WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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王子一彰





久しぶりに顔を合わせたかと思えば、挨拶もそこそこに手を掴まれ、
人気のないところに連れ込まれた。
「っちょ、何急に、」
しー、と人差し指を立てる。
その動作1つで彼は私を簡単に黙らせられる。
「最近会えなかったから」
流れるように後頭部を固定され、急かすように唇を塞がれた。
#wtプラス



「お、っと」
かくんと力の抜けた膝、腰に回った腕が私の全体重を支えた。
背の高い彼に合わせるように、顎を持ち上げられる。
(止まらない、)
視界も思考も曖昧の中、口付けを繰り返して。
「……ま、って、そろそろ……」
「ん」
「酸、欠が……」
「……あと少しだけ、付き合って?」
#wtプラス



「きみのハグって彼氏力高いよね」
「エ」
「抱き慣れてる感じが」
「待って凄い語弊」
首筋にすり寄り、甘えそうだなんて柔らかい声、
「……王子って甘えるんだ」
「ん? 普段から甘えてるつもりだよ」
「え」
「さて、甘え下手はどっちかな」
どう思う?って顎掬われ固まって、塞がれた。
#wtプラス



「救世主! ありがとう神様仏様王子様!」
「一気に人間に近付いたね」
くすくす笑いながら彼はどういたしまして、と。
「うーん、確かに神仏と来て王子は格下げ感否めないよね……妥当なのは、かずあきさま?」
「……敬称無しでもう1回呼んでみて?」
「やだよ照れるじゃん!」
「残念」
#wtプラス



「王子起きて」
「……ん」
「皆帰ったってば」
「ん……」
「ん、じゃなくて」
「ん……」
だめだこりゃ。
王子って意外と寝起き悪かったんだなぁと思いながら
「ん」しか返さないマシーンを揺らす。
「……起きないとちゅーするぞ」
「……わるくないね……」
「ばっ、 寝ぼけてないで、」
#wtプラス
手の甲で瞼を擦りながら眠そうな声で
「寝ぼけてるわけでもない君の方が圧倒的にたち悪いよ」と言われ、ぐうの音も出ない。



情緒が乱れたので近くに居た王子に適当に喋ってと頼んだ。
「王子は聞いてると落ち着くタイプの声なんだよね……」
「それで安定剤代わりかい? 構わないけれど」
落ち着くタイプの声ってなんだろうと彼は首を傾げる。
「あぁ、でもぼくも君の声は落ち着くかな」
「……うわ」
「うわ?」
#wtプラス



「ラフな格好で布団潜る王子、嘘みたいな光景ね……」
「ぼくをなんだと思ってるの?」
「王子科王子属王子」
「斜め上の回答だ」
「……心臓動いてる」
「ヒト科だからね」
「人体だったんだな……」
「もしかしてかなり眠い?」
「ねむくない……」
「眠い人は皆そう言うんだよ、おやすみ」
#wtプラス



好意を自覚してからの展開が異様に早かった。
成就までの過程で感じるドキドキが全部押し寄せて
『彼氏』のパワーと相まってダブルパンチ。
「王子君、最近めちゃくちゃ男の子で緊張する……」
凄く、心臓に悪い。
彼は数度瞬くと目を細めるように笑って「今更?」なんて首を傾げた。
#wtプラス



「ならこれで」
「はーい」
好きな人と遊ぶ予定ができた。
ルンルンで予定帳開くと不意に横髪をかきあげる指先。
「笑うと特段可愛い顔するよね」
「え、そ、そう?」
そんなバレバレ!?
焦る私も露知らず、彼は頷き胸元に手を翳す。
「君の笑顔見ると、ここがキュッとなる」
「……!」
#wtプラス
#同じ台詞でwtプラス



「好きって言ったら怒る?」
煩わしい心音でそう尋ねれば、彼は幾度か瞬き不思議そうな顔。
「迷惑かな、って」
「ぼくが君の好意を?」
まさか。
街灯の下で振り返る彼に釣られ足を止めた。
掬うように両手が捕らわれて、
「……!」
ゆっくりと、影が重なる。
#wtプラス
静かで優しい夜だった。
診断メーカー#こんなお話いかがですか



「君が初めての恋人なんだよね」
「うそぉ」
「本当に」
そう笑って伝えた記憶は新しい。
彼女には特別優しくありたくて、ただ誰かをこれほど愛したのも初めてで。
ソファに沈み込む彼女を見下ろし思考を巡らせる。
「……驚いた、突然崩れるね、」
煮立たつ感情の抑え方が分からない。
#wtプラス



