短編棚M

コスプレさせられた…
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「ぶほっ、ちょ 桜ねーさん何それ似合いすぎ!」
「ありがと・・最初の『ぶほっ』って何?」
「気にしては負けなのだよ、紅咲」


高尾君はエレベーターから降りて早々、
ロビーに居る私の姿を見るなり吹き出した。

そんなにちんちくりんなのかなぁ・・・と自分が今着ている服を見る。

白いブラウスに黒のロングスカート、更に白いエプロンとを
促されるがまま着せられたのは誰がどう見てもメイド服だ。

衣装を持ってきたさつきちゃんはと言えば興奮気味に高尾君に話しかけた。


「すっごく可愛いでしょ!? 桐皇の文化祭の余り物を貰ってきたの。
 桜ちゃんに似合うと思って!」
「お気持ち凄く嬉しいんだけど、そんなに似合うかなぁ」
「とっても! 似合わないわけがないもんっ」


そして右側からさつきちゃん毎度のタックルを食らう。
もう大分慣れてしまった辺り彼女との付き合いも浅くはないんだなと感じる。

腕を回してさつきちゃんの背中をポンポンと叩き、
ソファに座る何か言いたげな黒子君に目を向けた。


「確かに紅咲さん、白黒のシックな服は何でも似合いますよね」
「それ思った! 仕事先の制服もそうだったし」


まさか高校卒業して文化祭でもないのにメイド服を着ることになるとは・・・
若い子の勢いに飲まれてしまった・・・

私の衣服談義へと話題が移行していきそうなタイミングで、
高尾君がふと思い立ったような表情を見せて駆け寄ってきた。


「あのさあのさ、桜ねーさん!
 その格好で1つ言ってほしい台詞あんだけど・・!」
「? 何?」
「やめとけ、ろくな台詞じゃないのだよ」
「始まってもいないのに真ちゃんつれなーい!」


愉快そうに笑う高尾君に眉を寄せる緑間君。
頬をかいて苦笑いをした。 2人は相変わらずだね。

メイド服を着せられた時点で諸々始まっているような気はしている。

その後すぐ高尾君は私へ手招きして、口元に手を当てていた。
どうやら耳を貸せ、ということらしい。

楽しげな高尾君の声が空間を介さず、ほぼ直接耳に流れる。
・・・のも束の間、酷いむせ方をしてしまった。


「ごほっ、げほ!」
「桜ちゃん!?」
「高尾君何言ったんですか」
「えー? なんだろうねー」

「桜ちゃん大丈夫?」
「げほ、大丈夫・・・変なむせ方した・・ 高尾君、それ本気で言ってる?」
「大真面目! できればソファに座るあの2人に!」


・・・・今、凄い躊躇ってるんだけど。
高尾君、それマジに言ってる?


「・・・顰蹙とかブーイング飛んだら全部高尾君のせいにするからね?」
「だーいじょうぶだって! ほら、ゴー!」
「待った、流石に心の準備がしたい」


手の平を彼らに向け「タイム」の意図を示してから、
一度黒子君と緑間君の2人が座るテーブルスペースに背を向けた。

何故こんな羽目に? 元はと言えばメイド服が原因、
つまり桐皇のメイド喫茶が問題。 我ながら酷い責任転嫁だ。

本当にブーイング飛んでも私知らないよ・・・・

心頭滅却、1つ咳払いしてできる限りの笑顔を浮かべて180度振り向いた。


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「げほ・・っ!」
「ぶふーぅ!!」
「ちょっ、真ちゃんおしるこ! っぎゃははは!」


何事かと様子を伺っていた黒子君は私の発言を聞いた瞬間、
思いきり咽てしまい、しかも直前まで読んでいただろう本を勢いよく閉じた。
読んでいたページ分からなくなりそう、しおりちゃんと挟んでた?

