WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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王子一彰




「来ちゃった」
扉を開けてひらりと揺れる手と素敵な笑顔に硬直。
「はっ……いやなんで!? 片道2時間……!」
「そりゃぁ大切な幼馴染の誕生日ですから」
さ、サプライズにも程がある。
「で、今日空いてる?」
「順番! 空けるよばか! 母さーん! 今日の買い物行けーん!!」
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「私になんかお願いできる券、概念」
お祝いの言葉の後にそう述べると彼は幾度か瞬きを見せた。
「それって1回きり? 有効期限とか」
「常識的な範囲で……」
こんな確認する?
返答を聞いた彼は微笑むと少し考えさせてね、と。
「何を要求されるんだろうって戦々恐々」
「酷いな」
#ワートリプラス
せっかくだからやり方を考えようと思って。



「これは?」
「香水……」
普段遣いするにはドキドキするので代わりに使ってもらおうという魂胆……
と話せば彼は成程、と開封した香水を手首に。
匂いを嗅いで不意に私の首筋に手首をぴとり。
「っえ、」
「お裾分け」
ただでさえドキドキする匂いなのに貴方はそういうことする。
#ワートリプラス



家まで送ってもらった別れ際に「キスも、してほしい」と我儘を言った。
初めてだから1度で充分なのに、2度3度と熱っぽく。
肩に回された彼の指先に、少し力がこもるのが分かる。
「……っ、」
「君のご両親に見つかるといけないからここまでね」
名残惜しそうな表情に、心臓が、
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イベント事に疎い方だからバレンタイン受け取りっぱなしなんだよねぇ
とか言ってたら王子から逆チョコされてしまった。
[今王子がくれたチョコ食べてる]
[お味はいかが?]
[おいしい]
[よかった]
[あとちょっとお高い味がする]
お腹抱えて爆笑してるスタンプ送られてきた。
#ワートリプラス



薄々思ってはいたけれど、最近になってようやく確信した。
「……王子さ、なんか私にだけ距離近くない?」
言われた彼は2度瞬くと「そう?」と首を傾げた。
「絶対そうだよ! 無自覚なの?」
「そこまでは気付いてくれるのに不思議だな」
「不思議なのは私の方……え、何今の文脈」
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「うわ……王子良い匂いする……」
「君がくれたんだよ?」
知った香りは間違いなく私が彼に……
プレゼントと言うと響きが良すぎるな、押し付けた物だ。
柔く笑う彼は手首をぴとりと私の首に押し付ける。
「……何してるの?」
「ん? 移らないかなって」
流石に少し目が泳いだ。
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「同じのを新しく買うつもりなんだよね」
以前私の好きな香水を彼に押し付けた。
半分使っただろう頃に訊けばそんな返事。
「気に入ってくれた?」
「それもあるけれど」
「けど?」
「君の好きな香りがぼくの匂いになるなら、案外吝かではないなと思って」
す、凄いこと言うな……
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「式終わったら、多分会えなくなるから」
少し早いけど、と卒業証書傍らに差し出した包装。
ホワイトデーに女子が渡す図は珍しいだろうが貰ってしまったので仕方ない。
「県外だっけ?」
「うん」
「……会いに行ってもいい?」
「えっ」
「至極真っ当な理由で先月贈ったんだよね」
#ワートリプラス



雑に組まれた指に意識が向くよりも先に唇が塞がれていた。
あっさり内部に踏み込んでくるそれに、
意識が奪われそうなほどぐらついて思わず身動ぐ。
「ま、って」
隙間からようやく言葉を紡げば、浅く息を吐き出す彼の目が少し細くなった。
「ごめんね、悪い反応には見えないな」
#ワートリプラス



チェス初心者にも真剣に相手してくれるので勉強して何度目かの再挑戦。
これと思う会心の一手を打つと数秒後、彼は考え込む姿勢に。
普段楽しげに微笑む口元も今は一文字。
「初めて王子君悩ませた」
嬉しい。
盤上に向けていた視線が持ち上がり「ずるいな」と笑みを見せた。
#ワートリプラス



「っわ、わ」
「お、っと」
ヒールでよろめいたとこを支えられた。
「わーっ、ごめん!」
「大丈夫」
恥ずかしいところを見られてしまったな、そして距離が近い。
「どうぞ?」
すっと差し出された手、理解した瞬間顔が熱くなった。
「え、と、よろしく? お願いします?」
「喜んで」
#ワートリプラス



