WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




最近気付いたけど、夜に会う彼はマスクをしてないことがある。
わりと見慣れた輪郭とはいえ、学校は相変わらず着けてるし度々見つめてしまう。
「マスクねーの気になっか?」
「え、いや……かっこいいなと思って……?」
「……変な趣味してやがるよな」
目逸らされてしまった。
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「自販機行くけど何か買おうか?」
「いや、俺も行くわ」
テレビ消して立ち上がる彼に瞬き2つ。
そんなわざわざ。
あ、自分で選びたい的な奴か。
「……分かりやすいつもりだがな」
「んー?」
「なんでもねーよバーカ」
「今のは理不尽な罵倒だ!」
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おめー以外にはバレてんだよ!



色とりどりの毛糸に視線が向いた。
「マフラーかなぁ」
「編むんかよ」
「挑戦心」
黒っぽい毛糸をいくつか触った彼は内1つを投げつける。
「綺麗にできたら貰うわ」
「は!? 自分用なのに、貰われたら私は」
「これやる」
首に巻かれた黒を引っ張るカゲ。
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「……〜っ、」
「複雑かよ」



呆れながら「よくもまぁ話すネタ尽きねーな」と指摘されたほど私はお喋りだそう。
「……最近よぉ」
お、珍しいカゲからの話し出し。
「これ前おめーが喋ってた奴だなって、おめーが頭にチラつく」
……その場に居ない私が思い浮かぶって、それ、
「恋なのでは……?」
「言ってろ」
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長いこと駄弁っていたら時間も時間でわりと彼も眠そうだ。
「ココア飲む?」
案外すんなり頷かれる。
淹れたココアを彼に差し出すと一口飲んで「あま」とぼやかれた。
その後はぐいーっと良い飲みっぷり。
「はー……ココアうめーから今日は泊まるわ……」
「どういう理屈なの」
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「こっち来てたんだな」
「連休だからね〜」
帰省の度に顔を合わす10年来の幼馴染。
近況報告の合間「今のとこ住みづらいし、大学三門にして一人暮らししよっかな!」と
半分冗談のトーンで話せば「いいんじゃねーの」と妙にハッキリした返事。
「来れば」
……本気で検討するか。
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「免許取れたらどっか行こ」
2人きりの意図は伏せたダメ元の誘い。
「いいけど、行きてーとこあんの?」
「決めてない」
「夜景見てぇ」
選出にときめいたけど珍しくて怖さが勝った。
「見せたい人が居るの?」
「俺らだけじゃねーのかよ」
……寄った眉に、自分だと言われた気がした。
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あ、カゲ。
用事あるから声掛けたいけど少し遠巻きだし人も居る。
彼の頭を確認して人の合間を縫いながら歩き出すと彼の足が止まり振り返る。
「体質は知ってるけどよく気付くよね。 そんなに分かる?」
「服引っ張れる感じに似てる」
「刺すのではなく」
「抓まれるとも言う」
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キスをお願いしようと覚悟決めて早々、口開く前に近付いてきた顔に待ったを掛けた。
「……ちげーのかよ」
「っ合ってる、けど」
そ、そうじゃなくて。
「何もしなくても伝わるとは、思いたくないの……」
俯きながら告げた言葉に数秒黙る彼。
「……!」
「今のは俺がしたくてした」
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「1本寄越せ」
「え、今食べてんのがラス1」
「別にいいぜ」
何が!?
先端だけ歯に挟んでたポッキーに手が伸びてきて思わず身を退く。
ぱきり。
折った持ち手の方を口ん中放り込んだカゲの金色が静かに見据える。
「何焦ってんだばーか」
「黙って……」
我ながらなんでだろう。
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所在を聞かれて外の階段に座ってると答えた。
数分もすれば背後から呼び掛ける声。
驚いて立ち上がれば立ち眩みでふらつ、いたら身体ごと肩掴まれてその場に留まった。
……力強い、
「あ、ありがとう、」
「んなこと考えてる場合かよ」
呆れた溜息は意識したのがバレてた証。
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「はー……」
珍しくあちこちに視線奪われるなぁと傍から眺めていたらやたら深い溜息が出てきた。
「最近おめーを基準に物事考えてていよいよだな……って思う」
……なんでそう嬉しいこと言っちゃうかなぁ。
マフラーでにやけた顔は隠したけど彼には全部バレているんだと思う。
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意識が半分浮上すると、誰かの指が何度も髪を通していた。
「起きたか?」
「かげ……?」
「はよ」
「おはよ……なでられてる……」
「寝起きのゆるっゆるな意識好きなんだよ」
「……いいことだ?」
「ぶっは」
私が寝ぼけ眼でした会話を覚えてないのを把握した上で彼は話している。
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帰宅早々ベッドでゴロゴロする彼に手首掴まれ一瞬で腕の中に捕まった。
「死んでんのかってくらい身体冷てぇ」
「い、生きてる……暖房付けなかったんだね」
「俺ぁ自家発電できっから」
「しれっと私の冷え体質ディスられた……」
「ぶっは」
冷えた足当てようとしたら逃げられた。
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「熱あんじゃねーの」
前髪かき上げて額に当てられたひんやりした手が気持ち良い。
「……バカは風邪引かねーってのは風邪に気付かないかららしいが、おめーもそのクチか?」
「カゲにバカとは言われたくな……えっ熱ある?」
「どっかから体温計借りてこい」
「あるの!? 嘘!」
測ったら案の定。
