WT短編

□#ワートリプラスまとめ
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王子一彰





扉の開閉音、入室者へと向けてしーっと人差し指を立てた。
「寝てるのか」
「お疲れっぽいね」
小声で行われた会話に彼女が起きる気配はない。
穏やかな寝息に口元を緩め、彼女の頭に手を添える。
「さて、お休み中のお嬢様が居るので、今日のミーティングは静かめに」
「了解」
「了解」
#wtプラス



「随分眠そうだね、仮眠したらどう?」
「そうしたいのは山々だけど、私枕ないと眠れなくて」
「枕ってなんでもいいの?」
顔を上げるとソファに座る王子が、自らの膝をぽんぽんと叩いた。
「えぇ、本気?」
「半分くらい」
#wtプラス
「この枕、自動で頭撫でてくれる」
「眠れそう?」
「もう寝そう」



「ぼく多分重いよ?」
「例えば?」
「妬いた日には拗ねて伸し掛かる」
「物理的だな」
つい笑うが本題はそこじゃない。
「あ〜束縛系? 男と喋るなとか」
「学校生活である以上お互いそれは無理だよ」
「スマホ見たり」
「プライバシーだからね」
こんだけ理解ある『重さ』ってなんだろう。
#wtプラス
「やっぱ体重ってことか……?」
「ぼく結構食べるよ」
「意外とモリモリ食べるのは知ってる」



「きみは男友達多いよね」
「女に見られてないだけだよ〜」
ゲーム攻略が環境が編成がなど、男友達との色気のない話を聞いていたらしい。
「王子から見た私だって似たようなもんでしょ?」
何気なく問えば彼は瞬きを繰り返し、ふと笑みを零した。
「ぼくがいつ、そんなことを言ったの?」
#wtプラス



「あの、少し離れない……?」
「おや、何故?」
「御顔が……ち、近いといいますか……」
彼は二度瞬くと口元を緩め、更にその距離を詰めた。
「もう何度もキスしてるのに?」
「ひ、ヒエエェ」
思わず肩を押し返すと、くすくすと笑い声が降ってきて、
あの、その、面白がってないですか?
#wtプラス



冬のフル装備で基地に入ると、彼が「おや」と出迎えた。
「流石のカイロ様も今日は寒そうだね」
「寒波を直に浴びては……」
ちょいちょいと手招きされ、差し出された手に手を重ねたら両手で捕まった。
「代わりにぼくカイロなんてどう?」
「私専用かぁ」
「あ、ぼくきみ専用だったんだ」
#wtプラス
「何も考えずに喋ったら勝手に私のものにしてしまったごめん」
「うーん、満更でもない」
「前から思ってたけど王子温かいもんね〜もしや同類か? 身体から熱逃げないタイプ?」
「ぼくも皆みたいにカイロ様の定期的なご利用したかったな」
「頻繁に寒波の中散歩するしかねぇな」
「釣り合いが」




「『連れ』だなんて随分遠回しな言い方するじゃん?」
待ち合わせ中、逆ナンに遭ってると知った声が割って入った。
「私が先約なので」
そう言う彼女に腕を引かれ場を離れる。
「ありがと、かっこよく連れ出してくれたね」
礼を言うと突然どっと疲れた表情。
「王子の彼女面大変だな……」
#wtプラス



「王子を逆ナンから救うの、予想以上に勇気要るな……」
呼吸を整えると隣から「そんなに?」と笑われた。
「王子に釣り合う顔面じゃないしね……」
「ぼくは嬉しいから、自信持って来てくれていいよ」
「……私に彼女面されても?」
彼にしては珍しく返事がないが、代わりに微笑まれた。
#wtプラス



「これはうちのオペから彼女さんとどうぞって」
信用できる義理と友チョコ以外断ったそう。
受け取った品と人名を挙げながら、王子君は机にチョコを並べる。
「それにしてもモテるね……」
「口頭だと出所が不安かい?」
「うーん……どうだろ」
わかんないや、と笑うと頭を撫でられた。
#wtプラス
「来年は署名もお願いしようか」
「やんなくていいよ! めっちゃめんどくさい彼女じゃん私!!」



