WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




「お、おはよ、う」
「……はよ」
開いた扉の先に居たろくに会話したことのないクラスメートとばっちり目が合い、
恐る恐る挨拶したのが最初だった。
無視されるかと思いきや、程なく返ってきた挨拶に驚いて瞬き数回。
「おはよう」
「はよ」
今やちょっとした楽しみになっている。
#ワートリプラス



ぱっと顔をあげたら鼻先が掠るほどの距離に好きな人の顔。
あまりに近くて驚けば今度は壁に直撃。
「っつ〜……」
「何してんだおめー」
強打した後頭部を抑えて俯いたら呆れた声。
「びっっくりした……」
「おめーが急に顔上げたんだろ」
「驚いたりしないの……」
「したわボケ」
#ワートリプラス
今顔を上げればちょっと珍しい顔を近くで見れる気がした。



さみぃと防寒薄い友達にマフラーを貸した。
「……落ち着かねー」
「あれ、肌触りダメ?」
「他人の匂いがする」
そう言いつつも寒いのが勝ったかカゲは鼻までマフラーを上げた。
……彼からは見慣れない柄のマフラーに顔を埋める様子は、なんと言うか、
「……可愛いな」
「あ?」
#ワートリプラス



ダチとなんら変わらん付き合いの女にマフラーを借りた。
今まで借りた物の中でダントツに甘い匂いがして落ち着かねぇ。
「自分のマフラー貸すことで近寄る男の牽制目論む彼氏みたいな気持ち」
「待てやコラ、なんで俺を彼女枠にしやがった、あ?」
「例え、例えだかっイダダダ」
#ワートリプラス



「今日は温いな」
今日も冷えるなと思った矢先に偶然彼から出てきた言葉に疑問符を浮かべる。
カゲが手を突っ込むコートのポケットに自分の手をずぼり。
「なんでんな冷えてんだ」
「不思議だねぇ」
「ポケット冷えんだが」
「温めて」
「野郎」
呆れた溜息とは反対に指先握られた。
#ワートリプラス



普段作戦立てない隊だけど面白ければ乗ってくれる。
「っふふ」
「またなんか考えてやがんな?」
我ながら内容が面白くて笑ったらバレた。
手招きして屈ませ、こそっと耳打ち。
「っぶははは! そいつはいいな」
「ね?」
#ワートリプラス
「ラブコメの一幕みたいだ、不良と委員長とかの」
「あ?」



「はん、」
数秒焦点合わなかった視界で、機嫌良さそうに笑う彼の顔を見た。
「こいつほんとに俺好きだなと思って」
かー、と浮かんできた熱を手放したくて身を退……
退きたかったのに腰に腕回っていたものだからろくに身動き取れず、
笑い半分「おいこら逃げんな」と咎められた。
#ワートリプラス



うっかり押し倒してしまった。
「う、わ、ごめんっ」
反射的に手を付いたから押し潰すことは避けられたけど心臓に悪い体勢。
退こうとした際垂れた髪を触られ「なっが」と一言、左側の髪を全部かき上げられた。
そのまま動かない彼と視線交わし数秒、
え、どうするのこの空気、
#ワートリプラス



[なんで学校居ねーの]
昼過ぎに届いたメッセージに[ごめん熱出て早退してる]と返した。
[熱は]
[37.5くらい〜]
[親は]
[今日は遅いらしい]
[動く元気は]
[ある〜]
[帰り寄ってやるから欲しいもん今のうちに言っとけ]
[温情]
[投げキッススタンプ送るわ]
[いらね]
#ワートリプラス



「最近うるせぇ」
半ばイライラした様子の彼に捕まった。
「えっと」
「んだよ」
「あのですね」
覚えがあるだけに何言っても致命的だ。
「っちょ、チョコは何好き?」
「は?」
素っ頓狂な声、数秒のだんまり、全部察したかのような唸り、あぁほら!
「……ミルクかビターなら、食う」
#ワートリプラス



思えば準備期間から全然気が休まらなかった。
そわそわしてたせいでバレたけど、
だからこそ当日まで黙認されたとも言える、物は考えよう。
「……」
「……」
チョコは渡せたけど沈黙が痛い。 相手が悪い。
「……いまいち伝わってねー気がすんな」
「え、もうフラれてた……?」
#ワートリプラス
「だかっ、あー……〜〜っくそ」
知った上で受け取ってんだからそれしかねーだろ。
と言いたいけど言えない。
渡してきた当人はだんだんと不安そうな様子になっていく。
のが肌で分かる。 くそったれ。