「キスしていい?」
「……だめ」
「おや」
「そう訊く時100%しつこいもん……」
「それくらい彼女に夢中なんだよ」
奪うのは容易く浅い吐息も分かる距離で。
聞き入れたように残念そうに笑う彼は私の指を遊ぶ。
……不意にするりと組まれ、熱っぽい瞳がじっと見据えた。
「……だめ?」
#wtプラス



瞼を半分被せた瞳はノートへ、特に何かを喋るわけでもないが小さく動く柔らかそうな唇と。
彼女は不意に唇を尖らせると同時に、怪訝そうな表情を浮かべた。
「……も〜〜王子そんなに見ないでよ、気散っちゃう」
「おや、ごめん」
今は片想いで、触れる権利もないけれど。
(いつかね)
#wtプラス



「よかった、まだ居た」
「王子?」
「鍵忘れていってない?」
「うそ」
慌てて身の回り確認、ない、ない、ない。
「うわ不覚……ありがと、」
「帰る前でよかった」
安堵の色で表情和らげる彼を見上げる。
「何かお礼させてほしいな」
「……なら、この後の夕飯ご一緒させてもらおうかな?」
#wtプラス
「……食欲人並みよね?」
「奢ってとは言ってないよ?」
「(お礼……)」



「ありがとう王子」
「どういたしまして。 待ち合わせ中?」
友達と遊ぶ予定に早く着きすぎてナンパに遭ったのを、通りすがりの彼に助けてもらった。
ぐっと引き寄せられた肩の感触。
『この子はだめ』
「(……ちょっと嬉しかったな)」
「どうかした?」
「……んーん、なんでもない」
#wtプラス



「ついてる」
「!!」
「まだ二口目なのに」
慌てて口元拭う私を、彼は普段の2割増しな笑みで見つめてる。
「いつまで笑ってんの」
「かわいいなって」
「……も〜甘いものは腹いっぱいです」
「ぼくはデートのつもりだから大目に見てくれる?」
「ッゲホ、ゴホッ」
生クリーム器官に入った。
#wtプラス



彼女がよく見る立ち姿で一足先に待っていた。
お互い姿を認識してひらり手を振り交わす。
耳からイヤホンを抜き、視線を奪っていたスマホを鞄にしまう所作。
「どこ行くんだっけ?」
「……そういうところが好きだな」
「えっ何が?」
自分のために、全て切り替えてくれているようで。
#wtプラス



「おや、随分ゴム伸びた?」
「そうなんだよね、王子から貰ったシュシュ」
合わせやすさから頻繁に使ってたらゴム部分が結構デロデロ。
「最初はぼくが贈った物って感じだったのに、もうすっかり君の所有物だね」
少しずつ日常に溶け込む愛しさを、独占欲と呼ぶのかな、と小さく笑った。
#wtプラス



「傍目から見たら普通にデートじゃん……」
私の独り言を聞き取った彼が幾度か瞬いた。
なんでだろう、別に親しくもない男と2人きりで遊びに来てる現状を未だ飲み込みきれてない。
「ぼくはデートでも構わないよ。 行こうか?」
流れるように差し出された手に、慌てて首を横に振った。
#wtプラス



「あ、王子」
「Trick or Treat」
「え、先手打たれた」
「君は今年も乱獲していそうだからね」
「乱獲」
「たまには言われたいかなって」
「お菓子が目当てなんだよなぁ……」
お菓子ばっかりの鞄を開け、中身をガサゴソと漁る。
「これ可愛いね」
「さっき貰った」
「女性に?」
「いや男子」
#wtプラス



「あれ? 王子君だ」
「お疲れ様です」
「お疲れ様ー」
帰り際に遭遇し近況報告諸々込みで一緒に帰ることになった。
「ん? 王子君家こっちだっけ?」
「いえ、せっかくなので家まで」
「え、優しい……王子君みたいな彼氏だったら楽しいのかな〜なんて、はは」
「なるほど?」
……おや?
#wtプラス



「え、えぇ!? あのかずくん!?」
「お久しぶりです」
幼い頃から可愛い顔だったけど、
今なんか、め、めっちゃかっこよくなってる。 動揺。
「流石に彼女持ちでしょ……」
「期待を裏切るけど居ないですよ」
「うそ、そうなの?」
「昔から好きな人が変わらなくて」
「……ふぅ、ん?」
#wtプラス
(10年も前の告白を、覚えてはいないだろうけど)



「これ行くんだけど、来る?」
「……興味、あるなぁ」
時々王子からイベント事に誘われる。
「こういうのどこで見つけてくんの?」
「イベント開催予定は一通り調べてるかな」
「探すだけでも楽しいもん?」
「ぼくは結構楽しんでるね」
「ふぅん」
「君を誘う口実探しだから」
「……ん?」
#wtプラス