「顔色悪い?」
心配気に覗き込む彼に眠れてなくて、と答えた。
閃き顔の彼は自分の足を2度叩く……マジすか? 膝枕促された。
再度の催促におずおず従えばゆるりと髪を通す指先。
あ、結構気持ちいいかも……瞼重くなってきた、
「恋人みたいだ」
「ぶッふ」
酷い動揺をした。
#ワートリプラス
「大丈夫? 盛大な吹き出し方してたけど」
「誰のせい……眠れるもんも眠れんわ……」
「睡眠大事だから寝てね?」
こんにゃろう人の気も知らないで。



ゆったり瞬く様子が凄く絵になる。
本に集中する彼も長らく見つめられると
流石に気になったのか「どうかした?」と聞かれた。
「や、見惚れてただけ」
「っふふ」
堪え切れずに笑った彼は空いた片手で口元を覆い隠す。
「今のはよくないな」
「うそ待って、王子まさか照れてる?」
#ワートリプラス



「あげる、バニラ好き?」
コンビニに単身突撃した彼が棒アイス2本引っ提げて戻ってきた。
買い食い。
「……モテるね」
「うん?」
「女子にそれだけ優しかったら」
「まぁ、なんとも思ってない子にここまで良くはしないよね」
私はピタリと止まったが、彼は平然と食べ進めている。
#ワートリプラス



友達に告白された、というか、されてる。
思考全部ショートしてるのに声は明瞭で、
「聞こえてる?」と様子を伺う彼を一瞬見やるので精一杯だった。
手の甲をすいっと這う指先は、私が知る異性の誰よりも綺麗。
「あんまり大人しいと調子乗りそうだ」
嫌だとは、思えていない。
#ワートリプラス



ソファで居眠りの彼を見て真っ先に浮かんだ感想は『王子って寝るんだ』だった。
相変わらず端正な顔だと眺めていたら、吸い込まれるように、
「……、」
……ふっと目前の瞼がパチクリと2度瞬いた。
「……!?」
ガタガタガタッ!
「待って今の詳しく聞かせて」
「はは離して!?」
#ワートリプラス



「忙しいのに何故先輩は私に付き合ってくれるのですか」
1秒間を開けた先輩は口元を緩めて「ありきたりな理由だよ」と返した。
「分からないです」
「なら次会う時までの宿題にしておこうか」
「宿題」
「君は真面目だから、こう言われたら考えるだろう? あとここやり直し」
「あ」
#ワートリプラス
宿題。 宿題。 ……宿題。
「こんにちは。 意外と早く会え、……おっと?」
逃げ出してしまった。



「エイプリルフールはどう過ごすご予定?」
「嘘付く予定はないなぁ」
「騙される予定は?」
「楽しいものなら歓迎」
「ちょっと凝ったものがあるけど、どう?」
取り出したのは100ページほどの文庫本。 小説?
「……ねぇ王子!?」
「はい。 ふふ」
「途中から白紙なんだけど!!」
#ワートリプラス
「良いとこだったのに! 良いとこだったのに!!
 次のページ捲ったら白紙!! 文字のない紙数十ページ!
 でもそれまで数十ページマジなミステリー!
 凝ってる!! これ王子が書いたの!?」
「一部に監修してもらったけれど、そうだよ。 楽しんでくれたかい?」
「オチを……教えて……」
「ふふ」



「君がくれた香水って、君からはどんな香りなの?」
どんな、どんな?
「……大人っぽくて、甘くて、爽やかだけど深み? があって、えっと、」
言語化は難しい。
途切れ途切れでなんとか伝える私に王子は相槌を繰り返す。
「それがぼくへの印象ってことでいい?」
「……えっ、」
#ワートリプラス



「あ、だし巻きいいな」
昼ご飯に王子のお弁当箱を覗いたら美味しそうな。
物欲しそうに見えたのか「1つあげようか?」と訊かれてしまった。
「いいの?」
「いいよ」
やったーと大人しく待っていたら、箸で挟んだ玉子をそのまま差し出される。
「はい、あーん」
あっ、そう来る!?
#ワートリプラス



「オージご機嫌だねぇ」
「ん?」
「さっきからスマホ眺めてずっとニコニコしてるから」
「参ったな、そんなに?」
「そんなに。 顔が惚気てる」
「……そんなに? ふふっ、 だって、彼女が愛おしくて仕方なくて」
「うんうん」
#ワートリプラス
「ぼくの彼女がこの世で1番可愛い」
「惚気けるね〜」



「てっきり両想いだと」
「え?」
そんなの謂れなき思い込みだ。
全然違うし困るよね、と王子に視線を向けたら普段と変わらない表情で笑われた。
「ぼくはそういう意味で好きだけれど」
「え?」
口笛。
「……っか、かんがえさせてください……」
「うん」
#ワートリプラス
押す価値はありそうだ。



