WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




「エイプリルフールについた嘘は1年は叶わないらしい」
「へぇ」
「逆手に取れば最強じゃん」
「はぁ」
「それを踏まえた上でカゲ嫌い」
「喜びゃいいのか呆れりゃいいのか分かんねーなこれ」
「言ったら辛くなってきた……後悔した……」
「おめーバカだろ」
「好き……」
「知ってら」
#ワートリプラス



寝落ちることを見越したのか、カゲは寝転がる私の髪を許可も得ずに解いてく。
パサッと落ちる髪、……湿った何やらかで挟まれる首筋、
「……!?」
後退しようにもできずソファに背を押し付ける。
「なに、」
「最近マフラーねーから」
いや意味分かんないけど、てか、近いよ!!
#ワートリプラス
「首晒してんのが悪いんだろ」と理不尽にデコピンを食らった。 痛くない。



「カゲ先輩最近機嫌いいね」
「あー? そうか?」
「うん。 彼女でもできた?」
「…………」
「ほほう、冗談のはずが」
「俺ぁなんも言ってねーぞ」
「言ってる顔だったよ」
「……できた」
「おめでとうございます」
「おう」
「かわいい?」
「可愛い」
「どんな人?」
「言うかボケ」
#ワートリプラス



訪問の営業に捕まってなかなか振り切れない。
どうしよう、奥で影浦君待たせてるのに、
「結構っつってんだろ」
焦り始めた頃、背後から伸びてきた手は私越しに扉を閉めて鍵を掛けた。
「影浦君、」
「ん」
触れ合うほどの近距離、顔上げたのとほぼ同じタイミングで唇が塞がれた。
#ワートリプラス
「……あ、ありがと、」
「別に、 邪魔されたのにムカついただけだ」
掴まれた手首は連れ戻すかのように引っ張られている。



目覚めたのと同時に湿った唇は多分、事故ではなかった。
起きた私に彼は驚く様子を見せたが離れようとはしない。
なんでだ。
核心付けるかのように2度目を繰り返す。
「……なんとか言えや」
なんとかって、なんだよ。
自他共に認め、本人も理解してた、片想いのはずだった。
#ワートリプラス



すこん。
絵に描いたような心臓に矢が刺さる感覚だった。
「今カゲのこと好きになったかも」
言葉にしたら自覚が強くなった。
彼の眉間が僅かに寄り沈黙、数秒、
目を逸らした彼は珍しく覇気のない声で「……ずりぃ」とぼやく。
……何それ、そんな様子見せといて、どっちが、
#ワートリプラス



勢い良く引っ張られ傾いた身体がベッドの上に収まる。
無遠慮に近付く顔に逃げ場もなくぎゅっと目を瞑った。
……予想した感触は訪れず、代わりに鼻先への甘噛み。
瞼を持ち上げればニヤリと孤を描く唇。
「口だと思ったかよ?」
はくはく動かした唇まで、塞がれてしまった。
#ワートリプラス



間違いなく片想い、だった。
「俺だからこんな大人しいんだよな?」
返事よりも先に塞がれた唇は既に3度目で。
割られた唇に反射で掴んだ肩も抵抗になりきれず物ともされない。
くたりと力が抜けた私はどう映るのだろう、
機嫌良さそうな「悪くねーな」に惚れた弱みを痛感する。
#ワートリプラス



あ、影浦君。
お友達と一緒に歩く姿を遠巻きに眺めていたら不意に視線が合った。
目を逸らせないでいれば、彼の奥の手がひらっと揺れる。
う、うわ、うわー……! そんなことしてくるの、頬が熱い、
#ワートリプラス
「(うるせ)」
「良いことあったのか?」
「あ?」
「笑ったように見えた」



好きな人に好きな人が居ると知って避けていたら、なんか待ち伏せ食らった。
無言で行われた逃亡劇は彼の勝利で終わり、逃げ場がない。
「どこで聞いたんだ」
「いや、あの、邪魔かなって、なんとかして踏ん切り付けようかと、」
「冗談じゃねーぞ」
手首を掴む手に、力が入った。
#ワートリプラス



「……やっぱ抱き慣れてんな……」
「ちょ、誤解生む発言やめて」
勝手に潜り込んできたのそっちだし。
遠慮なしに体重預けてくる背中をゆっくり叩く。
「眠くなってきた」
「なんか不安だなぁ、他の人にもこんなことしてるの?」
「誰も彼もなわけねーだろ」
成程、それは嬉しい。
#ワートリプラス



「その体質は正直羨ましいんだよね」
「やめろやめろ、なんもいいことねーぞ。
 俺が人間不信じゃねーのを褒められたいくれーだ」
「凄いと思う。 それでも私は欲しい」
「闇深ぇな」
「そう思われてるなら光栄だな」
言葉と感情に不一致さは感じない、こいつの言うことは難しい。
#ワートリプラス