「……家まで送ってやる」
「えっいいよ」
「病人は黙ってろ」
「ゔ。 てかよく熱気付いたよね」
本人まだ熱ある実感ないのに。
「……普段からおめーのは大体熱く感じる」
「あぁ、刺し方?」
「今日は更にあちぃ」
「あ、成程カゲに被害が……」
「……心臓に悪ぃ」
「ん?」
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好意が楽だから一緒に居てくれてるんじゃないかとたまーに疑う。
「もう少しだけ私のこと好きにならない?」
溜息混じりなはぁ、という返答はあまりに端的。
スマホを触る彼の視線が一瞬こっちに向いたがすぐ戻った。
「とっくに惚れ込んでるから無理」
こ、こ、こ、こいつ……!
手招きに応えれば、制服のリボン鷲掴みで引き寄せられ唇を重ねられた。
「おめーが鈍感なんか、俺が分かりにくいのかどっちだ」
「……甘んじて鈍感説受け入れるから、お互い様ということにしてくれない……?」
ほとんど片道と思っていた恋人からの急なデレはキャパオーバーする。
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会話しながらの帰路、不意に引っ張られて影浦君に受け止められた。
直後すり抜けて行く自転車。
「危ねーな」
「あ、ありがと」
自転車は過ぎたのに彼は離れない。
「もう大丈夫、だから 離れ、」
て、
言い掛けたその瞬間更に強く抱き締められた。
…………言葉が、出ない、
その硬直が、どれくらいだったのか、判別が付かなかった。
とても長かった気もするし、本当は数秒だったのかもしれない。
ゆっくり離れた彼にわりぃ、と短く謝られた。
一文字も返事ができないまま、帰路を進む彼の後を一歩遅れて付いて行く。
……なんでだろ、身体が熱い、
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「お兄さん1人?」
するりと腕絡ませたら驚く金色。
「お茶でもどう?」
「……誰かと思った」
「あは、知った顔で残念?」
「寧ろ安心したわ」
外で1人珍しいと聞けば同い年達と遊ぶ予定だそう。
「でも既に2人遅刻確定」
「カゲ時間守るもんなぁ」
「マジで茶付き合っかな」
「おぉ?」
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仮眠すると押し掛けて来た彼がどかりとソファを占領した。
「いろいろ試したがここが1番熟睡するわ」
「今日作業あるから物音するかも」
「余程でけー音じゃなきゃ気にしねー」
毛布を被せたら短い礼一言、首から上だけ出た頭を撫でれば
「撫でんな」とぺしぺし手を跳ね除けられた。
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友人達にこちょこちょ効くのか探るのが最近の遊び。
残すは彼だけだが、企む度に凄い怪訝な顔をされている。
「……この間から何考えてやがんだ」
「少々」
タイミングが見つからず好奇心ばかり募る。
「おめーそれ物心付かねーガキと同レベルだぞ」
「まだまだ若いな私」
「野郎」
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友達に告られる度にのらりくらり躱して有耶無耶にすることが多かった。
まさか彼が告ってくるとは思わなかったけれど。
「おいこら」
躱して躱して1週間、とうとうさぞ不機嫌そうな奴に捕まった。
「嫌じゃねーなら逃げんな」
……友達じゃ決して見られない顔に、心臓が、跳ねた、
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好きな奴できたかもしんねと恋バナ染みた話題を吹っ掛けられた。
ひえー、あのカゲが?
感動半分興味半分で聞けば案外話してくれた。
「なんでそいつに限ってこのクソ体質ねーんだ?」
ぜってぇ一発で気付くぜ、とぼやくカゲ。
伝われとは思うのか、と思いながら肩を竦める。
「理不尽に自分が持ってると他人に無いのが解せないよねぇ」
自身に向けられたものと言えど、感情が分かる人は他人にも感じろと思うんだなぁ。
……不意に机に置いてた指先を絡められる。
「……!?」
「……おめーのこと言ってんだぞ」
「えっ……え!?」
「あー……今はそれでいーわ」
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「中学で同じクラスの時から気になってて」
「知ってる」
「高校でまともに会話した時から好きで」
「知ってる」
「戦闘の様子が死ぬほど好きで」
「まぁ知ってた」
なんでも知ってんじゃん。
思い出を呼び出しながらまだ直接は伝えてないこと。
「初恋だった」
「……知らんかった」
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「随分久しぶりじゃねーか」
「まーくん!」
「……いくつだ思ってんだおめー」
「ごめんなさい昔からの呼び方って本当に直らなくて」
指摘されると途端に恥ずかしい。
私あだ名呼びしないキャラに育ったのに。
「せめて名前」
「え」
「覚えてんだろ」
「まさとくん」
……慣れろと?
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カゲ居ると聞いたのに姿が見えないと思えばソファで寝てたそう。
珍しい、なんてまじまじ見たら起きるかな。
「……ん゛」
「!」
寝言か呻きか、普段より幾分か低い声にどきり。
反射的に顔を隠した。
「……あ?」
「ごっ、ごめんなさい帰ります!」
「待てコラ何考えてやがる」
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「こ、子供だから、優しくして……」
「タメだろーが」
「影浦君のが誕生日早いし……」
背後の壁に踵をぶつけながら屁理屈述べれば、喉を鳴らすようにはん、と笑われた。
「数ヶ月だろーが数歳だろーが加減しねぇっつったしな」
そう言って、子供扱いには程遠い、キスを、された。
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[そろそろ会いたいなぁ]
[年末年始空いてんだろ 泊まりに来いや]
[えっ]
[親はノリ気]
意外な誘いに動揺すれば引っ越しの理由が理由かと続いた。
[彼氏に守ってもらうって言うから待って]
[待てこら]
[その理由はやめろ]
[おい]
[くそったれ]
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[許可取った]
[おー]



