WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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犬飼澄晴




口説かれては雑に流す関係もわりと長くなった。
「悲しいなー、おれ一途なのに」
「……聞く相手間違えてるよ」
「間違えてないよ」
口角上げてた彼が不意に真剣な表情になり、じっと見つめてくる。
「……いつになったら本気にしてくれんの?」
#ワートリプラス
……温度差で殺しに来るのはやめて。



「はい、あげる」
袋を開けたらほんのり良い香り。 うわ逆チョコ。
「手作りだよ」
「!?」
「身も蓋もないこと言うと姉貴手伝った分の余り」
「……つまり私は間接的に犬飼のお姉さんから手作りチョコを貰、」
「そこはおれからってことにしてよ、せっかく渡したのに」
笑われた。
#ワートリプラス



「青春っぽいことしてみたかったなぁ」
「例えば?」
「部活の大会とか……あー、第2ボタン、とか?」
まぁ卒業校ブレザーだしボタン位置はあれだけれど。
「ならネクタイ交換とかやる?」
「え、」
「男女一緒だしバレないね〜」
笑いながら彼首元緩めるけどそれ、両想いがやる奴……
#ワートリプラス
「あ、釘刺しとくけどおれの後に交換頼まれたら断っといてね?
 流石に野郎のとこに行くのはやだな〜」
「……ネクタイ歪んでるよ、」
「ありゃ。 直してくれる?」
こ、こ、こいつ。



一歩迫られては一歩退き、数歩繰り返した頃には壁の際まで。
「あは、なんでか怖がられるなぁ」
「怖いよ……」
「おれら恋人なんだよね?」
近付いてきた顔の下半分を自分の手で覆う。
手の平を一瞬這ったものに反射的に手を引けば、
予定通りと言わんばかりに、唇を重ねられた。
#ワートリプラス
「じゃぁまた後でね」
してやったり良い笑顔で去る彼が非常に憎たらしい反面、顔の赤さを誤魔化しきれない。



映画鑑賞に友達の家へ。
がっつり見る勢は液晶近くのソファ、私と犬飼は一歩引いたダイニングテーブルで。
結構面白くてソファ組に混ざろうかと思い始めた頃、
不意についっと意図的に脛を這う足先。
行かないでよと言わんばかりに足首絡められ、あの、もう映画どころでは、
#ワートリプラス



「ッひゃあ!!?」
「うわビックリした、良い悲鳴」
ホラー映画の最中、肩を叩かれ心臓飛び出るほど驚いた。
振り返るとソファの背もたれの上で腕組みしてる彼は、
変わらぬ笑顔で一言ただいまと。
「邪魔しちゃいけないと思って静かに来たんだけど」
「逆効果って知ってる!?」
#ワートリプラス



最悪、私は何を。
眠る姿が珍しくて近付いただけだったのに。
本気で振り払おうとしても解けない手が逃げ道を潰していて後悔とか諸々込みでじわりと涙が浮かぶ。
「ラッキーと思ったのにそんな顔しないでよ」
呆れ笑いに顔を上げたら唇の先を掠め取られた。
「ほら、おあいこ」
#ワートリプラス



「押し倒された光景を未だ見たことがない」
幼馴染の「やろっか?」に一旦引いたが好奇心に勝てなかった。
「あー、こんななんだ……」
「あれ」
「?」
急に肘を曲げられ、私と彼の間にあった距離が半分ほどに。
「っち、かいわ」
「絶対ないなーって思ってたけど、アリかも」
「え」
#ワートリプラス



「お、なんの話?」
「犬飼がこいつを好きっつー話を今してた」
本当にその話信じてないんだけど。
冗談でしょくらいの否定を期待して見上げたのに随分あっさりした肯定。
彼は硬直する私をケラケラ笑い飛ばしてから顔を覗き込んだ。
「あんまり鈍いから外堀埋めようと思って」
#ワートリプラス



お祝いに何枚か劇選した飛行機の写真を渡したら喜んでもらえたらしい。
「写真はいつもそのカメラ?」
「そうだよ」
「お、じゃぁ撮ってもらおっかな」
カッコよく撮ってねと頬杖でピース構える彼に、笑いながらカメラを向ける。
(なんだか良いな、こういうの)
5月って感じがして。
#ワートリプラス
窓枠越しに広がる澄み渡る空、隙間から吹いてきた風がカーテンを揺らす。
日差しが差し込んで揺れる金色の髪、空を連想させる瞳の色、
ピースしながら冗談めかした彼の表情、100点だ。