「……風邪か?」
「いや、多分花粉症」
失礼と一言、本日何度目かの鼻をかんでスンスンと啜る。
「大変そうだな」
「カゲは花粉症知らなさそうね……」
「知らねー。 つーか鼻赤くなってんぞ」
「え、嘘まって、はっず」
「耳も」
「うそ」
「恥ずかしがる基準分かんねーなおめーは」
#ワートリプラス



『おめーさぁ……』
片想いを手紙で打ち明けた日の夜、
着信に出れば彼は開幕一言述べてしばらく黙り込んだ。
『……もう顔見て話せねーかもしんねぇ』
「それは嫌だな、……やっぱ困った?」
『困るっつーか』
一旦区切り、呻いた後に舌打ち1つ。
『悪い気してねーから困ってんだよ』
#ワートリプラス
『なんっでだよ…………』
随分くぐもった声は、顔を枕にでも押し付けているのだろうか。



風の噂で彼が何らかの能力持ちだと知り尋ねたら数秒考えて
「俺からは言いたくねーな」と返された。
「知りたきゃあいつらにでも訊け」
「じゃぁ、そうする」
「おい」
事あるごとにぐしゃりと頭を撫でてくる彼が好きだった。
視線が絡む。
「……離れんじゃねーぞ」
「? うん、」
#ワートリプラス



移動中に意識を失ったっぽいのは覚えていた、目覚めたら心配気に覗き込む友人達。
医務室……どうやってここまで?
「影浦君が運んでくれたんだよ」
影浦君が。 出てきた名前にどきり。
「いや凄いよ彼、お姫様抱っこ」
「っぶふ、っえ?」
「しかもヒョイだよヒョイ!」
ひょい。
「ああいうの目の当たりにするとイメージ変わるな〜」
「ね、なんか株上がった」
そもそも彼が女性をお姫様抱っこで運ぶ姿、まるで想像付かないけど……
彼女達の言葉を聞きながら、近場に置かれた鞄を手繰り寄せる。
スマホを開けば[ちゃんと食え]と端的なメッセージが1つ入っていた。
#ワートリプラス
「……おい、どうしたんだコイツ」
「え!? っあ、あぁ貧血? かな?」
「具合悪そうだったんだけど急に崩れて、」
「ッチ……これ持て、これも」
「あっはい!」
「医務室でいいのか」
「お願いします!」
「(ヒョイ! そんな軽々と!)」



待ち時間が暇だったので、カゲをじーっと見つめていたら
10秒とせず怪訝そうに「なんだよ」と聞かれてしまった。
「お構いなく」
「普通に気になんだろーが」
懲りずに見ていれば、だんだん居心地悪そうに眉を寄せた。
「んな見られたら穴あくわボケ」
ベシッと手で目元を塞がれた。
#ワートリプラス
甘いと言わんばかりに瞬きしまくったら「擽ってぇ!!」とキレられた。
「物理的ダメージは下手なモンより堪えるな……」
「魔法防御が高いんだねって言おうとしたけど
 攻撃と回避にガン振りしてそうだなと思って言うのやめた」
「全部出てんぞ」



「……まだ、帰りたくない」
「……」
「!」
ぐっと絞まった襟元、つんのめるように揺らいだ足元、
胸倉掴んで噛み付かんばかりの乱暴なキスだった。
若干乱れた首元より、挫いた気がする足首より、彼の表情が気になった。
掴まれた手首は帰り道とは真逆の方向へ攫われている。
#ワートリプラス



バッサリ髪切ったら物珍しさからかカゲにまじまじと見られている。
「なんで切ったんだ」
「え」
「失恋か?」
「驚いた、カゲが言うのね」
「あ?」
「失恋はまだしてない」
「はぁ」
「寧ろなんでか気付かれないから、原始的に気を引きに行った?」
「あぁ? ……待て、タイムだ」
タイム。
#wtプラス



放課後、黒板に大きく絵を描いて遊んでいたら
「すげーことやってんな」と声を掛けられ面白いくらい跳ね上がった。
「あ、あああ、あの、ご、ご内密に……っ」
「チクんねーって」
安堵も束の間、ズカズカ近付いてきた彼は
チョークを取って空いたスペースに何か描き始めた。 あ、共犯。
「……現国の先生?」
「おー」
凄い、絶妙に特徴を捉えている。
「校長?」
「合ってる」
「……あは、これ影浦君だ」
「俺」
あ、今笑った。
彼は一瞬私を見るとまた何やらか描き出す。
「女の子」
「……」
「委員長?」
「ちげぇ」
「……?」
「んな難しくねぇ」
満足したのか彼は教室を出て行った。
#wtプラス
「(結局誰描いたんだろう)」
記念にスマホでパシャリと撮った写真は、
数ヶ月後本人からの答え合わせと共に消される。



