WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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王子一彰





彼氏にフラれた。
「ヘコむ……」
机にうつ伏せるとまたじわりと涙が滲む。
私の愚痴の聞き役に付き合っていた王子が深く息を吐く。
「よかった、これで踏ん切りがついたよ」
彼は席を立ち、回り込んで私の隣に腰を下ろす。 んん?
「ぼくじゃだめかい」
「……っえ!?」
涙引っ込んだ。
#wtプラス
#同じ台詞でwtプラス



付き合ってからまだ1度もキスしてない。
本人の前で呟けばぱちくりと瞬いた。
「ムードとか気にするかなと思って」
言うが早いか1秒もあればキスできるほど距離を詰められ、脈が一気に跳ね上がる。
「し、心臓はきそう」
「耐えて」
笑う表情を知覚する暇もなく、顎を掬われて塞がれた。
#wtプラス



「後生だから壁ドンしてほしい」
ぱん、と手を合わせて頼めば「突然だね」と笑われた。
「実は数ヶ月ほど考えてて」
「それはまた随分と長いこと」
「『今から』じゃなくて、タイミング見計らってしてほしいとかいう真剣にふざけた注文付きですが」
「分かった、覚えとく」
「よっし!!」
#wtプラス
「こういうの、他にも付き合ってくれそうな人居ない?」
「1番顔が好みなんだよ……言わせないでよ……」
「ありがとう」
(さて、貴重な権利をどう使うかな)



「好きじゃなくても付き合える、とかでもよければ」
告白に対して私の返事がこうだった。
彼は一頻り悩み、それは無しでと。
「そこは断るんだ」
「そうだね。 ぼくは欲張りだから、心までぼくのものじゃないとだめなんだよ」
出直すねと言い彼は笑って去ったが、赤面してる私、なに。
#wtプラス



「……どうしたの?」
普段気丈に振る舞う彼女が、人目につく危険のある場所で泣いていた。
余程のことが起きたか、ぼくの腕に大人しく収まるのがいい証拠だ。
「……」
「少しは落ち着いたかい?」
「……今、王子の頭ぶん殴ったら記憶飛ばないかな……」
「よかった、いつもの君だね」
#wtプラス
気まずそうに視線を泳がせる姿まで役得だった、なんて怒られそうだけど。



「エコバッグがこんな活躍するとは」
「まさかエコバッグもこんなにチョコ詰められるとは思わなかったでしょうよ」
王子顔が良いからなぁ。
ずっしりとした袋を眺めてればじっと私を見つめる視線。
「君は皆に配っていたけれど、ぼくの分はないの?」
「そんだけ貰っといて?」
「うん」
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両腕で抱えた紙袋見て「大漁だね」と王子が笑った。
「ふふん、私はモテるからね!」
自慢気に言えば幾度かの瞬き、不意に口角を緩めて。
「ぼく以上にきみを好きな人なんていないよ」
形成する山にオシャレな箱を1つ重ね、任務だからと手を振った。
……え、これ高いけどバリ美味い奴。
#wtプラス



ネットで取り寄せた王冠を、王子にプレゼントしたことがある。
「ダイニング周辺に飾ったんだよね」
「安物とはいえ王冠鎮座する一般住宅凄いな」
「本当に凄いよ。 遊びに来た友達が全員、一目見るなり膝から崩れ落ちるように笑うんだ」
「何その面白そうな現場……動画撮ってよ……」
#wtプラス
「そんなこともあろうかと」
「あるの!!?」



こんなに弱かったなんて。
「やだ、まだのむもん」
精神年齢が肉体年齢の4分の1ほどに退行した彼女の手から「もうだめだよ」と缶を回収した。
「まだのむのー」
「キスじゃ我慢できないかい?」
「きす」
僅かに漂うアルコールの匂い、オウム返しの唇に浅く重ね。
「……もっとちゅーする」
#wtプラス
普段なら絶対口にしないだろう発言がぽんぽん聞ける。
酒の力とは怖い。



「こんにちは」
玄関扉を開けた先に居る者の姿を見るなり、バンッ!!と勢いよく閉めた。
「な、な、なんで王子が!?」
「なんでも何も、急ぎのプリント届けに来たんだよ」
玄関扉越しに「体調はいいのかい?」などと投げ掛けられる心配の声。
待って、待って、ばっちり部屋着なのに。
#wtプラス
「おーい、開けるよ?」
「っちょ、着替えるから待って……!」
「プリント渡すだけだよ」
「私が気にするの!! 女だから!」