最近帰り道で一緒になるけど、気になることが。
「いつも少し遠回りしてる……?」
「人通り少ねーし時間ある時はな」
「あー」
意識も拾うらしいしなぁ、期待した理由じゃなくて残念だけど。
半歩前を歩いてた彼が急に足を止める。
「んだよ」
「……あー、いやなんも!」
「はぁ」
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「明日お店行くから構って」
「クリスマスにかよ」
「だからこそというか」
聖夜だしせっかくなら好きな人と居たい、片想いだけど。
「……まーいいけどよ」
数秒考えてからの溜息混じりの了承に瞬き2度。
「優しいなぁ」
「……何がだ」
薄々勘付いてはいるだろうに断らないとことか。
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帰ってきた彼のマフラー解く様子をまじまじ見てたら目が合った。
「おめーよく分かんねータイミングで変な感情向けやがんな」
「多分服脱ぐ様子にときめくんだと思う」
「マフラーでもか」
「マスクも」
「……」
「下心半分だけだから」
「……俺ぁどう反応すんのが正解なんだこれ」
#ワートリプラス



恋人関係からそれなりの期間が経つけど、未だにその能力の感覚を聞いたことがない。
「今どんなふうに感じるの?」
最近常に端にあった思考が不意に口をついて出る。
考えた素振りを見せる彼は答えが出たのか、普段より熱っぽい金色で私を見下ろした。
「心臓にまで、響く感じ」
#ワートリプラス



何やってもダメな日にはお好み焼きをキメるという、
私の特性を知るカゲが私の代わりに焼いてくれている。
「1人でここ来る日のおめーほんっと危なっかしいかんな」
「面目ない」
でも彼を独り占めして家まで送ってもらった後は大丈夫な気がしてくる。
「……厄除け……?」
「あ?」
#ワートリプラス



「考え事か?」
「んー?」
不服そうなカゲに瞬き2度。
確かにそうだが彼に関わるものではない。
気になる要素あったかと考える内に紡がれた「浅ぇ」という不満の声。
「俺らしか居ねーのに」
……成程、口元が緩む。
「めんどくさい男だなぁ」
「……言葉と感情が一致してねーぞ」
#ワートリプラス





 
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