緑間君は絵に描いたような吹き出し方をして、
飲んでいたおしるこが机に少量飛び散ったのをテーブル拭きで拭っていた。

被弾しなかっただろうはずの女性であるさつきちゃんは、
口元に両手を当ててぷるぷると身を震わせている。

混沌としている・・・因みに戦犯の高尾君はと言えば、
モロに食らった黒子君と緑間君見ては腹を抱えて大爆笑している。

君はいつでも楽しそうだな。


「しかも桜ねーさんめちゃくちゃ笑顔でサービス精神旺盛すぎ!!」
「やるからには本気を出さねばと。 凄く恥ずかしい」
「俺、桜ねーさんのそういうところ大好き。
 っくっくっく、真ちゃんに黒子くーん? 感想聞かせてー」


ぶっちゃけ今すぐにでも記憶消してもらいたい。
つか私が恥ずかしいわ。 何でやったんだろう、私。 恥ずかしい。


「おしるこ吹き出したのだよ高尾ォォオ!」
「ちょっ、そこ怒るとこなの!? いって!!」
「・・・酷い凶器を見ました・・・」


テーブルを拭き終えた緑間君は急に立ち上がり、
高尾君に駆け寄るなり手刀を食らわせた。 わりと本気な手刀だ、痛そう。

独り言のように呟く黒子君の様子を見ると服が引っ張れる感覚。
視線を向ければさつきちゃんが何かを言い淀みながらこちらを見つめていた。


「さつきちゃん?」
「ね、ねぇ。 あの、『お嬢様』にしてもっかい・・・!」
「あぁ、そっちの方が抵抗ないな」


なんでお嬢様だと抵抗薄いのだろう、これが同性パワー?

頭の片隅で考えながら小さく喉鳴らし、
私を見上げるさつきちゃんに笑顔を向ける。


「お帰りなさいませ、お嬢様♪」
「桜ちゃん・・・もう綺麗す、・・」
「さつきちゃん生きてる!?」


フラリと倒れかけたさつきちゃんを何とか抱きとめた。
彼女が倒れた意味が分からない。

これは・・・どうしたら。 ソファーにでも座らせたらいいか。


「無意識って怖いねぇ・・・」
「・・そうですね、とても」
「そこの2人は何の話をしてるの」


黒子君と高尾君のしみじみした会話を、耳が中途半端に拾う。

抱きとめたさつきちゃんをズルズルと若干引きずるようにして、
空いてる1人用のソファに座らせた。 ・・・彼女魘されてる? 大丈夫?

っていうかこれ、もしかして高尾君の差金だとしても全体的に私が悪い?

その矢先チーンと軽快な音が響き、エレベーターが降りてきたことを示す。
エレベーターのドアが開くと中からは随分見慣れた住人が顔を見せた。


「あら、今吉君だ」
「・・何や? 桜、その格好は。 におーとるけど」
「お褒めの言葉ありがとう。 お世辞でも嬉しいわ」


頬をかいて、もう一回自分の着てる服を見直す。
まぁはたから見たら「何でそんな格好しとんじゃ」って話なんだけど。

するとまた横から高尾君が、いい笑顔を浮かべて今吉君に人差し指を向けた。


「桜ねーさん! さっきのを今吉さんにもう一発!」
「・・・もーほんとに責任取らないからね?」


そう小さく笑ったのに、高尾君は親指立ててた。
・・・・何がグッジョブなのか、よく分からないけれど。

もういいや、どうにでもなれ。
半分ヤケクソになりながらも笑みは忘れない。


「お帰りなさいませ、ご主人様♪」
「げほ、! 何やっとんねん桜・・・!」
「私は言われたとおりにやってるだけだよ、戦犯は主に高尾君」
「ぶっは! やっぱ破壊力バッツグーン! 俺良い仕事してる!」


高尾君から手を差し出されてわけも分からないままハイタッチに応える。

うん、私には自分がどう見えてるか分からないので、
何が起きているかもよく分からない。

けどダメージ与えてることだけは凄くよく分かる。 皆生きてる?


「もういっそのこと、桜ねーさん今日一日はその格好でいようぜ?」
「流石にそれはお断りしたい所存」
「別にいいんじゃないですか」
「お断りしたい所存」


黒子君までオーケー出されてしまったんだが。


「・・・もう逆にどうでもいいのだよ・・」
「ええんちゃう? 知らへんけど」
「お断りします。 後で着替えます」





(あっ、誠凛の女監督さん! 桜ねーさん、どうぞっ)
(? っていうか桜さん、その格好、)
(お帰りなさいませ、お嬢様♪)
(!!? 桜、さん・・!? え・・っ!?)

(・・・リコちゃん、気のせいかな。 何か顔が赤く、)
(ないわ! 赤くないわ!! ちょっと蒸し暑いわね!)
(カントクはそう言ってますけど、多分紅咲さんに思わず見惚れ)
(黒子君! それ以上言ったら明日のメニュー2倍よ! いいわね!?)





 

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