朝の教室、見覚えのない封筒が机の中に入っている。
……封筒、手紙、……まさか。
「おはよ」
ガタンと大きな物音を立てた。
「せめて名前書いてほしかったな〜?」
「嘘、昨日の今日だよ、」
「夜更かしした」
あははと笑った次の瞬間に眉を寄せた彼はくぁ、と欠伸をしてみせた。
#ワートリプラス
「今読んでいいよ」
「……えぇ……ここで……? 本人の前で? 夜更かしするほどの断りならちょっと病んでしまうんだけど……」
「ていうか、もうこの時点で答えじゃん」
「?」
「おれは断るものにまで労力と時間を割いたりしないよ。 ……分かる?」



ふ、っと視線が奪われた。
硬直する私に気付いた彼が「どうしたの」と声を掛けようやく時間が動き出す。
「なんか、1人珍しい気がして」
「そう? おれ普通に単独行動するよ」
「ふー、ん……」
「腑に落ちてなさそ〜、それなら珍しくないようにしてもらおっかな」
「?」
「一緒に帰ろ」
#wtプラス
「……あっ、私に言ってるのか!」
「他に誰が居んの」
笑われた。



BGMを流しながら歩いてると耳からイヤホンをすっこ抜かれた。
振り向けば見覚えのある顔。
「え、何突然」
「突然じゃないよ、何度も呼んだ」
「うそ、ごめん、気付かんかった……何か用だった?」
「や、見かけたから捕まえただけ」
えぇ……
「あ、でも暇ならこの後付き合わない?」
#wtプラス
「ナンパ?」
「ナンパ」
「暇だし行くかぁ……」
「あは、律儀〜」



「お、いいの持ってるね」
「さっき配ってたの貰った」
鞄から取り出したうちわを暑いーと嘆いてた犬飼に向けてぱたぱたと扇ぐ。
「あはは生温い、強風で」
「扇風機扱いやめてくださーい」
「ていうか皆帰ってくるの遅くない? 屋台満喫してるの?」
「私らも適当にぶらつく?」
「賛成」
#wtプラス



「……うわ、びっくりした、いつから居たの」
「寝てたの?」
「おれが質問してるんだけどなぁ」
ついさっき、と返せば彼は適当な相槌を打ちソファからむくりと起き上がる。
髪をかき上げながら小さく欠伸。
「……珍しく無防備だね、なんだか不安になる」
「えぇ、それ男に言う台詞?」
#wtプラス



事故、完全に事故。
勢い余ってそのまま押し倒してしまうとは。
「ごごっごめん!」
慌ててど、こうとしたのに、ネクタイを掴まれたせいで距離を取ることに失敗した。
元の位置に戻された頭部、吐息まで分かる距離、青い目が私を見据えている。
「この距離で何もナシは酷じゃない?」
#wtプラス
「な、何が目的だ……」
「もうちょっと違う言葉あるでしょ」



「あれ、間食? 珍しい」
「……最近気にしてて……」
「細いのが?」
「細いのが」
「うわ贅沢な悩み」
ケラケラ笑う彼が確認するように私の手首をにぎにぎ掴む。
「確かにかなり華奢だよねぇ……まぁネイルとか映えるんじゃない?」
「やる予定がないですね」
「塗ってあげよっか」
「へ」
#wtプラス



「青でいい?」
「うん」
成り行きと流れで犬飼に爪を塗ってもらうことに。
「持ち出し禁止って言われたから」
それも彼の家。
1人テキパキと準備を済ませ、私の爪と向き合う。
「上手いね」
「散々やらされたからね」
「犬飼の目みたいな色してる」
「……うわー、悪い女って言われない?」
#wtプラス



細いならあれもこれも似合うじゃんとポイポイ放り投げてきた彼が最近大人しい。
「流石にネタ切れ?」
「いや遊び心はまだ全然あるけど」
「けど?」
「半分趣味で選んでたせいで、だんだんおれのタイプになってることに気付いてどうしたものかと」
「…………」
「どうする? 続ける?」
#wtプラス
「おれ好みに改造してるみたいで正直すごい背徳感あるんだよね」
「……ど、どうしたらいいの??」
「そっちが気にしないなら続けるけど、いいの?」



「……唇触る人は欲求不満だってよく言うよね」
「え? 何急に」
「んー?」
裏がありそうな笑みを浮かべながら見つめてくる。
結構な付き合いになるが、未だに彼の思考は分からない。
「何が足りないのかなって眺めてただけ」
「?」
「おれじゃだめかなー。 ねぇ?」
「話が読めない」
#wtプラス



「眠いから肩貸して」
何度目かのお願いに彼女はあっさりと頷いた。
眠いのは本当、でも人前での寝付きが悪くて実際に寝落ちたことはない。
「……マジで?」
……なかった、んだけど。
「起きた?」
「ねてた……」
「犬飼が寝るって言ったんじゃん」
さも当然だと笑う彼女は、知らない。
#wtプラス