1度だけ、息継ぎの隙すら与えないほどに呼吸を奪われたことがあった。
「……ご、め、ごめん、」
「?」
「ほんとうにごめん、」
柔らかく唇を重ねるだけのキスの時も、脳裏にチラついた。
顔を上げられないまま口元を覆う。
「今のじゃ、たりない、」
「……驚いた、随分と煽り上手だね」
#wtプラス



何気なく「王子って私を女とは思ってないよね」と口にした。
ぱちくりと瞬く彼が笑って首を傾げる。
「まさか。 試そうか?」
試そうか??
耳を疑う発言に彼を見やれば、私とは対照的に穏やかに微笑んだ。
「……え、なに、今私告白されてる?」
「そう受け取ってくれて構わないよ」
#wtプラス



「こうなる気はしてたよね」
隣から苦笑いな彼の不思議な独り言。
話題に食い付いた友人達が俺も私もと集まり、
いつのまにやら結構な人数でわいわいしてる。
帰り際「楽しかったね」と掛けた声に、彼は軽い相槌。
「また遊びにこない?」
「ん、いいよ」
「今度は、ぼくときみだけで」
#wtプラス



「え、っと、王子……?」
課題消化で集まった、はず。
赤面の私に恐る恐る呼ばれ、はっとした様子の彼の指先から、長い横髪が滑り落ちた。
無意識だったらしい手がぱっと離れる。
「ごめん」
「い、いや、大丈夫、」
びっくりした。 びっくりした!
ばくばくと響く胸に手を当てる。
一瞬で切り替わった空気に動揺が収まらない。
突然私の髪を耳に掛けた手が、そのままうなじまで、なぞりそうだったから。
思わず止めた、けど……
左隣に座る発端の彼も流石に尾を引いたか、なんとも言えぬ表情で瞼を伏せた。
「……改めて触ってもいい?」
「へ、」
「嫌なら断ってほしい」
視線の合わない横顔、予想だにしない発言に口をはくはくと。
「い……いいよとは、言えない、けど、」
火照る顔を両手で覆い隠して。
「いや、ではない……」
容易に自覚できるほど震えた声で紡ぐ。
「……解釈の余地がある返事は、やめた方がいいと思う」
そう述べる彼が私へと指を伸ばす、
緊張、
#wtプラス



友人としか見てなかった子に告白された。
「私に全く気がないのは知ってたけどね」
それもフラれ覚悟で。
「諦めるの?」
「えぇ〜何その言い方? 悪い人だな」
からりと笑う彼女を見やり口を噤む。
……きっかけは、なんだっていいと思う。
「1週間、粘る気はない?」
「は、……は!?」
#wtプラス
「なければそれでもいいんだけど」
「待ってよ思考追い付かないんだけど、 何? たった1週間で落ちてくれるわけ??」
「1週間もくれるなら、試すよ」
「……わ、わかった……」
だって、友人に告白されたのは初めてで。



「えい」
「ヒィッ」
不意に頬を襲う、氷のような冷たさに飛び跳ねる。
「お、お、王子か!」
「やぁ、姿見かけて」
「悪戯する悪い子はこうです」
王子の手をがしりと捕獲する。
喰らえ人間カイロ様の力。
「いつもこんな冷たいっけ?」
「ついさっき、外から戻ったばかりだから」
「なる」
#wtプラス



「あ、今日は居た」
「おや王子君、もう待機前じゃ?」
「その前に顔が見たくて」
「あはは、口説き文句」
「口説いてるというか」
ふと彼が私の空いた手を掬う。
拾い上げた私の指先に唇を寄せ、聞き取れないほどの微かなリップ音。
「ぼくの勝利の女神なので」
「っに、似合うなぁ……」
#wtプラス



今開けていいかと訊かれ頷いた。
「もうね、これ見た時『王子に渡すしかない!』って思って」
がさがさと広げ、中身を一目見るなり大笑い。
「王冠贈られたのは初めてだ」
「結構良くない?」
「とても。 ふふ」
「最近は手頃な値段で王冠も買えてしまう時代」
「君のセンス凄く好きだな」
#wtプラス
「絶妙に身に着けるタイミングないのがポイント」
「実用性皆無なのに面白さだけでインパクト全部奪ってくよね。 これは語り草だ」



接客中、客に突然名前を呼ばれた。
「あ……王子、君?」
中学一緒だった、と付け足せば「よく覚えてる」と笑われた。 どっちがだ。
「ここでバイトしてるんだ?」
「夜だけ」
「そっか」
会計、釣り銭のやり取り。
彼は最後に私を見てにこり。
「また来ます」
「……お待ちしております」
#wtプラス





 
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