「おい」
「? っへ、え、あ !?」
半ば強引にベッドに引きずり込まれた。
何が起きたかも理解できないまま、気付けば身動ぎすら封じられている。
「っわ、私、逃げたりしないよ、」
「知ってる」
「……、」
「逃がさねぇって思ってるだけだ」
「……!」
がぶりと首筋に噛み付かれた。
#wtプラス



状況を理解した瞬間流石に少したじろいだ。
眠った時は確かに1人だったのに何か、というか、見覚えのある奴が引っ付いている。
人の腰に腕を巻き付かせて起きる気配のないそれは、すかーっと寝息を立てていた。
動揺、数秒、思案、数秒。
「……」
寝よ。
頭を枕にぼすんと逆戻り。
#wtプラス



思考回路自体は単純だけど、実際渡したら何か間違えた気がする。
「合鍵」
「そ、う、だけど、ごめんやっぱり返して」
手を伸ばしたら遥か頭上に釣り上げられて届かない。
「流石に返す気起きねー」
「……影浦君がいいなら、あの、貰って、ください……」
「入り浸るからな後悔すんなよ」
#wtプラス



壁伝いに背中がずり落ちる。
「……っふふ、」
「あ?」
有無を言わさずあっさり捕まり、薄目開ければ少し珍しい視界。
「影浦君の、余裕ない顔、レアだったなって、」
呼吸を整えようと肩が上下に動く。
彼は眉を寄せ、呆れた様子で舌打ちした。
「息絶え絶えのくせに何言ってやがんだ」
#wtプラス



最近暑いし半袖ショーパンでいいだろう、と気楽な格好でいたら
「薄着すぎんだろ」を眉を顰められた。
「そう?」
「真夏かよ」
「冷房より先に服でしょ」
「襲われんぞ」
「家の中だけだから大丈夫」
「俺にっつー話だぞ」
1秒、間を置いて笑った。
「家の中だけだから、大丈夫」
「言ったな」
#wtプラス



「カゲが首好きなのは知ってるけど」
「は?」
「え」
「俺首好きなのか」
「えっ違うのいつも齧るじゃん」
「……」
「今初めて知ったみたいな顔する……因みに首以外は?」
「…………」
「フリーズしてしまった」
「……声」
「声」
「おめーの余裕ねー声は煽られる自覚ある」
「……はっ、」
#wtプラス
「次点で腕と脚」
「四肢と来たか……」



「傘ねーのか」
「うん」
「空重かっただろーが」
「家引き返すのが惜しいくらい遅刻ギリギリで……」
「あー今朝おめー息切らしてたな」
ケタケタ笑う彼は黒い傘をばさりと広げて校舎を出、ようとする一歩手前で振り返った。
「帰ろうぜ」
「……!?」
思わず自分と彼の隣を交互に指した。
#wtプラス



「……何やってんだおめー」
「つった」
長いこと背伸びしてたら足が攣った。
半べそかきながら体育座りで足の指を押さえる私を、
心底呆れた様子で彼が見下ろしている。
「待ってやったのにこれかよ」
「名誉ある負傷……」
「いや自滅だろ」
痛みで俯く顔を持ち上げられた上に越された。
#wtプラス
「簡単にキスしてくるのずるい」
「躊躇ってるからいつまでもできねーんだろ、今日とか足攣ってっし」
「……気持ちだけはある」
「知ってら」



「かっ、影浦君!」
「あ?」
「今日誕生日と知って……おめでとう」
「おー」
親しくもない想い人に贈り物とか高度なことできなかった。
直接祝えただけで充分だ、と不自然ながら廊下に逃げる。
「カゲまだ長袖だな」
「暑いだろう流石に」
「……あっちぃ」
抜けきらない温度に頬を拭う。
#wtプラス



「カゲの好きな人ってどんな人?」
聞けば普段の倍は鋭い視線を向けられた。
誰が言うかボケくらいの拒否を想定してたが、意外にも彼は考えてる。
「単純に良い奴」
「うん」
「奴の笑いにつられる」
「素敵じゃん」
「でもアイツ無神経だぞ、当人のくせに本人に聞きやがる」
……なんて?
#wtプラス



「カゲ女っ気ないよねぇ」
「それこそ男っ気ないでブーメランだろ」
「私はカゲが居たら大丈夫」
「ッ、げほ」
動揺で咽た様子を見て自身の爆弾発言に気付き慌てて首を振る。
「ち、ちが、友達として!」
「おめーほんっとにふざけんなよ……本気にすんぞ……」
「こっ、困る……」
本当に?
#wtプラス



 
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