WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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影浦雅人




「あっ、」
「わり、」
ぶつかった衝撃、咄嗟の謝罪、と同時に
私の腕の中にあったクラス分のノートがバサバサッと廊下に散らばった。
「てめー加減しろや! つーか女子巻き込むなやボケ!!」
「なかった、悪気は。 すまん」
「(凄い怒ってるけど手際良く回収手伝ってくれてる……)」
#wtプラス



暴力沙汰の噂とその風貌で、第一印象は『怖そうな人』
校内で姿を見かけて同じ学校だと知った。
友達と歩いてるのを見かけた時は、道端に蹲ってゲラゲラ笑う姿を視認した。
「おや、カゲ珍しい子と一緒だ。 誰?」
「……」
「……」
「あれ?」
「……後輩」
「お友達になる予定です」
#wtプラス



あからさまに避けられてる。
散々俺に構ってきた奴が、最近になり途端に音沙汰なしだ。
「なんでだ、覚えがねぇ」
「それらしい理由は知ってるけど……」
「言え、今言え」
聞けば、俺に好きな奴が居るという噂を耳にしたという。
舌を打つ。
「アイツが自分かもって自惚れるタマかよ」
#wtプラス



わ、我ながら大胆なお願いをしてしまった。
全てが終わりぼうっとした意識の中で毛布に包まる。
視界の端に彼が入り込んだ。
「……懲りたか?」
伺うような問いに沈黙、数秒。
考えを巡らせても嫌だった気分はなく、そっと首を横に振る。
頬杖からずるり、と滑り落ちる彼を見た。
#wtプラス



「気ぃ張りすぎだボケ、ここ居る時くらい力抜け」
おめー甘えんのヘッタクソだもんな、と半ば無理矢理腕をぐいっと引っ張られ、彼の肩に寄り掛かる形に。
「……いいの?」
「やれ」
「……そんなすぐには無理だよ、」
「知ってる」
「……膝枕のが、いいな、」
組んでた脚下ろしてくれた。
#wtプラス
「優しさは伝わるんだけど、手が凄いぎこちない」
「慣れねーことして身体痒い」
「ふふっ」



「豚玉お待ち」
「影浦君?」
「あ? ……あっ、おい随分久々じゃねーか」
「やー、めっきり来る機会失くしちゃって」
「元気にやってんならいいわ」
持ってきた生地を置き、去ろうとする彼を引き止める。
「お願い、焼いてくれる?」
「あぁ!? 確かおめー1人でも焼け……チッ、貸せ」
#wtプラス
「焼いてもらう間は店員さん独り占めじゃん」
「小賢しいな……」
「ひど。 いや付き合ってくれるそっちもそっちだけど。 誕生日おめでとう」
「……覚えてんのかよ、どーも」
「ボーダーの方は?」
「平常運転、あー、俺の隊降格した」
「は!?」



立ち話する姿を見かけた。
今だな、と突進する勢いで抱き着けば「ってぇ」と鈍い声。
「てめー最近何がしてーんだ」
「生身突進は当たるのに、ランク戦だと掠りもしない理由を考えてた……」
「普段そこまで神経張り詰めてねーわボケ」
「(カゲなら生身タックルも避けれたりせん?)」
#wtプラス



「カゲが寝起きで目こするの結構可愛い」
「誰でもそれくらいすんだろ……」
まだ頭回らねぇ。
寝起きが可愛いという感性はよく分からねぇが。
「……おめーの寝起きは見たことねぇな」
「そりゃ見ないでしょ、私どこでも眠れるわけじゃないもの」
俺だってどこでも寝れるわけじゃねー。
#wtプラス



「影浦君、怖い人だと思ってた」
「今はちげーのか」
「うん」
時々授業サボるし、言葉遣いも荒ければ容姿も怖くて、一生縁のない人だと思ってたけど。
「掃除の時間、真面目にやる人が悪い人なわけないかなって」
「単純かよ」
箒の私を見て、塵取り持ってきて今構えてるとことか見ると。
#wtプラス



