WT短編

□#ワートリプラスまとめ
13ページ/39ページ




影浦雅人




帰ってくると玄関に男物の靴があり、消したはずの電気が付いていた。
微かに漏れるテレビの音に近付けば「おう」とソファに腰を下ろす彼が振り返る。
「影浦君、 来てたんだ」
彼の顔を見てほっと胸を撫で下ろす。
「どうした、元気ねぇな」
「や、ちょっと、バイトで嫌なことあって」
落ちた気分が結構声に乗ったらしい、「大丈夫」と笑って手を振る。
彼が家に居たおかげで既に上向きだから。
「もう夕飯食べた? 2人分出せるかな」
「いや、こっち来い」
ソファの隣の席を叩く彼に従って腰を下ろす。
なんだろう。
左隣に視線をやれば、既に私の肩に彼の手が掛かっている。
ぐいっと押し込まれ働いた力通り倒れ込む私に、食らいつかんばかりに唇が迫る。
あっという間に塞がれ、貪るようなキスに必死に応えて。
ぼうっとする頭、焦点の合わない視界、奪われた呼吸を取り戻そうと深く息を吸い込んだ。
「……おし、飯作んぞ」
「(……夕飯どころじゃないけど、)」
#wtプラス



「本当にこの辺りなんかよ」
「うーん? 目印合ってるのにな」
足を止め地図アプリを開く。
探してる店が見つからない。
辺りを見回す彼がにゅっと私のスマホを覗き込んだ。
必然的に詰まる距離、動揺が込み上げる、
ばちりと金色と目が合った。
「……んだよ」
「ほっといて……」
#wtプラス



「(やっぱり髪質硬いなぁ)」
最初は嫌がられた気もするが、最近は慣れたのか普通に受け入れられている。
「なんで撫でんだ、俺撫でておもしれーかよ」
「なんだろ? 母性?」
「母性……」
「え、ごめん気になる?」
「予想より色気ねー返事で気ぃ抜けた」
彼は眠た気にソファに凭れた。
#wtプラス



[まだ起きてる悪い子だーれだ]
あまりに寝付けなくてド深夜に呟いたら、10秒くらいですぐいいねが付いた。
[カゲ君起きてんじゃん]
[寝れねぇ]
[寝落ち通話とかどう?]
[おめー絶対途中から話し出して目ぇ覚めんだろ]
[私をよく分かってんね……]
[スカイプ]
[おっ、やった]
#wtプラス
[勝手に喋って勝手に目覚めるおめーの声をラジオ代わりにして俺はとっとと寝る]
[あ、ひどいw]
「カゲ君の寝息貴重だし堪能してから寝よかな」
『やめろ』



「情が……人より薄いのが、コンプレックスというか。 私みたいなんでも刺さるの?」
「そりゃ、おめーが俺を意識してりゃな」
「……びっくりした、今口説かれたのかと思った」
「ざっけんなボケ」
「あいった!」
手刀の落ちた頭を押さえて笑みを零す。
それだけあれば充分だと思う。
#wtプラス



「……ん、?」
「わりぃ、起こしたみてー」
通りすがり、ソファで寝落ちてた奴が重たい瞬きを幾度か繰り返し、緩く笑み大丈夫と答えた。
「ゆめみてた」
「はぁ」
「でっかい貝に食われたカゲを旋空で救出目論んでるの」
「ろくでもねーの見てやがんな」
だから今安堵なんかが刺さるのか。
#wtプラス



夜の帰路、あまり話さないクラスメイトと鉢合わせ。
挨拶だけで終わると思いきや普通に会話が弾んだ。
「時々話しかけていい?」
「いいけどわざわざ許可取んのかよ」
「学校だと関わんなオーラの時多いから。 今は機嫌良さそうだし」
「機嫌良いっつーか」
「?」
「……いや、いいわ」
#wtプラス



「トリックオアトリート!」
彼は幾度か瞬くと面倒そうな顔しながら鞄を漁り出した。
「うそ、ダメ元だったのに出てくんの!?」
「防御用っつって貰った」
「わーい思いがけずお菓子ゲット」
「おめーそうやって全員から菓子奪い取ってんじゃねーだろな」
「やだな、相手は選んでるよ!」
#wtプラス
「選んで奪ってんなら尚のことタチわりーじゃねぇか」
「この言われようである……お菓子あげるから大目に見て?」
「……」
「受け取ってくれるから可愛いよね……」
「前から思ってたけどおめーの基準変だぞ」



「カゲの手って温かいよね〜見た目に反して意外と」
「おめーは死んでんのか?ってくれー冷てぇけどな」
「心は温かいから」
「ぬかせ」
カゲのコートのポケットに手を突っ込むと、入れ代わりでカゲの手が抜かれた。
「カゲの手を追い出してしまった」
「外気のがマシ」
「あったかい……」
#wtプラス



