WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




「おい、どうした」
「……言いたくない……」
改めて顔を落とせば溜息1つの後に足音が遠のいた。
しばらくすればまた足音、背後にまで迫った次の瞬間に、
首筋にひやっと冷たい缶が当てられ顔を上げる。
「おめー泣き顔ダンットツで似合わねぇな」
「……なんて受け止めたらいいの……」
#wtプラス



「っふふ」
「あぁ?」
「あ、ごめん……ふふ」
スマホを見て突然笑い出す私に怪訝そうな表情。
「友達に面白い報告されて笑っただけ」
「はぁ」
特に興味なさげな返事。
またしばらく無言、不意に吹き出す私に再度金色が向いた。
「そいつ男か?」
「違うよ」
「ならいい」
ならいいって何?
#wtプラス



「よくもまぁそんだけ入んな……」
「あらやだ影浦さんもう夏バテ? 早いんじゃなくて?」
「うぜー」
「傷ついた」
「嘘つけ」
「うん」
もっもっと食べ進めてたら彼が中身の入った皿を差し出す。
「これも食うか」
「ん? うん、まぁ、カゲが気にしないなら」
「あ?」
「いただきますよ」
#wtプラス



突然険しい顔したかと思えば片目を擦り始めた。
「どしたの?」
「目にゴミ入った気ぃする」
「ありゃ。 どれ」
手招きすれば察したのか猫背が更に丸くなった。
失礼、と一言断りを入れ目の下の皮膚を下げる。
……あ、本当だ睫毛らしき物が入、
「っちけぇわボケ!!」
「あいった!」
#wtプラス



「ぎゃーっ何すんの!!」
「色気もクソもねぇ悲鳴しやがって」
太ったかなって独り言直後に突然腹鷲掴みされたら悲鳴くらい出る!
「つーかおめー体重気にするほどか?」
彼は真剣なのだろうけど、私は別のことに気が行って仕方ない。
ちょ、っとその辺触られるの困る、んですけど……
#wtプラス



返事に言葉を詰まらせ、ぎこちない空気だった。
ガシガシと頭を掻く彼は溜め込んだ息を吐き出す。
「……何言ってんだ俺、忘れろ」
踵を返し場を離れようとする彼の腕を思わず捕まえた。
少し驚いた顔が振り返る。
……引き止めたはいいけど、
「……」
「……」
これからどうすれば、
#wtプラス



「なんで目合わねーんだ」
「ごめん」
「おいコラ」
「勘弁して」
あらゆる要素がゴチャった結果片想いバレからの避けモード。
ッチと分かりやすい舌打ちが飛んで肩を震わせる。
「こうなんなら自惚れられた方がマシだったぜ」
「怒らせたいわけじゃ……なんて?」
「……二度は言わねー」
#wtプラス



「だってカゲは私のこと女として見てないでしょ」
「……」
「……え?」
あの、黙られると変な空気になるんですけど……
貰えるはずの肯定が貰えなくて戸惑う。
「おめーは」
「は、い」
「俺のことを男だとは思ってねーのか」
「…………え、っと」
「……」
「今からでは、だめですか……」
#wtプラス
「……まぁいいだろ」
「ずっっるくないですか!!?」



今年はいいかな〜と思っていた夏祭りに、
皆で行かないかと誘われてしまい軽率に揺らいでいる。
……この場に居るにも関わらず会話にまるで参加していない想い人を見た。
「……影浦君は、行かないの?」
「おめーが行くんなら」
え、え、予想外。
「じゃぁ、行きませんか……」
「おう」
#wtプラス
「あれ、なんだかお邪魔かな?」
「ほっといたら勝手に上手くやるだろ」



呼ばれた気がして声の主を探すと一角にタメ連中が数人屯しているのを見つけた。
主と思しきカゲと目が合い、更に追加で手招き。
なんだなんだ?
近付けば手首を掴まれ引っ張られた。
「こいつ」
「ヒュウ」
「マジでか」
「なになになに、何の話?」
「カゲの好きな奴の話」
……えっ。
#wtプラス



「ううう、頭痛いから撫でろぉ」
「命令形かよ」
腰に抱きつく勢いで助け求めれば、躊躇いもなくあっさり後頭部を撫でてくれる。
「カゲがいつになく優しくて気持ち悪い……」
「喧嘩売ってんのかてめー」
「うそ、照れ隠し、ありがとう」
「……チッ」
微睡みの中、調子狂うぜとぼやく声。
#wtプラス



