WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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菊地原士郎




「……不整脈?」
「え、うん、正解」
驚きつつ返事して彼の耳が良いことを思い出す。
「気持ち悪くない? 平時でも心音安定しないって」
「自分の脈気にしな……あ、気持ち悪く感じるのか」
「……なんでそうなんの」
私の耳は普通だけど、彼の声が不機嫌になったのは分かった。
#ワートリプラス



なかなか会えない恋人には通話繋げるのも一苦労だ。
「私は毎日でも通話できるのに」
『嫌なんだけど』
「なんでよ!!」
『うるさ』
はっと口元を押さえる。
そうか耳が良いのか。
『通話なんかより肉声がいいに決まってんでしょ』
「……!?」
『切るよ』
「えっあっおやすみ!」
#ワートリプラス



「耳良いのは知ってたけど不整脈にまで気付くとは」
「1人だけ不安定だったら嫌でも気になるでしょ」
「確かに違うものには目が行くもんね……この場合耳か?」
「そのこだわりどうでもいい」
急に速くなるから、誰かに気が合るのか疑ってたら気付いたとか、絶対言えないけれど。
#ワートリプラス



「ほら」
ずいっと押し付けるように渡された紙袋。
「?」
「先月の奴」
「っえ、わざわざ? 菊地原君が?」
「何、ぼくが礼したら変なわけ?」
「違う違う待って」
凄く嬉しくて舞い上がっちゃいそう。
「子供っぽい」と悪態付く彼の口角が一瞬上がったのを、私は見逃さなかった。
#ワートリプラス



周囲に人気のない状況でばったり。
一言二言会話して若干の静寂……ふと、一歩、距離を詰められる。
近付く顔に慌てて制止を掛けるべくお互いの身体の間に手を差し出す。
「まっ、待って、人来たらどうす、」
「ぼくが分かるから黙っててよ」
これ邪魔と手首封じ込められた。
#ワートリプラス



カッ。
「……」
カッ、カカ。
「……ねぇ、爪切りなよ」
「え?」
「画面爪で叩いてるでしょ」
指先を見てみれば確かに結構伸びていた。
「ほんとだ」
「うるさいからスマホ置いて」
「ごめーん」
「脚下ろして」
「うん? ……あ、えっ、寝るの!? 膝枕で!?」
「うるさいってば」
#ワートリプラス



元々憎まれ口叩く人だけど私に対しては特に辛辣。
「好きな子ほどいじめたい的な?」
「本気で言ってるわけ?」
「うわガチトーンすぎて否定のがマシだった……」
傷付くんだけどなぁ。
嫌な音を立てる心臓を彼が聞き逃すはずはない。
「嫌いなら話しかけなきゃいいのに」
「…………」
#wtプラス
(そこは黙るんだ)





 
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