「大体俺が好きでもねー相手を手元に置くタチかよ」
「そうすね……?」
何かを踏んだ。
目の前には随分機嫌損ねた顔。
「そもそもどの口がその台詞言うんだてめー、何ヶ月付き合ってやがんだ」
「か、影浦さん怒ってます……?」
「……ッチ」
#ワートリプラス
「クソ鈍感……」
「えっ不名誉……」



「あっ」
「あ?」
一瞬だけ見えたその姿は、私の声に驚いたのか
またがさりと草陰の奥に消えてしまった。
「さっき一瞬猫が見えて。 三毛猫っぽい奴」
「あー、最近この辺うろついてるよな」
「!?」
「なんだよ」
「カゲが猫を識別してることにときめいてしまった」
「なんでだよ」
#ワートリプラス



真近にあった恋人の寝顔に心臓が止まるほど驚いた。
一瞬開いた瞼がまた伏せられる。
起こしてしまった申し訳なさと、寝起きから彼が居る愛おしさが、
「か、影浦君、」
「あ?」
布団の中で背伸びして、私からは滅多にしないキス。
……唇が離れるより先に後頭部が捕まった。
#ワートリプラス
「寝起き早々タチわりーことしやがる」
溜息混じりに呟きながら、見下ろす彼は何を感じるんだろう。
流石に訊けない。



「っあー……くっそねみぃ」
仮眠からお目覚めの彼におはようと声を掛けた。
普段より細い金色がゆっくりと瞬く。
手繰り寄せるように伸ばされた手、
捕まった後頭部がぐっと高度を落としあっさり唇が塞がれる。
「……っ、ね、寝ぼけてる……?」
「そこまで意識曖昧じゃねー」
#ワートリプラス



「っくしゅ」
「ねぇねぇねぇ花粉症? ねぇ花粉症なの??」
「うぜー」
「うわ泣いた……普段『うるせー』で済ますのに……」
「おめーがウザ絡みすっからだろ」
「マスク上げなよ、マシだよ」
「そうする」
「カゲの顔好きだから残念だけど、背に腹は代えられない」
「あ、あぁ?」
#ワートリプラス



結局告白できず終いだった。
「こんな日までここ居んのかよ」
私の特等席を覗いた彼は隣に腰を下ろすと1つ息を吐く。
「影浦こそ、」
「どうせ知った奴今後も全員会うし変わんねー」
「そっか」
「でもおめーには会えないかもしれねーだろ」
視線絡ませ数秒、
……今なら言える、かも、
#ワートリプラス



「なんだかあっという間だったなぁ高校3年間」
式を終えた後の帰路で、背伸びしながら独り言を紡げば、
隣からそうだなと返事があった。
「打ち上げ来んだろ」
「うん、行く」
「……」
「?」
「……やっぱいーわ」
「え、何? 何?」
「うるせー、遅刻すんなよ」
何を言い掛けたのか。
#ワートリプラス



[今暇だったりしない? LINE相手して]
既読付くなり早々スマホが震え、慌てて着信を取る。
『どーした、暇だから構われてーってタチじゃねーだろ』
「暇だからかもよ」
『寝言は寝て言え』
「やだ辛辣」
『声の覇気ねーんだよおめー』
「鋭いな……相手間違えたかな」
『んだコラ』
#ワートリプラス



言うなれば、甘かったのかもしれない。
恋人でも大丈夫だと思った。
好きな人であることは変わらないのに
「っごめ、ごめん、」
どうしてこうも胸が張り裂けそうなくらい辛いんだ。
その場で蹲り嗚咽を繰り返す私を彼は触れも慰めもせず、
淡々と大きな溜息を吐き出していた。
#ワートリプラス



「これはちょっと予想外だったな」
夜空けとけと指定され、日にち的にまさかお返しかと期待すれば
今口の中に広がってるのはソース。
「うめーだろ」
「美味い、カゲが焼いてくれるから倍美味い」
「そうかよ」
カゲが菓子持ってくるのも期待したけど別にこれでいっかぁ、美味しい。
#ワートリプラス



「……ゆめ……?」
「何がだ」
「かげになでられてた気がする……」
「気のせいだろ」
「んんん……」
「まだ寝てんな」
「おきてるよぉ〜……」
「寝てる奴の声じゃねーか。 賭けてもいい、おめーこの会話ぜってぇ覚えてねーぞ」
未だ微睡みの中に居る彼女の髪にするりと指を通す。
#ワートリプラス
「つーかあいつらどうした、作戦室居ただろ」
「ひかりたちは……落ちた……」
「!? ぶははは!! どこにだ?」
「あな」
「落とし穴か……っくく」
笑ってる。