「あっちぃ」
眉間に深い皺を刻みながらアパートの階段を上がる彼の後ろを付いていく。
冷房ある部屋で早く休みたいらしい彼は、なんの躊躇いもなく玄関扉の解錠をした。
家主が隣に居るにも関わらず。
「んだよ」
「随分慣れた手付きだなぁって」
「実家と基地の次に出入りすりゃな」
#wtプラス
「3番目か」
「頻度はな」
「裏声使って『私と仕事どっちが大事なのよ』って言った方がいい?」
「女の声してんのにまだ裏声すんのか?」



ゴンッ!
「うッ、く、〜〜」
「すげー音したが」
後頭部を床に強打し、頭を押さえながら寝返りを打つ。
あまりの痛みに涙が出てきた。
「押し倒してんのに色気ねー」
溜息混じりの声にはたと気付く。
……もしや今それなりな状況では?
呻く声が止んだ私に「おせぇ」と降り掛かる声。
#wtプラス



「うっ」
「あ?」
「え?」
引っ張れた後頭部、見ればカゲのボタンに髪がピンっと引っ掛かってた。
「うそ、そんなベタな」
「あー待ってろ」
意外と丁寧に解く動作を見つめる。
……片想いだった、呼吸も分かる距離に息を呑む。
……彼の手が泳いだ。
「……んな見んな」
「……ごめん」
#wtプラス
「……くそったれ気ぃ散る!!」
中断して手をグーパーと繰り返す。
申し訳ないけれど動揺されて嬉しい。
本当はハサミとかで髪を切ってしまってもよかった。



『雨止みませんね』なんて、遠回しにロマンチックな言い方があるらしい。
月ほどメジャーでもないしこれなら私も言えそう。
そう思ってから何年経ったのか。
想い人との雨宿りの最中、相手から飛び出た「雨止まねーな」に記憶が蘇り返事が泳ぐ。
「んだよ」
「や、なんでも、ない」
#wtプラス



「もし私が寂しいって思ったら、分かるものなの?」
「俺が原因なら多分」
分かる、んだ。
一概に羨ましいとはとても言えないだろうけど、好きな人の反応が分かるのは少し良いな、と思う。
一瞬思案した金色が私に向いた。
「……今の付き合いじゃ物足りねーって話か?」
「……!?」
#wtプラス



「焼き鳥食ったことねぇ!?」
「き、機会がなくて」
ん、と串1本差し出された。
逡巡、迷って意を決し一口齧る。 あ、美味しい。
見上げれば驚き混じりの複雑そうな顔。
「……丸1本くれてやるつもりだった」
「え、あ !? ごめっ、」
「いや別にいいんだが」
あ、食べちゃっ、た、
#wtプラス
「べ、弁解させてください」
「なんの」
「食べさし気にしないのかなと、一瞬考えはしたの……」
「……おめーに限っては気にするけど」



「かげ、うらく、のキス、いつも、くるしい……」
「息止めてっからだろ」
ぐったりと壁に寄りかかり、走った直後みたく肩で息を繰り返す。
宥めるように耳に1つ、首筋を噛んで、揺らぐ瞳と一緒に持ち上がった唇に1つ。
……これはこれで物足りないという顔をするから、タチが悪い。
#wtプラス



試験前に駆け込みで勉強を教えている。
「毎回頼っといてなんだが、毎回付き合うおめーも大概だよな」
「まぁね」
「いつもの礼目当てか?」
「礼目当てというか」
「というか?」
ここまで踏んで反応無し。
本当に気付いてないんだ、感じるくせに鈍いなと笑う。
「……まだ内緒」
「は?」
#wtプラス



「おいやめろ」
首根っこを掴まれ「ぐえ」と蛙が潰れたような声が出る。
「なんで止めるの!?」
「いや止めんだろ」
「なんでよ!? 普段ならカゲがとっ捕まえるとこじゃん!」
「そもそもなんで俺よりキレてんだ、一周回ってどうでもよくなるぜ」
おら帰んぞ、とそのまま引き摺られた。
#wtプラス
「…………」
「頭冷えたか?」
「……首が締まってます」
「換装してっから大丈夫だろ」
「扱いが完全に動物のそれ」



「……ん……?」
「あっ、起こしちゃった?」
こたつの中で肩を下にして寝転がる、まだ寝ぼけ眼の彼の隣に滑り込み背後から抱き着く。
「何やってんだ、」
「いつもカゲ君に背後霊されるから、仕返し?」
まだ開ききってない瞼が細く何度か瞬く。
その場で寝返りを打たれ向かい合った。
#wtプラス



「ビビられてんのか思う」
曰く、肩を震わせる癖があるらしい。
自覚がないためピンと来ない。
首を傾げたら顔の傍に近付いた手に肩が跳ね、
首筋を這う指先の温度にまた肩を揺らした。
こ、これか。
「……嫌がってるように、感じる……?」
「……感じねー」
クソと短く吐き捨てた。
#wtプラス



