WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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王子一彰





「やっぱりそれやめない?」
「だめかい?」
噂に違わず例に漏れず私にもあだ名が付いた。
呼ばれる度に照れるから変えさせたい。
「……名前で呼ばれるのが好きなの、なんだか……好意を、感じない?」
理由付けにしては苦しいだろうか。
……でもその思案顔、検討してる最中?
#ワートリプラス



「次の日曜ぼくにくれる?」
「いいけど、何?」
ぴらっとチラシを見せられる。
「あーっ行きたい!!」
「それはよかった。 ……ところで」
「ん?」
「何があるかも分からないのに軽々にOK出すの、良くないと思うな」
「悪い誘いじゃないという信頼から来る快諾」
「……おっと、」
#ワートリプラス



「今日は、帰りたくない……」
終電秒読みの駅を背後に、彼の袖口を掴んで呟いた。
数秒の沈黙は戸惑った気配を察する。
……掴んでいた袖口をそっと離された。
断られる、気を落とした瞬間に彼の腕の中に収まった。
「……弱ったな」
抱き締める力が、今までと段違いに強い、
#ワートリプラス
「まだ手は出さないでいようと思ったのに、」
独り言のように、諭すように紡がれる声。



「髪どうしよ」
「切るの?」
「うーん……王子の好みで言えば?」
彼は数度瞬くと考え込む様子でじっと見つめた。
「……それは、ぼくの好みに合わせてくれるという解釈で良い?」
「……うわ」
「好みなら長い方だけど、ショートの君は興味あるかな」
「両方カバーしてきたな……」
#ワートリプラス



時が経つにつれ会話が減り今やほぼ無言。
折り畳み傘は2人入るには少し狭く、時折触れる肩を意識しながらゆっくり歩を進める。
不意にその横顔が眉を落として「……意外と緊張するもんだね」と笑った。
傘を差す手首を掴めば雨のせいか冷たい。
無意識に唇から2文字滑り落ちた。
#wtプラス



折り畳みでよければと声を掛けたのはぼくだった。
仲の良い彼女が立ち往生しているのを見つけたから。
緊張する彼女の様子にどうやら影響されたらしい、
男女2人の傘の下は嫌でも意識させられた。
傘を持つ手が揺れる。
「好き」
「……え、」
濡れた道を車が1台、通り去って行った。
#wtプラス



「未だに王子を人間と思えてないので人間味ある話を1つ」
「なんだと思われてるんだろう。 うーん……気付いたら寝落ちてたとか?」
「寝落ち」
「人生で初めて机に突っ伏して寝たね」
「? まるで想像付かない」
「身体痛めるからちゃんと布団入った方がいいよ」
「痛めたの?」
「背中」
#wtプラス



電気を消して一緒に布団に潜り、談笑すればやがて会話も落ち着いて、
静かになったら瞼が重くなってきた。
彼の指が私の耳に掛かった髪を後ろに回しながら、頭に添えるように手を置く。
一気に眠気に引き摺られる。
「なでるのがうまい……」
「おかげさまで」
柔く笑った気配がした。
#wtプラス



私の手を取り「綺麗な手だね」と見つめる彼の絵面に
「……本当に王子みたい」と口走った。
数度ぱちくり瞬くと口角を緩め、自然な動作で手の甲にちゅ、とキスをする。
「……顔良すぎてドン引くわ……」
「見飽きたくらい言っていいのに」
笑う彼は手の甲を掴むと、手首に唇を寄せた。
#wtプラス
「ところで今日はキスの日だそうけれど」
「はぁ、」
「部位ごとの意味は知ってる?」
「覚えてない」
「宿題ね」
「……」
「そこで今スマホを立ち上げてしまう君のムードのなさ好きだな」
なんかウケてる……



「っくぅ〜!」
「終わった?」
「終わった! お待たせ!」
机の上に広げていた筆記用具諸々片付ける。
「ごめんいつも待たせてるよね? 先帰っていいのに」
「苦じゃないし構わないよ」
「とは言われても……流石に毎回申し訳ないな」
「待つだけの見返りがあるから」
「?」
「帰ろうか」
#wtプラス



今日もだ、ベッド縁に座る彼が髪を解く私をじっと見てくる。
「……視線が気になる」
「君が髪解く様子が好きで」
「へぇ……なんで?」
王子は手繰り寄せるように私の両手を取った。
「無防備になった感じがしない?」
「……わ、わからない」
「残念」
緩めた唇と同時に両腕引き込まれた。
#wtプラス



「ただい……はっくしゅ! はっくしゅ」
「やぁ猛威を振るってるね」
付け足すようにおかえりと彼が出迎えた。
「は〜花粉症きっつい」
「お風呂入っておいでよ、準備してあるから」
「わ〜デキる彼氏」
「ふふ、もっと褒めていいよ」
「は、は、はっくしゅん!」
「今年は一段と深刻だな」
#wtプラス



「わ、分かってるよ」
「いいや、分かってない」
随分前に告白された、今は好意を覚えてくれたらいいと言われた、
だから覚えてたのに詰め寄られてる。
……ゆっくりと、指先が絡められた。
「知識じゃなくて、感じてほしい」
かっと顔が熱くなり手を振り解き走って逃げた。
#wtプラス
(効いた?)