「……で、好意とか諸々鈍感な奴」
彼女は居ないけど、と否定の後に出てきた話が随分と具体的だった。
「……もしかして、現在進行形で好きな人の話してる?」
「お、鋭い」
「えっ、ガチ!? あんだけ数言ってたらかなり人絞れるよ!?」
「当てていいよ、当てれるなら」
好戦的な笑み。
#wtプラス
「ダメだ、当たらん……」
「やっぱ鈍感じゃん」
あんだけ言ったのに。



姿を見つけてにじり寄ったら「え、何これ逃げていい?」と笑い半分引かれた。
「あんな鮮やかにスキンシップ取れる彼氏が心底不思議で……」
「おれの彼女スキンシップとは掛け離れた臨戦態勢のそれだけど」
「体幹信じてるからね」
「えっこれ受け止めろとかそういう話?」
「行きます」
#wtプラス



「う、やば、しぬほどねむい……」
「肩貸そっか?」
「うーん、寝首掻かれそうだな……」
「えぇ、人聞き悪すぎ」
偏見だと思ってるよ、と笑いながらお言葉に甘え肩を借りる。
「まぁ、唇は守っといた方がいいかもね?」
唇……?
「……!」
ばっと離れれば「起きた?」なんて薄く笑う顔。
#wtプラス



「そう、分かった」
「……ふぅん、随分聞き分けいいね」
「そういうこともあるでしょ」
……
「と、言われて」
「そいつは理解ある彼女さんで」
「この場合淡白と呼んで?」
結局気乗りしない誘いは断ったけど、それすらも彼女には伝えられてなくて。
「妬いてほしいのに上手く行かないや」
#wtプラス
「だそうだ」
「妬いてるわバーカって言っといて」



「犬飼、ってさ」
「ん?」
「実は私のことめちゃくちゃ好きだよね」
へらりと笑って躱されるか、はたまたどんな物言いで反撃されるのか。
現実的な返事を予想してたのにそれらを全て裏切り、
随分とまぁ優しく愛おしげに笑って「うん」と一言。
な、んだその顔、
初めて見るけど……
#wtプラス



「もうマフラー?」
「かさばらないし楽だよ。 そっちは相変わらず首元スカスカ」
彼はそう言い、不意に指先で鎖骨を2度ほどコツコツと叩く。
「時々見えるから気を付けてね」
「?」
「鎖骨で服が浮いてるから」
「!!」
肩紐が、ってことか!
「マフラー貸そっか」
「……借りよかな……」
#wtプラス



自覚があるほど受け身だった。
私からキスしたはいいが、ちょん、と先端一瞬触れただけでこの後どうしていいのか分からない。
疑問符浮かびまくりで困惑極めたままもう1度口付ける。
「へたくそ」
呆れ笑い、ぱしりと私の手を掴み、顔の角度を傾けた。
#wtプラス
(受けるのは上手なんだけどな)



「刺激が欲しいな」
「何? どういう発言?」
「なんだろう、こう漠然と……知識欲?」
ピンと来てなさそうな彼がふぅん、と首を傾げる。
「じゃぁ、こういうのは?」
今まで聞いたことない、と放り投げてた私の指先を絡める。
……刺激、は来たけど、
「正気なの……?」
「残念ながら」
#wtプラス



「トリックオアトリート!」
「お、なんか来た」
「お菓子持ってそう!」
「花より団子だねぇ。 んー……持ってないって言ったら?」
「え、悪戯……?」
「どんな?」
「…………えーっと、」
「あはは、無計画」
あるけどね、と笑いながらハロウィン仕様のクッキー渡された。
やられた。
#wtプラス



「心が狭いのかな……」
「嫉妬じゃない?」
相談に対する彼氏の返答が予想外に腑に落ちた。
「これが、嫉妬……?」
「初めて知ったみたいな反応する」
「疲れるから考えないようにしてた……」
「や、でもよかった」
人間にしては綺麗すぎると思ってたんだよね。
けろりと笑われて唖然。
#wtプラス



「犬飼、私を女の子扱いするのやめない?」
「えーなんで?」
正直私は男勝りな方だし喋り方も荒い。
昔はまだ普通に接されたのに最近顕著だ。
「女らしくないの自覚してるから、こう……凄くムズムズする」
「あは、変なこと言う」
「?」
「おれ、女の子の仕草してるとこに落ちたのに」
#wtプラス



「恋人の写真とか撮る?」
「結構撮る」
「興味あるな、犬飼の彼女」
「や、だめ。 『絶対見せるな』って釘刺されてる」
適当な言い訳で引き下がらせた友人達を傍目に、撮った写真を眺める。
「(可愛い彼女は自慢したくなるもんだと思ってたのになぁ)」
おれってこんな独占欲強いんだ。
#wtプラス





 
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