修羅場が終わった。
ぐたりうつ伏せてると「どうやらお疲れだね?」と聞き慣れた声。
「王子、頼みが」
「どうしたの?」
「雑に褒めて」
「雑に?」
復唱して数秒考えた彼は不意に私の頭をポンポンと撫でるように。
「……丁寧だ……」
「髪柔らかいね」
「あぁもう」
疲れも飛ぶわ。
#ワートリプラス



訪問営業が振り切れない。
肩を引かれて顔を上げたら交代、と笑う顔。
「間に合ってますので」
穏便に切り上げ玄関ドアを閉める。
「ありがと、」
「どういたしまして。 お礼と言ってはなんだけど、この後甘えてくれたら嬉しいな」
掴まえたままの肩を引き寄せて額に唇を寄せる。
#ワートリプラス



驚いたその一瞬で視界が90度近くひっくり返った。
たじろぐ私を覆い被さる身体が、両膝を割って入る男の脚が、
するりと絡ませられる指が、気になって仕方ない、
緊張と動揺と浮かぶ熱のまま視線を上げたら、知った顔に初めて見る表情。
「ようやくそういう目で見てくれた?」
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意訳すると「明日改めて告白するよ」と言われた。
会う約束なのに途中で逃げてしまい、結局時間が決まっていない。
[午後には基地居るけど可能ならば夜にしてください……]
いやに返事が長く感じる。
[君のそういうところが好きだな]
!?
[了解。 20時頃はどう?]
……!?
#ワートリプラス



キスされかけたのを慌てて口を塞いで止めた。
ぱちくりと瞬きを繰り返す王子は、自身の唇を塞ぐ私の手首をやんわり掴んでどける。
あ、これだめかな、止められない気がしてきた。
じっと見つめられ、眉を下げるように笑った顔。
「……だめ?」
うっ、
……だめそう、私が。
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腕の中の荷物が突然半分以上消えた。
「王子く、」
「どこに運ぶの?」
「え、職員室……」
「了解」
「あの」
ノート、と声を掛ければ、私の腕に残った数冊に一瞬視線を投げられた。
「ぼくは男だから全部持つのもわけないけど」
「? うん」
「口実には持ってこいでしょ?」
……!?
「き、期待させるようなこと言っちゃダメだよ、」
「君だけだから大丈夫」
「!?」
「下心だけど付き合ってくれる?」
「え、う、あー……」
よろしくはなんか違う気がする!
返答に迷い唸ったらくすっと笑われた。
「期待させないでなんて言われるとこっちが期待しちゃうな」
あ、あああ、
#ワートリプラス



「何かあった?」
「……うん? どうして?」
「最近反応鈍いから」
私を見つめる目が細くなり、笑った顔は仰ぐように。
「ぼくもただの男だなーと思って」
「? っ、わ」
引っ張られよろめいた身体を彼が抱きとめる。
あ、嘘、抜けれない、
「っ王子、」
「まだまだだな、本当に」
#ワートリプラス



「きみからぼくの匂いがするって言われたよ」
好きな香水を押し付けた、ら、逆に匂いを押し付けられる奇妙な関係が続いている。
「……なんて答えたの?」
「ん?」
「言われて、その後は」
彼が表情を和らげる。
「素直に牽制って」
牽制。
「マーキングと呼ぶのかな?」
まーきんぐ。
#ワートリプラス



「今日はお一人ですか?」
驚きを含んだ表情がふっと微笑んだ。
「えぇ、そうですよ」
「お時間あればお茶でもしませんか?」
「ふふ」
敬語に堪えきれなかったかのように彼が笑う。
「それ皆にもやってるの?」
「まさか、王子君だけだよ」
「嬉しいな、喜んでご一緒させてください」
#ワートリプラス



時々目が合う程度の、知人よりも遠い関係だった。
それが今、事故であるにも関わらず、息遣いが分かる距離から離れられないでいる。
顔が酷く熱い、
彼の表情も伺えない、
頬を撫でる指先が顎の輪郭を掴んだ。
「……ごめんね、順番変わりそう」
謝罪を紡いだ唇が落ちてきた。
#ワートリプラス



「書きづらいんだけど……」
直接伝えてもまるで聞こえない様子で彼は私のノートを眺めている。
「平仮名で『きょう』って書いてくれる?」
意図は読めないが端に注文通りに綴る。
「うん、やっぱり」なんて納得した声。
「手紙の差出人は君かな?」
「!」
「字のクセがそっくりだ」
#ワートリプラス



 
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