1つ、ぎゅぅと抱きしめ返される。
「……えっと、付き合ってもない女子抱き締めるのやめた方がいいよ??」
「……じゃぁお前も付き合ってもねー男に抱き着くのやめろよ」
#wtプラス



「もしもし」
『おー、どうした』
「どうしたっていうか、今日でしょ?」
おめでとうと言うと通話越しに笑った気配、『サンキュ』と。
あと喧騒も。
「……店内?」
『いつもんとこ』
『おい荒船焦げんぞ』
『返しといて。 悪い、また後で掛け直す』
「ん? うん」
用件、終わったけど……

『あいつらと飯だった、わりぃ』
「そうだろうな〜と思った。 ……用件終わってるけど……?」
『でもわざわざ電話だろ』
「今日会えた時に言おうと思ったら会えなくて」
『で、わざわざ電話だろ?』
「…………」
『嬉しい』
「……真剣な声やめてよ……はず……」
『ぶっは』
#wtプラス
まだ付き合ってない



ぐっと掴まれた手首が壁際にまで押し込まれる。
後退、踵がこつりと。
焦点が合わずぼうっとした視界の先で「集中」と咎められ、今日何度目かの唇を重ねた。
(なんか性急、だな)
キスの合間から覗く逡巡の色。
「……今朝、一緒に居た奴誰だ」
「え、 やき、もち……?」
「悪いか」
#wtプラス



「ごめんお待たせ!」
「おう」
久しぶりのデートで少し準備に手間取ってしまった。
パタパタと小走りで駆け寄る私を彼がじーっと見つめている。
「……変なとこある?」
「ん、いや」
不意にキャップ帽子に手を掛け、ぽすりと私に被せた。
「えっ何?」
「……虫除け」
「虫?」
「行くぞ」
#wtプラス
「てか、何、これ被っとけってこと? 今日キャップ似合わない格好なのに」
「だからいいんだろ」



突然の雨で立ち往生と思しき彼に「乗ってく?」と誘った。
彼は数秒思案し「お願いします」と頭をぺこり。
「それかっこいっすね」
「ん?」
「指に車のキー掛けて回してるの。 映画みてーだ」
「あは」
#wtプラス
「『乗っていきな!』が正解だったのかな」
「大抵の男は落ちますね」
「あはは!」



「荒船! トリックオアトリート!」
「そんな時期か」
ぼやきながら荒船は手の内から投入口にもう1コイン入れ、自販機を指す。
「好きなの選べ」
ジュース。
ピッと選んで落ちてきた缶を「ほら」と私に差し出した。
「お菓子じゃないじゃん」
「自販機の前で捕まえたのが悪い」
「ウッス」
#wtプラス



初めて怪物を目の当たりにし、尻もちついたまま、動けない、
「あ!? なんで避難してねーんだ」
「ごめ、ごめ、腰ぬけて、」
攻撃予兆、舌打ち傍らに間一髪もつれた脚ごと私を持ち上げた。
「ひ、 ひゃ、!?」
「落ち着け、俺だけ見てろ」
「……!」
#wtプラス
「つーわけだ、援護頼む」
『了解』
#同じ台詞でwtプラス
「あ、あ、待っておろして」
「何言ってんだ腰抜けてんだろ」
「や、だって、重いし、」
「なめんなお前くらい生身でも余裕だわ」
「で、でもっ」
「いいから喋んな、舌噛むぞ」



寝付けずベッドを這い出たら、がしりと腕を掴まれた。
「わ」
「どこ行くんだ」
「水飲みに行くだけ」
重たそうな幾度かの瞬き、腕を掴む手がずるりとベッドからはみ出た。
起こしてごめん、と謝罪一言入れて目的を果たす。
戻ると先程から全く変わらない体勢の彼。
……力尽きてる。
#wtプラス



「……おきた……」
『声寝てますけど』
寝起き悪すぎて誰かにモニコしてほしい、と冗談半分笑ったら名乗りあげられた。
『起きました?』
「起きた。 毎度わざわざよく付き合ってくれるよねぇ」
『……まぁ、寝起きのぐにゃぐにゃしてんの他の奴に聞かれんのも癪だし』
「ん……んん?」
#wtプラス



「わざわざいいのに」
文字通り命を救ってくれた彼にお礼の品を渡した。
「結構振り回したけど、あの後体調は?」
「全然、問題なく」
「食欲、睡眠」
「大丈夫」
「ならいい」
安堵で笑う様子に、今までとは違う感情。
仕事と分かってるけど。
(かっこよかった)
瞬間、鮮明に覚えている。
#wtプラス
「あ。 ……な、生身でも私持ち上げれるってほんと?」
「よく覚えてんな。 できるだろ、やるか?」
「い、いや大丈夫……!」



「外を出歩いた時は流石に冷えるだろ」
「コートとポケットで完全防御」
「強いな……」
暖与えまくって本人大丈夫かと訊かれたが心配には及ばない、私は強い。
「人間カイロ様する利点もある」
「へぇ?」
「カイロと称して堂々と男子の手を撫で回せる」
「それセクハラって言わねぇか?」
#wtプラス
「え、じゃぁ私、現在進行形でセクハラしてんのかな」
「やめろやめろ誤解招くだろ」
「なになに、セクハラされてんの?」
「ほら変なの釣れた」
「海に返そう、リリース」
「おれの手もよろしく〜」



ランニング中の彼を見かけ呼び止めた。
「精が出るね〜」
「日課なんで」
「えらい、ご褒美にお姉さんが飲み物を奢って進ぜよう」
少し驚いた様子で逡巡、2秒後には素直に礼を言われた。
「良いことあったんですか?」
「荒船君に会えたからとか?」
「あー……随分可愛いこと言いますね」
#wtプラス
「男誑かすの上手いってよく言われません?」
「あはは、全然!」



「明日の夜暇か? 美味そうな店あるとか言ってただろ」
「い、行く!」
実は明日は誕生日なのだ。
その夜に好きな人とご飯の予定って、神様味方してる?
翌日、約束通り一緒にご飯食べて、会計で俺の奢りだと遮られた。
「誕生日の時間貰ってんだし、これくれーはな」
覚えてたの!?
#wtプラス





 
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