「ねぇ、昨日何してた?」
「昨日ー? まず寝坊して」
家族で買い物行って、途中から両親と別行動して、兄と本見ておやつ食べて、
と順番に話すと相槌を打ってた王子の顔が不意に上がった。
「……お兄さん?」
「知らないっけ?」
「初耳だ」
「そっかぁ」
「そっか。 ……そうか、兄か」
#wtプラス



しばらく王子と外で待機になった。
「流石にもう日差しきついね」
「動く日陰あるけど使う?」
「動く日陰?」
鞄から取り出した日傘をばさりと広げれば成程と笑われた。
「ぼくが持つよ」
「え、でも……、……ありがとう、」
#wtプラス
「あ、相合い傘してる〜」
「ちょっ、」
「いいでしょ」
「!?」



「ただい……」
ま。
最後の一文字が足元の物体に奪われた。
彼女が、玄関で倒れてる。
呼吸は聞こえ寝ているだけだと察した。
「(そういえば今朝徹夜だって言いながら家出たっけ)」
腕を組み思案、傍らに屈んで数秒、頷き1つ。
ごろんと仰向けに転がした彼女の身体を持ち上げた。
#wtプラス



[急だけど借りてた本今から返しに行っていい?]
あっさり了承を得、王子宅のチャイムを鳴らす。
出てきた彼は髪が半乾きで「本当に急だね」と笑っていた。
「え、うわ、風呂上がり?」
「間に合わなかった」
「……良い匂いするね」
「……少し話していくかい?」
「……そうね、うん」
#wtプラス
「風邪は引かない季節だろうけど、風呂上がりの人を夜風に浴びせるのはやっぱ申し訳ないな……」
「紳士だね……女の子だけど」
「……何かが逆な気がする」
「奇遇だね、ぼくもそう思っていたところ」



「っちょ……やめよ、 こんなことで友達関係崩したくない、」
普通に話せるようになるまでも酷く苦労したのに、
下敷きにされた手が動かなくて焦りが募る。
「ぼくは崩したい」
え、 息が詰まる。
「無欲だね」と呟く声が随分と溜息混じりだった。
「ぼくは友達じゃ満足できないのに」
#wtプラス



「今まで言わなかったけど、王子の幼馴染になりたくなかったと後悔したこと死ぬほどあるのよね」
「え。 ……いじめられたりとかする?」
「そんな生温いもんじゃない! 生まれてこの方王子様が登場する話を楽しめたことがないの!!」
「なんだ、そんなこと」
「大問題ですが!!?」
#wtプラス
「ようはきみの中の『王子』は、意味はどうあれぼくで固定されてるって話だよね?」
「そうですね」
「……うん」
「なんで頷くんですか?」



「王子さ、人に影響与えるタイプってよく言われない?」
待ち受けとか小物とか本とか、彼の影響が色濃い気がする。
スマホから顔を上げた彼が口元を緩めた。
「好意を抱いてる相手ほど影響を受けるそうだよ」
「……なるほど」
そう言う彼が遊んでるゲームアプリは、私が教えたものだ。
#wtプラス



好きな人が居るらしい。
興味津々で質問していくつか条件を引っ張り出し思い付く名前挙げたら見事に全部NO。
「……男性ってオチはない?」
「女の人だよ」
詰んだ。
もう条件に当てはまる人が居ない。
「こういうのってどうして自分を勘定に入れないんだろうね」
「……え。 え?」
#wtプラス



「私かき氷買ってくるね」
「あ、ぼくも」
「え」
「先行ってて」
「ほーい」
同い年連中と夏祭り、が、あまりにも自然な流れで2人きりに。
「浴衣姿可愛いね」
「……あ、りがとう、 ……えっと、さっきも褒めてもらったよ、」
「うん、言ったけど」
かき氷を食す動作がお互い止まっている。
#wtプラス