「おや、大漁だね」
「……私はモテるからね」
先月と似た会話を交わせば、彼は口角を緩め「そうみたいだ」と。
「……ホワイトデーだからさ、私もいくつかお菓子持ってて」
「うん」
「何か欲しいのある?」
「そうだな、きみ以上のお返しはないけれど」
軽く蹴ったら「いた」と笑われた。
#wtプラス



帰ると彼女が寝ていた。
荷物を置いて着替え、背中を向けている彼女の隣に滑り込む。
「……ん……?」
「おや、起こした?」
返事がない。
寝たかな、と数秒見守ってると彼女は不意にもぞもぞと仰向けになり、ぼくの胸にぽすり頭を預けた。
口角が上がる。
ぼくの彼女はかわいい。
#wtプラス



「王子がラーメンとかハンバーガーとか、カロリーを口にする姿いつまで経っても見慣れないな」
「こんだけご一緒して、まだ?」
笑いを零した彼は最後の一口を終え、ご馳走様でした、と手を合わせた。
「私が牛丼3人前ぺろりと平らげそうだったら見ちゃうでしょ?」
「まぁ……見てるね」
#wtプラス
「えっ、私牛丼3人前も食べてないよ!?」
「君が大食いするところは見たことないけれど」



「王子に彼女できたら構ってくれなくなりそうでやだ〜」
「おやおや」
腰周りをホールドすると宥めるように撫でる手。
「そういう君は女の子だから、男にはくっつかない方がいいよ」
「……相手は選んでるもん」
「どういう基準で?」
「……し、信用してる人」
「うん、やめた方がいいね」
#wtプラス



好きな子に話し掛けられた。
「王子君、数学のノート出し忘れてない?」
「あ、本当? 提出日今日?」
日常会話もしないような、浅い関係だった。
事務的でも話す機会に恵まれたのは嬉しい。
「ありがと、忘れてた」
「どういたしまして」
(……なんてね)
きみが回収係なのは知ってた。
#wtプラス



彼女と会話するのはなかなか大変だった。
自己肯定感が低い上に人間不信で、オマケに1人でも全く苦でない性格が拍車をかける。
彼女が初めてぼくを友達と呼んだ時には半年経っていた。
「あの人苦手、何考えてるか分かんない」
「そう?」
意外と可愛い人なんだよ、とは言わなかった。
#wtプラス



「あ、それ当たったよ」
「うそ、マジ!? えーっマジで本当に!? 王子愛してる!!」
「ふふ、本当に?」
「ホントホント!」
テンション昂ぶったまま見上げたら、王子は愛おしいものを見るかのような柔らかい表情をしてて「ん?」と首を傾げた。
……あれ、なんか流れ変わったな。
#wtプラス
「興奮の勢いだと分かっていても、好きな子に愛してるなんて言われたら流石に照れるよね」
「わ゛ーッもうその話やめてよ!!」
「今は隕石落ちても言わなさそうだもんな」
「言わないだろうね」



たかが夢でも、現実味が強く起こり得そうなものは目覚めてからもずっと引き摺る。
「っ、おねがいだから、嫌いにならないで……」
顔を合わせて早々泣き崩れてしまった私に、彼は数秒戸惑い、呆れ笑いを交える。
「やだな、ぼくをなめすぎだよ」
嬉しそうな声色でぐっと私を抱き寄せた。
#wtプラス
#同じ台詞でwtプラス



声質なのか喋らない間か、通話相手を寝落とすことに定評があった。
「(とうとう王子まで)」
すかーっと気持ちの良い寝息をマイクが拾ってる。
翌朝「通話中に寝落ちたの初めて」と報告された。
「ふぅん、珍しいんだ」
「昨日の感じだと、多分君の気配で眠れそう」
「どういうこと?」
#wtプラス



「おや、可愛らしい」
「王子君」
廊下で鉢合わせた彼に、お疲れ様と声を交わした。
「さっきまで友達に遊ばれちゃってて」
「なるほど、雰囲気変わりますね」
肩に掛かるカールした髪を一掴み。
数秒と経たずに離し、後ろへ追いやるように払う。
「かわいいです」
「……あ、りがと……」
#wtプラス



何故か彼と付き合うことになった。
機嫌良さそうに喋る彼を見るのは意外と悪い気しないんだけど……
「……王子君さ、私と居て楽しい?」
「楽しいよ」
「……あ、いや、私あまり話上手くないし……」
「好きな子と同じ時間を過ごす以上の贅沢があるの?」
彼、こういうこと言うよなぁ。
#wtプラス