同じ時間を過ごす際に好意を感じれば、それで結構安心する。
「だからあんま妬かねー気ぃする」
交際始めて間もない頃そう言われた。
「なぁ」
「ん?」
「……思ってたより俺嫉妬深ぇ」
「! ふふふ」
「すげーバシバシ刺さってんだが」
「ごめん嬉しくて」
「んなこたぁ分かってんだよ!」
#wtプラス



あれ、カゲかな。
カゲっぽい。
いや絶対カゲでしょあれは。
ロックオンしてた人影と視線がかち合った。
「ほらやっぱりカゲだ!」
「おめーの分かりやすいな」
「えっごめんうるさい?」
「別にいいけど」
誰よりもうるせーけどな、と笑いながら付け足された。
不快ではないらしい。
#wtプラス



時間が合えば時々電話するようになった。
『やっぱおめー居ないと暇だな』
「あはは、私も」
毎日顔を合わせてた、気の置けない幼馴染に話したいことは山程ある。
まだ見慣れぬ新鮮な景色とか、近況とか。
でも。
「なんだか最近つまんないな」
『……んなシケた声すんなよ』
「あはは」
#wtプラス



泥酔状態の幼馴染を回収した。
「……全く1回くらい痛い目遭わせてやりてーぜ」
呆れながら、首元に巻き付く無防備な腕を解く。
「いたいめ?」
ふと、開けた目が挑発的に笑った。
「……聞こえてんのかよ」
「遭わせないの?」
「酔っ払いに手出さねーわボケ」
「チャンスなのに」
コイツ……
#wtプラス



「カゲが私をどう思ってるかは知らないけど、私はカゲ結構好きなんだよね」
「知ってるけど」
「ライクじゃないよ」
「……知ってんだけど」
「あれ?」
伝わってないなと思ったのに。
彼はその場にヤンキー座り、俯いて、でっかい溜息。
「だからダチ相手なのにこんな居心地悪ぃんだろ」
#wtプラス



はぐれた。 迷子癖いい加減直したい。
スマホを開けば送信より先に、ぐっと肩を引っ張られた。
「ったくおめーは毎度毎度」
「カゲ! 迷子探知機凄い」
「んなもん搭載してねー」
「ならカゲ助けて〜って気持ちが届くんかな」
「? いや、おめーは勝手に視界に入っ、……は?」
「?」
#wtプラス



「お、カゲ優しー」
揶揄を含む声に顔を上げるとタメ連中の姿。
「フラついてたコイツ捕まえたら爆睡なんだが」
「夢見悪くて寝れてないって言ってたな」
「気済むまで寝かしてやれば?」
気遣い込みで早々に離れる連中を見、溜息を吐く。
「(簡単に言いやがる)」
俺の気はどうすんだよ。
#wtプラス



「ばばん! ここに現れたるは人間カイロ様!」
「変なの来た」
「握手ハグ、なんでもござれ〜」
冬の私は最強、なんて謎の自信すら湧く季節。
凍えてる集団から1人外れたカゲが私の元へ。
「お?」
彼の手を挟む気でいた私の両脇を、腕が通り過ぎて、腰まで。
「さみぃ」
あ、そっち!?
#wtプラス
「あ、羨ましー」
「人間カイロ結構すげぇ」
「ぬくぬくですよ」
「俺らは何見せられとんのやろ」
「人間カイロ様の広告とレビューかな?」
「(後で手温めてもらおう)」



「……普段と匂いちげーな?」
「今日寒かったからなー」
沢山抱き締めたから相手のが移ったんだ。
人間カイロ様は本日も盛況である。
「こんなダイレクトに暖取る男子は流石にカゲくらいだけど」
「早く言えや」
「本人気にしてないし別にいいかなって」
「道理で妙なの刺さると思った」
#wtプラス
「くっついてきたくせに剥がされた〜〜」
「足りた」



先日席替えでカゲの後ろの席になった。
「次の授業サボりたーい」
「勝手にフケろ」
見放されてしまった。
振り返らないカゲの髪をいじいじと遊ぶ。
「……つーかおめーさっきから何やってんだ」
「カゲの髪みつあみにしてる、今5本目」
「てめ、」
ばっと私の手から逃れぶんぶん頭振った。
#wtプラス
「大人しいな〜と思ったら。 何されてるのか分かんなかっただけか」
「おい、解けねぇのあんだが」



「おい、何してんだ」
担当業務上、隊員からよく声を掛けられる。
二言三言会話した後、用件を訊けば「あ? いや別になんも」と。
「ん?」
「雑談」
「うそ、影浦君が雑談しに来るの初めてじゃない……!?」
「俺をなんだと思ってやがんだてめー! ちょっと感動してんじゃねぇ!!」
#wtプラス