まずは深呼吸。
「お、う、じっ!」
「おっと」
背後から駆け寄りがばりと腕を絡めると、また君かと笑われた。
「いつも腕絡めるね」
「あ、あはは、彼女面〜みたいな?」
邪な感情ゆえに指摘されると途端に羞恥が。
慌てて腕を離したのに、指を絡められた。
「……こっちじゃダメなの?」
#wtプラス



「前から思ってたんだけど、耳小さいね」
「え、そう?」
「うん。 あと、耳の下に黒子があるなぁって」
ぱしんと叩くように、手で耳の下を隠し塞ぐ。
「……私の知らない私の身体の話、照れるんだけど……」
「フェアじゃない? ぼくもなんか晒しとく?」
「えぇ……正直興味ある……」
#wtプラス



「チェス打ってる時の王子いつも楽しそうね」
「君の考えていることを考えているからね」
間にチェス盤を挟み王子の手番待ち。
瞬き1つ、私をじっと見つめた後に駒を動かす。
「いつもこの辺りが疎かになりがちだ」
「……あっ」
「さぁ次の手をどうぞ?」
「うわ待ってめっちゃ嫌な手!」
#wtプラス



「随分髪伸びたね」
「髪長い子がタイプなんだっけ?」
「言ったことあったっけ?」
あ、しまった。
「……正直に言うと、クラスメートと話してたのを横耳に、」
驚いた顔をした彼が真剣に考える素振りを見せる。
「……何年前の話?」
私が髪を伸ばし始めたのは、それを知ってからだった。
#wtプラス



「ハサミ持ってない?」
「手元にはないね」
「ですよね」
通りすがりに引っ掛かっただけならすぐ取れるはずだと、ボタンに絡まった髪を解こうと悪戦苦闘。
不意に髪がはらりと落ちる。
「お、取れ」
ちゅ。
「た……!?」
同時に頭上からリップ音、え?
「あ、取れた?」
えっ今何された。
#wtプラス



呑まれそうだと正気に戻った一瞬、「待って、今日は」と押し止めた。
至近距離、目を細め僅かに不服そうな表情に見下ろされ数秒。
結ぶ口元が、不意に諦めの色を見せながら緩んだ。
「……どうやって、この熱を鎮めればいい?」
肩に負荷を感じ、片足が浮いて、
一瞬で視界に天井が、
#wtプラス



「王子座って」
「はい」
手招きに従うままソファに座れば、彼女がごろんと寝転がった。
「寝るの?」
「王子良い匂いするから……膝貸してください……」
数秒観察するともう早寝息が。
柔らかい髪に指を通す。
「(……貸すのが肩だったら、キスできたのに)」
届かない。
もどかしい。
#wtプラス



「ぎゅぅ」
「おっと?」
半ば突進のように抱き付けば優しい声でどうしたの、と躊躇いもなく抱き締め返された。
「……いつも余裕あってずるい」
普段から余裕ありげな様子だから、自分ばかり必死な気がして。
……私を抱き締める腕に、ぐっと力がこもった。
「……余裕なんてないよ、」
#wtプラス



「やぁ随分大荷物だね」
ばったり。
見慣れた顔が居ると思ったら王子と出くわした。
「今日のご予定は?」
「もう1つ行きたい店が」
「なら、その後お茶しない?」
「……ナンパ?」
「そうとも言うかな?」
ひょいと私の荷物を回収した彼は、すっと手を差し出す。
「デートって呼ばない?」
#wtプラス



「ということで朗読してほしいんだよね」
突然のお願いだった。
目を瞑り耳を傾ける彼を時々視界に収めながら、指定された文章を読み終える。
「ふー、」
「……うん、やっぱり綺麗な声だね」
「満足した?」
「とても」
帰り支度し始める王子を見つめれば視線がぶつかった。
「独り占め」
#wtプラス
「……素でそういうワード出してくるのずるくない?」
「ちゃんと選んでるよ」



「おいで」
ハグの日だってと前置きされた上で広がる両腕。
「……」
「あれ、来ないの?」
「私がもう少し可愛げのある彼女だったら迎え撃ったけど……」
「ぼくは可愛い彼女だと思ってるよ」
思わず口を噤む。
……目を逸らし、間にある2歩分の距離をゆっくりと詰める。
「ほらかわいい」
#wtプラス



友人に告白され考えさせてと返した。
数度瞬いた彼の顔がふっと笑う。
「それってぼくからアプローチしていいの?」
「え?」
「落とそうとしたら、落ちてくれる可能性が上がる?」
「……うわぁ……」
「ひどいな」
#wtプラス
「だって本当に落ちそうじゃん……」
「そんなこと言っていいのかい?」




 
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