普段と同じ帰路。
車のエンジンや通りすがりの靴音よりも、スマホから響く彼女の声の方が鮮明で耳に残る。
「ねぇ」
『ん?』
「好きだよ」
『…………、』
何も声を発さないが、息を詰まらせた気配がした。
彼女の見えない様子に口元を緩ませる。
「好きだよ」
『……聞こえてたって、』
#wtプラス



「紅茶合わなかったんだよねぇ」
しばらくした頃1杯のカップを出された。
「騙されたと思って」とまで言われ、警戒しつつ口を付ける。
「……! 美味しい、」
「よかった」
きみの味覚探ったかいがあったな、と冗談っぽく笑う彼。
「常備しておくから時々おいでよ」
「……王子ん家に?」
#wtプラス



荒れた天気の中、通話が掛かってきた。
「珍しい、どうかした?」
『ど、どうしたというか、』
窓の外が光ったのも束の間、雷鳴に混ざって短い悲鳴。
「……雷が怖いのかい?」
『たすけて……』
「こんな天気でなければ直接慰めに行けたのに残念」
『次からはそうして……』
「……成程?」
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「ぼくのお姫様になりたい、だっけ? 可愛かったな」
「うわ、いつの話してんの……」
3歳とかの話じゃん。
くすくす笑う彼は本当に王子みたいに育っちゃって。
「今は可愛げないですよーだ」
隣に座る彼は不意に身を乗り出し私に迫る。
「もう言わないの? お姫様」
「だ、誰が言うか」
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「ぼくの彼女に、何か用ですか?」
通りすがりの同級生の一言で、しつこいナンパが退散した。
「か、彼女、」
「口上だよ、気にしないで」
「だ、だよね」
平然と返され、若干落ち込む自分も居たりして。
「……もし1人なら護衛しようか」
「え?」
「男除けにはなると思うよ?」
「え、え、」
#wtプラス



「あ」
「間に合わなかったね」
移動中に打ち上げ音、かろうじて建物の隙間から花火が見える。
歩みが遅くなる彼女に「ここで少し見ていこうか」と促した。
「花火好きなんだね」
「うん。 言ったっけ?」
「見ててなんとなく」
何かに目を奪われたきみは、本当に綺麗な顔をしてるから。
#wtプラス



「でさぁ、この王子が先日がっつりデレイベ起こして!」
「ふぅん? 今回は結構可愛い子なんだね」
唯一取り合ってくれる彼に、舞い上がりながら近況報告してたが、相手も相手だ。
「……推しが王子様なの、王子と混ざるな」
「そうだね。 なんだかいつも以上に複雑だな」
「……ん?」
#wtプラス



「あら、セレブ寝?」
「少し冷房きつくて」
リモコンを見れば29度設定だが、体感は26度で少々肌寒い。
「きみも昼寝していくかい?」
「え?」
彼は被せていた薄い毛布を持ち上げ、隣にスペースを作ると手招きした。
「え、」
「来ないの?」
「ね、寝ぼけてんの……!?」
友達ですけど!?
#wtプラス



「よかったら一緒に帰らない?」
急な誘いに驚きながらこくこく頷けば、彼は「よかった」と笑った。
「なんで、誘ってくれたの?」
「この間、休み時間にきみと話したのが思いのほか楽しくて。
 もっと話したくなったんだよ」
私が言えない言葉を、彼は他意もなくさらりと告げてしまう。
#wtプラス



「……ん、?」
「起きた? おはよう」
「いっけね、寝てた……」
ソファから起き上がり、付き添ってくれたらしい彼に礼を言う。
「私、寝言とか言ってた?」
「いや? 夢でも見たのかい?」
「んー……なんか、王子が……」
「ぼくが?」
「……まぁいいか、帰ろ」
「え、何、ぼくが何?」
#wtプラス



「何もしないよ」と笑われながら、彼氏の自室にあるベッドへと潜り込んだ。
部屋主も私の後を追い、少し狭いベッドに2人分の体重が沈む。
お互い向かい合うように寝転がり、既に目を閉じた彼の、幸せそうに笑う声。
「今日はよく眠れそうだな」
「そう、」
私は、全く寝れそうにない。
#wtプラス




「しかしなんでまた……私が王子君の勝利の女神なんて話に?」
休憩所で度々会う彼だがどうやら偶然でなく、私に会いに来てるらしい。
先程奢ったカフェオレを飲み干した彼は伏せた瞼を持ち上げ緩く笑む。
「あなたに会えた後の試合は調子がいいので」
「……え、何、口説かれてる?」
#wtプラス





 
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