WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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犬飼澄晴




「最悪……寄りにも寄って犬飼に見つかるなんて……」
「あはは、言うね」
鼻を鳴らしながら目元の涙を拭う。
「完全に弱み握られたって思った」
「いやー流石におれでも好きな子には優しくするよ」
だから私には塩対応って?
「気晴らしくらい付き合おっか?」
「…… あ!?」
繋がった。
#wtプラス



校門前に犬飼来てるぞと言われ慌てて出てきた。
「お、やっほー」
「え、なんで居るの!?」
制服姿の彼は私に包みを差し出す。
「誕生日おめでと」
「! ありがと…… これ渡すためだけに?」
「当日直接渡したかったのに、今日は基地来ないって言うから」
(それに、牽制にもなるしね)
#wtプラス



「犬飼、ほら」
「お、やったね」
「どの口が言うのよ、催促してきたくせに」
呆れたら、あははなんて軽い笑い。
「おれ以外にもチョコ用意したの?」
「いや? だから私バレンタインは貰いっぱなしだって言ったじゃん」
「ふーん?」
……なんだそのニンマリした顔。
「お返し考えとくね」
#wtプラス



「冷え込み方エグくない?」
暖を求めた犬飼が先程から私の片腕に引っ付いて震えてる。
確かに今日は随分寒い。
「こっちにする?」
空いた腕を広げると「えー?」と笑いながら首を傾げた。
「カイロ様のハグ正直体験したいけど、どこからともなく怒られそうだからな〜」
「どこから?」
「まぁ今誰も居ないし、1回くらいいっか?」
「カモン」
「え、すご、ぬっく」
「ぬくぬくです」
「いいな〜これ、一家に1台欲しい」
「1台」
「一家に1人?」
「私電気代より掛かるよ」
「あはは」
#wtプラス
「何やってんだお前ら?」
「ありゃ、見つかっちゃった」
「人間カイロ様の維持費の話」
「養うのか?」



「ただいま……」
少々激務らしい。
ぐったりした様子の彼女を出迎えた。
「何も考えたくない……」
「お疲れ様」
「彼氏さん、仕事のこと忘れさせてほしいんですけど……」
「……うわー、刺激的なお誘いどうも、彼女さん。 明日に響くんじゃない?」
「午前休取った……」
敵わないな。
#wtプラス



失敗も後悔も、酷く焼き付くから苦手だった。
「こんなだから試験落とされたんだなぁ」
「それ以前の問題でしょ」
才能だって、と言う彼の論理的な宥めは前も聞いた。
「……後悔してでも通したいものもあるでしょ?」
「んー……例えば?」
「告白とか」
「告白」
「好きだよ」
「……は?」
#wtプラス



周囲に人の気配があると寝付けないタイプだった。
しんどい時に彼女の肩を借り、寝たフリで休むこと何度目か、とうとうマジのマジで寝落ち。
その後も時折寝落ちて、若干癖付いてしまったらしい。
「犬飼って意外と無防備だね、可愛いとこある」
「……そうだね、おれも驚いてるよ」
#wtプラス
普段より幾段と柔らかい声。
聞き心地が良いから、もう少し眠いフリをしていたい。



昔、友人に壁があると言われて以来コンプレックスだった。
「付き合ってそこそこ経つのに相変わらずガード固いよね〜」
「…………」
「あれ、傷付いた?」
「……ガード固い女は嫌?」
「別に?」
あれ。
「寧ろガード固いのにおれが入り込める隙あるのが嬉しいなーって。 男心って奴?」
#wtプラス



「わ、クマすご」
「眠剤切らして……」
「あらら」
手招きして膝に誘導すると彼女の怪訝そうな顔。
「目閉じてるだけでも睡眠くらいの効果あるらしいじゃん、休んでけば?」
「……何企んでんの?」
「恩でも売っとこうかなー、みたいな?」
「うわぁ……」
「うそうそ」
あ、でも来るんだ。
#wtプラス
「(普段なら来なさそうのに。 大分弱ってるんだ)」
「(手つきは意外と丁寧で優しい)」



「バイト忙しすぎて行く前から萎える」
「あらら、そりゃ大変だ」
「最近は客の顔全部犬飼に変換して接客してる」
「ぶッふ」
珍しくツボにハマったようで腹抱えて机に伏せてる。
#wtプラス
「いや、っふ、全部おれの顔は、ずるいでしょ……っ」
「やる気出ないもーん」
おれが客ならやる気出るんだ?



彼の性格を差し引いても、私への接し方は一際甘かった。
私に気があるんかなぁ、と思ったのも束の間、案の定告白された。
「そっちは? おれのことどう思ってんの?」
「んー、まぁ……」
「自己評価だと、かなり良い位置にいるつもりなんだけど」
あながちハズレではないから腹立つ。
#wtプラス



犬飼は結構仮眠取るけど、と言ったらタメ連中に
「狸寝入りじゃね?」
「あいつ普通に寝たフリすんぞ」
と返された。
私の肩に寄り掛かり、規則正しい寝息を立てる彼がフリとは思いづらい。
「犬飼は狸寝入りするとか皆言ってて」
「あはは、失礼〜」
「だよね」
「ここ4回はガチ寝なのに」
#wtプラス



「犬飼! こっち!」
届いた声の出所を探すとシートの上で手を振る彼女。
「結構良い席じゃん。 皆は?」
「屋台」
まだ冷たい缶を彼女の頬にぴとりと当てれば小さい悲鳴。
「あげる」
「差し入れ?」
「や、自分用だったけど」
「え」
「誰か戻ってくる前に飲み干しちゃって」
「? はい」
#wtプラス



「生身の時いっつも眠そうだけど寝れてる?」
「まとまった時間は取れてないかな」
「しんどそ」
「しんどい」
「おれの肩貸そっか?」
「んー……」
「根本的な解決にはなんないけど少しでも寝なよ」
「びっくりするほど純粋に心配してくれるねぇ……」
「おれのことなんだと思ってんの〜」
#wtプラス
(でも借りないんだよね)




 
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