目が覚めて、眼前にある綺麗な顔に数センチほど後ずさった。
昼寝に巻き込まれて私も寝落ちたんだ、と記憶が蘇る。
「……ん……?」
「あ、起きた……? おはよ」
「……ん」
目を開けたのも束の間、眠そうに瞼を落とす。
すると彼は何事か、不意に私を抱き寄せ、
って、ちょ、ちょ、
#wtプラス
(寝息がガチすぎて起こしづらいんだけど…………)



「第2ボタン要る?」
「うーん……言うてボタンだし……」
私の返答に彼は「そう言うと思った」とくすくす笑った。
可愛くない返事は百も承知だが、受け取ったとこで盛り上がれもしない。
「……いや、やっぱ貰うかな」
「おや」
「他の子に渡るのは嫌かも」
「今同じこと言おうと思った」
#wtプラス



「居た居た、王子。 これお返し」
「おや、随分と立派だね?」
「ちゃんとしたチョコくれたから」
礼を告げると、彼女は他にも渡す先があるらしく足早に去った。
「……なんや、王子あいつに逆チョコしてたん?」
「友チョコ感覚で受け取られてしまって、あまり本気にされてないけどね」
#wtプラス



家でのんびり過ごしてると、不意に彼がのそのそ這って寄ってきて、首筋に吸い付いた。
「っひゃ、なに、なに?」
「今日は首元すっきりしてるなと思って」
細めた瞳に一瞬意識が奪われたのも束の間、首筋に追撃。
「……スイッチよくわかんないんだけど……」
「女の子には難しいかもね」
#wtプラス



組み敷いた彼女がぽろぽろと涙を零してる。
「……怖いならやめようか?」
なるべく優しく声を掛けるが、彼女は首を横に振る。
「慣れたい、から」
「でもきみ、ずっと泣いてるよ」
慰めるように彼女の目元に口付ける。
「こわくて……」
「でも、慣れたいんだ?」
全くかわいい恋人である。
#wtプラス



「王子君が好きです」
友達からで、と返したあの告白から半年が経つ。
異性の友人としてすっかり仲良くなった反面、
彼女がぼくに好意を抱いている様にも時々直面してしまう。
「まだぼくのこと好きなんだ?」
「うん、」
視線を落とし、僅かに頬に帯びる赤。
「絆されもするなぁ」
「?」
#wtプラス



「王子、具合悪い?」
顔を上げた王子は驚いた様子で瞬いた。
「どうして?」
「普段より表情が険しいかなって……私の勘違い?」
「……参ったな、分かるんだ」
彼は観念したように笑いながら目を伏せる。
「ちょっと頭痛がね」
「薬貰ってこようか?」
「……いや、肩貸してもらおうかな」
#wtプラス
「肩の位置低いね、肩凝りそうだ」
「ど、どうする?? 膝でも使う??」
「っふふ、きみが良いなら遠慮なく借りるけど、いいの?」



「ちょっと、青い……?」
「?」
「いや、緑……?」
この色はなんと形容するのだろう。
覗き込んでじっと見つめてると、不意に落ちてきた瞼がその色を隠した。
「……真剣なところ悪いんだけど、相手が男なのも意識して?」
彼は目を閉じたまま困ったように笑う。
……え、照れてる?
#wtプラス



「キャラに魅力があって矛盾がなければ多分なんでも読むよ。 絵柄は気にしないかな」
書店で偶然王子と会ってお勧めの漫画を訊かれた。
「私はこれ好きだけど……王子の趣味かなぁ」
迷いながら1冊、彼はくすくすと笑みを零す。
「きみの趣味を妄信してると言ったら笑う?」
「笑うなぁ」
#wtプラス
「本当に??」
「きみのチョイスが外れたと思ったことは、ただの一度もないんだよ」
「そっちが雑食なわけじゃなくて……??」





 
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