「はぁい」
「……来るなら来ると連絡しろっつってんだろ」
「ごめんごめん」
扉に手を付く彼の腕を、屈んでひょいっと潜り抜け。
「お店閉まってたからこっちかな? と思って」
知った家をぐるぐる歩き回るが、どこも人の気配がしない。
「今日は家、俺以外誰も居ねーぞ」
「……わーお」
#wtプラス
「帰っか?」
「や、大丈夫このまま泊まる」
「ちったぁ躊躇えや」



好きな人がいる。
でも話しかけるどころかろくに目も合わせられず、偶然鉢合わせた時は顔をそらしてしまう。
感じ悪く見られてなければ奇跡なくらい。
「ん、やる」
「え、」
「これ好きなんだろ」
「……あ、りがと、」
でも時々親切にしてくれて、胸がいっぱいになるほど嬉しくなる。
#wtプラス
「(うそ、どうしよう、覚えてくれてた、うれしい)」
「…………」



「おめーが来ずに誰があいつら止めんだよ」
そう言われて来たが、役目を果たさず彼と2人で屋台巡り。
「若干名射的無双してるけど?」
「ほっとけ」
なんのために来たんだか。
不思議に思えば「祭りが嫌だったわけじゃねぇだろ」と。
「人が多そうだから、」
もしかして連れ出してくれた?
#wtプラス



「……カゲはさぁ、自分に関係ないことは刺さらない分、
 わからないこともあるとか、言うじゃん」
「おう」
「今とか、まさしくそうだと思うけど、気付いてくれて、嬉しい」
「明らかに様子変だろーが、なめんな」
「うん、」
ずっと溜めこんでいたものが決壊しそうで、ぐっと堪えている。
#wtプラス
「優しくされて泣きそう」
「……人居ねーとこで」
俺が泣かせたみてーになんだろが、と心底不服そうに言われて笑った。



数分前まで起きてる気配あったが。
「……カゲ寝ちゃった?」
珍しい。
席を立つと、くんっと服の裾が引っ張れた。
「わ、起こした?」
「……どこ行くんだ」
「毛布取りに、」
「……要らねぇ」
「要らない?」
「要らねぇ」
再度引っ張られた催促に隣に座れば、そのまま寝息を立て始めた。
#wtプラス



「影浦さ〜ん? 重たいんですけど〜?」
「さみぃ」
人間カイロの私から暖が取れると知って以来、時折引っ付かれている。
肩の上に乗る頭が、首筋を撫でていて擽ったいんだが。
「すり寄ってくるカゲ、かなり可愛いぞ」
「うるせーよ……」
からかいながら薄い頬をつついたら払われた。
#wtプラス



突如バツンと照明が全て消えた。
「えっ、嘘、停電? 怖い怖い怖い、カゲ、どこ?」
何も見えぬ暗闇に手を伸ばせば、ぱしりと手首が捕まった。
姿は見えないが、安堵の息を漏らす。
「夜目が利くの?」
「ってほどじゃねぇけど、方角は分かるし」
それにしては随分正確に掴まれた気が。
#wtプラス



「はっくし、」
「風邪か?」
「少し肌寒くて……」
彼は不意にリモコンを触り、席を立った。
……あ、1度上げてくれてる。
「毛布は俺用だからこれで我慢しろ」
肩にばさり、と彼の冬コート。
「え、優しい……」
「普通だろ」
「ときめいてしまった」
ソファに付く彼の肘がずるりと滑った。
#wtプラス



「おめーいっつも撮ってんな」
「わ!」
突然背後から掛けられた声、驚いた拍子にシャッターを切ってしまった。
慌てて確認すると彼も覗き込む。
「すげーブレてら」
「カゲ君いきなり声掛けるから、」
眉を顰めてみたものの彼はケラケラ笑うだけ。
別に怒ってはないと分かるのだろう。
同級生達がわいわいと遊ぶ中、少し外れた場所で2人並び立つ。
「向こう混ざんなくていいのかよ」
「私は皆がはしゃぐのを撮るのが1番楽しいから」
そういうカゲ君こそ、と切り出しかけて口を噤む。
「あ? どうした」
「ううん、何も」
混ざらないの、と促したら隣から立ち去ってしまうだろうか。
#wtプラス