「えっ、影浦君!?」
「あ?」
あ。
偶然立ち寄った店に同級生の姿。
なんやかんや話しつつ夕飯を済ませ支払いに。
レジの前で財布をしまってると不意に「おい」と呼び止められた。
「?」
「……気ぃつけて帰れよ」
「……ありがと!」
美味しかった!と伝えたら「だろ」って得意気。
#wtプラス



「……何やってんだ」
「フリーハグ的な奴を目論んでる」
「誰か捕まったかよ?」
「現時点ゼロ」
カゲが不意にポケットから片手を出す。
「付き合ってやるから俺で打ち止めにしろ」
「へ」
一瞬で視界が真っ暗に、
……え?
#wtプラス
ガラにもねーことするもんじゃねぇなとぼやきながら去ってった。



うわあああかっこいい。
技術も勿論凄いけど凄く、かっこいい。
食い入るように目を奪われてたら、突然頭に軽い手刀が落ちた。
「いたっ」
「見惚れてんじゃねー」
「あ、カゲいつのまに。 お邪魔してま〜す」
横耳に彼は空いたソファに座り、一息。
「……否定しねーのかよ」
「ん?」
#wtプラス



ひく。
「あ」
「……」
寝起きのせいか格段と鋭い目。
「何かと思った……寝込み襲う気か?」
「ばっ、人聞きの悪い!」
珍しく先に寝てるし寝顔にキスできるかなくらいは考えたけど!!
言い訳への思考と動揺に一気に襲われてる最中に肩を掴まれ、
暗がりにも関わらず正確にキスされた。
#wtプラス



「……いや、絶対訊き方これじゃねぇな……」
「ボツった質問も聞いてみたい」
眉間に皺を寄せて鋭い視線。
一呼吸置いてゆっくりと唇が動き出した。
「……そもそも好きな奴居たのかよ、ってのと」
「うん」
「それまさか俺か? ってのと」
「……うん」
「……どうなんだ」
「……うん」
#wtプラス



呼び出しに応じるなり唇を奪われた。
「なんか、怒ってる……?」
口数の少なさに問えば眉間に皺。
「……怒ってはねーがイラついてる」
「ごめ、ん」
覚えがないから教えて、と続けるより先に塞がれ途中で飲み込ませられる。
開きっ放しの金色と目が合った。
「黙って付き合え」
「、ん」
#wtプラス



「カゲの笑顔見るとこの辺りがキュッとなるの」
目を伏せながら胸元に握り拳1つ。
流し聞きできなくなり頬杖から頭がずり落ちた。
「カゲなら理由分かる?」
「……言わせんなボケ!!」
「えっ」
「んなもん俺じゃなくても分かんぞ!」
「なら誰かに訊、」
「絶対やめろ!!」
「えぇ……」
#wtプラス
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「抱かれてぇとか思う時あんのか?」
「だっ、」
突然降り掛かる爆弾発言に思いっきり動揺する。
「だ、……というか、どうなってもいいって、思う時はある、よ」
は、っず。
彼を見れず手の甲で真っ赤だろう顔を隠す。
「……常々タチわりー女」
呆れた溜息に顔を上げれば噛み付かれた。
#wtプラス



自発的な行動が少なくて受け身な人間らしい。
見かねた恋人が呆れながら「おめーなんか我儘の1つや2つ言えよ」なんて言う始末。
「わがまま……か、影浦君は?」
「俺ぁとっくに好き勝手してる」
私の手首を捕まえて首筋を浅く噛み、唇を塞ぐ。
その好き勝手とやらで私は満足してる、
#wtプラス



「風呂貸せ」
「人ん家を銭湯と思ってない?」
実家の風呂が壊れたそう。
荷物一式抱えた彼を出迎えた。
「明日業者来るってよ」
「なら今日が最後かな」
軽口叩いたが無防備な姿は新鮮だった、少し残念に思う。
「……邪魔されてーなら来るが」
「えぇ?」
「満更でもなさそうじゃねーか」
#wtプラス



「い、っつ」
「どーした」
「指切っちゃった」
不意にカゲは鞄を漁って箱を取り出す。
「えぇ〜……」
「んだよ」
「カゲから絆創膏出てくるのにときめいてた……」
「なんでだよ。 おら手ぇ出せ、利き手だろ」
「えぇ至れり尽くせりじゃん……きもちわる……」
「野郎、黙って聞いてりゃ」
#wtプラス



「寝る」
「はーいおやす……え、え、は、待ってそこで寝るの!?」
長ソファで仮眠と思いきや、端に座ってた私の脚まで巻き込まれ膝枕状態。
「……寝るなら1人の方がいいんじゃない?」
「あ? あー……別におめーのは、気になんねぇし」
「そっか」
気にしてほしいけど、今はいいや。
#wtプラス



 
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