WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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辻新之助




「待って」と手首を捕まえられ、振り向くと同時にパッと離された。
……は、初めて触られた、あの辻君に。
距離に比例してかいつにも増して彼の顔が赤い。
「なんで、逃げるの」
「なんでって……辻君女子苦手じゃん、」
「だよね、ごめん、だよね」
……期待していいんだろうか。
#ワートリプラス



同い年数人で出掛ける話だった。
早く着くと好きな人が先に着い……
あれナンパされてないか……? 助け、
「こんにちは、今お暇ですか?」
……え゛?
「いや、あの、」
な、なんか捕まった。
身振り手振りどうにか断ろうとしてたら不意に身体が傾く。
「ごめんね、私が先約なの」
自力で振り払ったのか、助けようとしていた彼女が自分の腕を引いていた。
心拍数の速さが、尋常ではない。
女の子達が離れていき、ふっと腕が軽くなる。
「ごめん、困ってそうとはいえ急に彼女面して……大丈夫だった?」
「いや……ごめん本当……」
初めて彼女をかっこいいと思った。
#ワートリプラス



1度も会話したことはないが彼女の歌声が好きだった。
「……つまりファン?」
「多分」
遠くにある背中、人目のない環境で伸び伸びと歌う声はこの距離でもかろうじて届く。
集中力は無意識に聴覚に割かれた。
「サインでも貰いに行ってあげようか?」
「そ、こまでの勇気はない、かな……」
#wtプラス



所用で少々男装を。
バタバタしてたら辻君とぶつかった。
「あっごめん!」
「いえ、……!?」
1秒遅れて目を見開き咄嗟に身構える彼に恐る恐る名前を確認された。
「正解、私」
「……だ、男子から女子の声がする……」
女子ダメな彼がマジでどう反応していいか分からない顔しててウケる。
#wtプラス



「これ辻に渡しといて。 匿名でいいから」
男子づてにプレゼント贈って終了、のはずだった。
「メッセとかでよかったのに」
「こ、ういうのは、ちゃんとお礼言いたい……よ、」
上擦る声、合わない目、物凄い緊張が見て取れる。
「辻の律儀なとこ好きだな」
「すっ、 ……いや、うん……」
#wtプラス
(あまり男に好きとか言わない方がいいよ、くらい、言えたらよかった)



「え……っと、き、聴いてても、いい、ですか」
同い年なのにガチガチの敬語で声を掛けられたのが、随分昔のことみたい。
懐かしむように口にしたら「俺まだ慣れないけど……」と返された、帰路を共にする放課後。
「あ、カラオケ行く?」
「い、いや、ちょっとハードルが高いかな……」
#wtプラス



「時々ね、特別とか唯一に飢えるんだ」
立ち話中、適当に流されたかった独り言なのに袖が引っ張れる。
「お、俺は」
え、辻。
目が泳ぐ彼は唇の形すら泳いでいる。
「唯一、だと思って、ます」
彼は即座に手を離し、素早い会釈と俊足で駆け出してった。
「……えー、っと?」
「告白かな?」
#wtプラス



歌声が好きな人がいた。
ろくに話したこともないが、すれ違いざまに彼女の鼻歌が聞こえればつい振り返った。
そうやって密かにファンを続けていた頃。
「辻ちゃん最近ずっとあの子見てるよねぇ。 まさか本気で好きになった?」
「好、…………え゛!?」
「ありゃ、自覚なしだったか」
#wtプラス



身体が震えたのと同時に目が覚めた。
頭上から降った「あっ」と同時に、私の崩した足元に毛布が落ちる。
「や、えっと」
「毛布掛けようとしてくれてた?」
「あ、でも起こした、みたぃ……」
「寒さで起きたんだよ、気にしないで」
礼を告げればスススと距離を取り始めた。
彼は優しい。
#wtプラス





 
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