「トランプさばきうめーな」
「そう?」
「普通はできねぇだろ」
「昔手品にハマっててさぁ」
道理で。
バララララとテレビでしか見ない混ぜ方を平然とこなす。
リフルシャッフルと言うらしい。
「手ぇキレーだし映えんな」
「えっカゲ今日凄い褒めるね」
「別にいーだろが俺が褒めても」
#wtプラス
「カゲ君、シャッフル動画撮ったけど要る?」
「えっいつの間に!?」
「……貰っとく」



「おめーのこと俺ぁんな好きじゃねー」
「はっきり言うなぁ」
「他人に興味ねーし大体上辺だし」
「凄いズバズバ言うなぁ」
「何も気ぃ使ってねぇ今のがいくらかマシ」
「……それはそれで複雑だ」
「……ずっとそのまま居りゃいいのによ」
「カゲと2人の時だけにしておくよ」
「くそったれ」
#wtプラス



「最近何かあった?」
「あ?」
「学校とか家とかなんでも」
会話の延長ついでに話を振った。
思案するように彼の眉が寄る。
「……小テストすげー悪かった」
「あらま」
「偶然だろーが最近妙にランク戦誘われる」
「影浦君強いもんねぇ」
「誰かさんが近況聞き出してくる」
「あっはは!」
#wtプラス



具合を訊かれ、起きてから何も口にしてないと送った。
「……なん、で」
「すげー鼻声」
入んぞ、とずかずか乗り込む彼に困惑してると、
持ってたレジ袋をずいっと差し出された。
「風邪っ引きで飯も食わねー水も飲まねー奴がいるかボケ」
凄みを利かせるとキッチン借りんぞ、と家の中へ。
#wtプラス
(……看病しに来てくれたのか、)



「寒波来てんのになんで外待機なの……」
「せめて屋内指定しろや……」
震えながらコートのポケットに両手を突っ込んで、隣に立つカゲにぴとりと張り付く。
「おい、ちけーよ」
「さむくて……」
呆れたようにでかい溜息を吐かれたが、引っ付いた腕は逃げていかないので許容された模様。
#wtプラス



淡い石付きのヘアゴムのようなものが、ある日から好きな人の手首にあった。
おしゃれするタイプじゃないし、そもそも男だし。
タイミングを見計らい恐る恐る手首の物を指す。
「これ、どうしたの?」
「あー、静電気」
「静電気」
「冬場バチバチすっから軽減用」
なぁんだ、拍子抜け。
#wtプラス
(……なんか今安心されたな)



「お? おいおいおい〜、やるじゃんかカゲ〜」
「あ?」
「その紙袋!」
こたつから目ざとく指された先は白い紙袋。
シンプルなガワだが、生憎と本日は2月14日。
「もしかして噂の『アイツ』かぁ?」
「っそうだよくそったれ!!」
面白そうな気配を察知した奴がこたつから這い出てきた。
#wtプラス



数週間ぶりに会う同級生と、初めて待ち合わせをした。
「はえーな」
「影浦こそ」
市内と言えど、進路が違えば早々会うことはない。
連絡先を交換したのは卒業式の日だった。
「影浦に会えるの、柄にもなく楽しみだったみたい」
「……俺もだけど」
そんな嬉しそうにされると居心地悪ぃ。
#wtプラス



最近カゲに避けられてる、気がする。
「私何かやらかしたんかなぁ……」
「無言で避けるタイプじゃねーけどなぁ」
「それは私も思う……」
「お、噂をすれば」
相談相手の視線の先を辿れば黒い影。
目が合った、瞬間に顔をブンッと逸らされた。
「あ、原因分かっちまった」
「今ので!?」
#wtプラス
「俺から言えるのはただ1つ、お前は何も悪くない」
「うん、うん???」



常連店の次男さんが、私のバイト先に現れた。
お互いを認識するなり「あ」と零す。
「ここで働いてんすか」
「うん。 君は……よくここ来てるの?」
「たまにっすけど」
「そっかそっか」
こんなとこで会えるなんてラッキーだ、今日はツイてるのかもしれない。
「……擽ってぇな」
「?」
#wtプラス




 
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