「んなたけー靴履いてくっからだろ」
2人きりの外出、文字通り背伸びでヒール履いたら足を軽く痛めた。
「……せに、」
「あぁ?」
聞き取れなかったらしい彼は怪訝そうに。
ええいもうヤケだ。
「カゲ猫背のくせに顔が遠いから!!」
「は、……」
「そっぽ向くな! こっち向け!」
#ワートリプラス



「もしかして私が好きとか? あはは」
即んなわけねーだろくらいの返答を予想してたのに無言のまま。
「いや……うんとかすんとか言ってよ」
「そーだよ」
「……えっ、マジなの……?」
「今更すぎんだよな」
#ワートリプラス
「ごめん用事思い出したから帰るまた明日」
また明日会う気はあんのか。



机の端をとんとんと叩かれ隣の席の彼に視線を向けたら、消しゴム貸せの要求。
貸したらすぐ返ってきたけど、消しゴムとカバーの間に挟まる
「さんきゅ」と綴られた紙一枚。
……え、影浦君、意外と可愛いことする。
緩む口元抑えてたら「にやけてんじゃねー」と咎められた。
#ワートリプラス



「クラス変わっても影浦君と話してるの不思議な感じ」
「あんま話さなかったしな」
机から落ちたの拾って静電気ばちっと行ったのが最初の会話で。
笑いながら話してると頬にぴとりと当てられた指先。
「流石に乾燥の季節引いたな」
「…………」
「……なんつー顔してんだばーか」
#ワートリプラス



スクリーン越しだけど、入隊して初めて基地で彼の姿を見た。
「変な奴居ると思ったらおめーかよ」
へ、へんなやつ。
しばらくその場で余韻に浸っていたら、出てきた本人に見つかった。
「影浦君凄く強いんだね、かっこよかった」
「……」
「っわ」
ちょっと乱暴に頭を撫でられた。
#ワートリプラス



最近影浦君とちょっと仲良くなった、気がする。
立ち話してたら彼のご友人。
「珍しいな、ダチか?」
え、友達、友達なのかな?
不安半分、顔を上げたら彼と視線がばっちり。
「……あー、ダチだダチ」
よ、よかった!
友達公認に内心喜んでいたら、ぐしゃりと頭を撫でられた。
#ワートリプラス



「おい、コートは?」
「あ、昨日暖かかったから油断して、」
「……待ってろ」
戻ってきた彼は、持っていた物を押し付けるみたいに渡した。
慌てて抱き締めるように受け取る。
……温かそうなアウター、
「おら」
「……い、いいの?」
「着てろ」
「あ、ありがと、」
「……おー」
#ワートリプラス
「注釈、付き合ってない」
「嘘だろ……?」



「寝ねーのかよ?」
「まだ寝たくない……」
たまにあるんだよね、こういう日が。
いまいちピンと来てなさげな彼は数秒じっと私を見つめた。
「……変な誘いの奴か?」
変な誘いの奴……?
「……、……! ばっ、ち、違!!」
「ぶっははは!」
知ってたと言わんばかりに笑われた。
#ワートリプラス
「おら、急ぎのもんもねーならさっさと来い」
「この会話の後で……?」
「無い裏読んでんじゃねーよ」



[桜!! 咲いてた!]
手ブレ風などと諸々格闘してようやく納得した1枚を撮れ、
意気揚々とメッセージを投げた。
[この1枚に何分掛けたのかの方が気になった]
[深読みしたくなる返事ですね……?]
[あ?]
いつもブレてるせいなんだけど、写真よりも私の行動の方が興味ある?
#ワートリプラス



「うわ、あ、ああぁ解けない!!」
「男なめんじゃねーぞボケ!!」
ぐっと引っ張られてはソファに座る彼になだれ込むように。
「弁解は」
「ないですごめん本当にごめん」
至近距離で真顔とも無表情とも見える顔、
普段より落ち着いた声は怒ってるようにも聞こえ冷や汗がダラダラ。
いやそりゃ怒るよね寝込みに女友達からキスされてたら!!
後悔の苛み方が凄い、消えたい。
彼の反応に怯えていたら、溜息1つ、ふっと私の腕を掴む力が緩んだ。
私の肩に頭を乗せ、抱き締めるかのように腕を回す。
「別に、怒ってねーよ」
知ってたし。
ぽそりと呟く声に冷や汗再来。
#ワートリプラス



他に友人が居たら話す仲だったのが、1人で居ても声を掛けられることが増え、
最近に至っては何を喋るでもなく傍に居る気がする。
不意に抱いた気付きは彼の視線を動かした。
居心地が良いのなら嬉しいけど……こんなの直接訊けないな。
「なんでもない」と笑って誤魔化した。
#ワートリプラス





 
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