まだ中学生だった頃の話だ。
隣席の男子が朝からずっと浅く咳き込んでた。
喉に絡む痰が煩わしい時、彼みたく喉を鳴らすような咳をする。
風邪かと心配し授業中にも関わらず「大丈夫?」と訊いた。
彼は喉元押さえながら一言、「平気」と。
(あ、声変わり……)
声低くなってる。
#wtプラス



「う、ねむけ限界、」
「どうせまた徹ゲーだろ」
「正解、仮眠とらせて……」
重い瞼を押さえ、カゲの足を巻き込んで長ソファにぱたりと倒れ込む。
「おいこら、起きろや」
「ごめんむり……」
「おい」
「……」
「……男を信用しすぎだろ」
呆れた溜息と独り言を、寝落ちた私は聞き取れず。
#wtプラス



最近何やってもしっくり来ない、と漠然とした悩みというか近況を報告されていたんだが。
「……わりぃ、気分じゃねぇ」
「そういうこともあるでしょ」
となると、さてどうしよう。
「……じゃぁあれとか」
「?」
「絶妙に使い所のないスタンプを探して周りに送り付けるゲーム」
「乗った」
#wtプラス
「おいこれとかどうだ」
「……あっははは! やばいこれをあの人が使うの想像つかな、あははは!」
2時間探した。



「気持ちいい重さっつーか」
「何それ」
「……毛布と掛け布団の上から、更に半纏を被せてるみてーな」
「成程?」
「重たい布団だと落ち着いて寝付きやすいんだろ」
「そうなんだ?」
「流し聞きだから間違ってるかもしんねぇが」
「なら私、実質カゲの布団なのか」
「何言ってんだおめー」
#wtプラス



「……どう?」
「うめぇ」
「わ、よかった!」
「年々美味くなってる気ぃする」
「この間買ったチョコ好評だったからこっちのが好みかなって! そんでそんで」
ベラベラと話していたら、ちゅ、と小さなリップ音。
「……きゅ、急だね?」
「いいだろ、いつでも」
何の話してたか忘れたが、
#wtプラス



「っど、どうぞ」
「おう」
付き合って最初のバレンタイン。
普通に食べると言っていたが、彼がチョコを食べる姿は見たことない。
早々に開封した彼は私が作ったチョコをひょいひょいと口の中に放り込む。
「……なんだか、チョコ食べてる影浦君可愛いね、」
「嬉しくねー」
笑ってる。
#wtプラス



「いやーいいもん見たな」
「そうだな」
「も〜やめてよ私か弱いキャラじゃないのに」
タメ連中との夕飯最中、フラついた私がカゲに倒れ込んだのを冗談半分からかわれてる。
「あれ貧血?」
「経験上多分そう」
「おい」
「ん?」
「週二で来い」
ビッと親指で店を指す。
あ、これはおこか?
#wtプラス



「うわ、ベロベロじゃねーか」
「ぐす、」
玄関の前で崩れ落ちたように座る、彼女の隣にしゃがみ込む。
そういや飲み会とか言ってたか。
「ぱわはら上司きらいぃ〜」
「んな会社やめちまえ」
「ううぅ……まざど」
「んだよ」
「だっこ」
「ガキかよ」
#wtプラス
彼女の腕が届くように少し屈む優しさ



「手出したら止まれねーって分かってっから、途中で嫌がられたくねぇ」
そういえば感情が伝わるんだとか言ってたっけ、
「っす、少しくらい、強引でも大丈夫、だから、」
う、うわぁぁぁ言っちゃった!!
赤面した顔を覆う私の隣で「……覚えとく」と上擦った声の彼も天を仰いでいる。
#wtプラス



聞こえた足音に「しー」と人差し指を立てる。
物分かりのいい少年はこくりと頷き、声量を抑え話し掛けた。
「カゲさん寝てるの珍しいね」
「ね。 私動けなくて困ってるけど」
「……必要な物あるならオレが持ってこようか?」
「ん、んー……なら毛布。 掛けてあげてくれる?」
「ん」
#wtプラス
(どっちかと言えば暇潰しに必要な、って質問だったんだけど、まぁいいか)



これは……は、ハメられたな??
最近の悩みである元凶が、出入り口を塞ぐように現れる。
ギロリと睨み付ける瞳、反射的に後ずさった。
「こんな時だけガン逃げしてんじゃねーぞ」
「に、逃げてるって分かってんなら、」
「……良し悪しくれーは分かる」
「え、」
「悪けりゃ追わねぇ」
#wtプラス



「変なとこ律儀だね……」
「ちゃんとしたもん貰ったんだぞ、それなりに返すべきだろが」
好み分かんなかった、と彼が突き出したのはバレンタインのお返し。
コンビニスイーツのようだが、彼がこれらを手にレジに並ぶ姿は想像付かない。
「マメな人はモテるよ」
「死ぬほどいらねーわ」
#wtプラス





 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