短編棚M

麻雀はお好きですか?
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マンションに立ち入り、中央ロビーに入ってすぐ左。
面積のある長方形テーブルを中心に、横長のソファが4つテーブルを囲む。

ロビーに入ってすぐ右は直径1〜2mくらいの正方形テーブルに、
人が2人座れる程度のソファが4つ、テーブルを囲んでる。

この正方形テーブルでは度々麻雀スペースとしての使用頻度が多く、
麻雀好きの面々が屯していることが多い。


「麻雀ですか?」


本日もそのように集まってじゃらじゃらしていたら、
私の背後から黒子君がひょっこりと顔を出した。


「そうだよ。 黒子君分かるっけ?」
「僕テーブルゲームってオセロとトランプしかできないんですよね」
「まぁ、そないな感じするなぁ」


頬をポリポリと掻きながら返答する黒子君に私の左側に座る今吉君が笑った。
確かに黒子君が麻雀やるようには思えないし見えない。

イメージ変わんなくてよかったと思う反面、
興味があるなら是非誘いたいという気持ちが渦巻く。 麻雀仲間増やしたい。

しいて言えば赤司君が麻雀に興味持ってそうなんだけど、
彼は運まで味方につけるタイプの鬼才なのでちょっと教えるのが怖い。

因みに今回の麻雀メンバーは私の左側に座る今吉君、
それと対面、私の向かいに座っている火神君、私の右側に座るのが緑間君だ。


「あっ、火神君それロン。 見てよこれ小三元! 美しくない!?」
「なぁっ!? イカサマしてんじゃねぇ、すか!?」
「私がイカサマするとでも?」
「そうは見えねぇ。 でもツイてるのレベル超えてるよな」


向かいから溜息を吐く火神君を横目に、倒した手牌から役を指折り数えていく。

綺麗に作られた手はテンションが上がる。
小三元、役牌2・・混一色とトイトイもか。


「えっと、8翻で倍満かな。 子だし16000点」
「1本場やし火神からもう300点貰っとき」
「ほんとだ、ご馳走様〜」
「このやろう」

「今日のおは朝の占い、てんびん座が1位だったがこれほどとは・・・」
「緑間君は何位だったの?」
「4位だったのだよ」


確かに緑間君もそれなりに調子良さそう。

緑間君の膝の上にある、青いノートは今日のラッキーアイテムだと思う。
直接聞いたわけではないけどしばらく一緒に過ごすとそんな気がしてくる。

・・・え、ていうかおは朝って麻雀運にも関わってくるの?
流し見してたけどこれからちゃんと見ようかな。


「っていうか火神君そろそろハコりそうだよね。 今何点?」
「寧ろ今の倍満よー耐えたな」
「あー・・・確実に満貫は耐えれねぇな! 5000もない!
 つーか今回紅咲に奪われまくってんだが!? 死ぬ」

「危険牌が読めていないだけなのだよ」
「とはいえ何狙ってるか分からん捨て方やしなぁ。
 ワシ結構打ってるつもりやけど未だに桜の河読むん苦手やねんな」
「えっ、嘘、それは初耳。 そんな変な切り方してる?」


わりと自然で妥当な切り方してると思っていたから、
捨て牌で手読むの得意な今吉君にはバレているもんだと思ってた。

実際今吉君から直接取れたことってあんまりない気がするし。

私の質問に今吉君はふるふると首を横に振った。 あれ?


「ちゃんと手牌見とったら考え自体は分かるねん、妥当な判断しとんねん。
 でもな? そもそも桜の引きは常人のそれやない」
「引きが常人のそれではない・・・」

「麻雀トーナメントしろと言われたらシード枠は紅咲に譲るのだよ」
「緑間が譲る前に満場一致するぜそれ」
「物凄い言われようですね、紅咲さん」
「不思議だなぁ」


不思議通り越して最早解せない。 なんでだろう。

趣味打ちなのでプロと比べたらそりゃ弱いはずだけど、
そこまで初心者でもないし、自然な打ち方してるはずなんだよね。

「紅咲さんの見てていいですか?」と問う黒子君を快諾して、
座っているソファの空いた隣をぽすぽすと叩いた。

左隣に腰を下ろす黒子君を見ながら全員で牌シャッフル。
山から順番に1人13枚取っていく。 親の私はもう1枚プラス。

切り出す前に全員が手牌を並び替えていく。


「そろそろ紅咲から役満が飛び出ても可笑しくないのだよ」
「怖いこと言うな緑間! 本当にそうなんだろーが!!」
「あはは、でも今回はあがるの目標かな。 トップだし、オーラスだし」
「逃げるわな〜当然やんな〜、そう言って高いんが桜やねんで?」


そう言う今吉君、同意するように頷いた2人にいやいやいやと否定を示す。
いやほんと私をなんだと思っているのだろう、私だって悪い時は悪いよ。

配牌に悲壮感漂ってても引きが良ければどうにでもなるからなぁ。
逆に言うと引きが悪ければお察し。 さよなら。 どうにもできない。

並び替えの終わった手牌を再確認してから字牌から切っていく。


「ハコりたくねぇ〜・・・紅咲今何点だ?」
「正確に数えてはいないけど多分5万点オーバーくらい」
「普通に考えて役満出すべきは紅咲じゃなくて現在ビリの俺だよな」
「せやな」

「どう見ても役満作れる配牌じゃねぇんだよな」
「分かる」
「紅咲はもうあがらなくてもいいだろう」
「ひどい」


数順回った辺りで2位死守しようとしているのか緑間君がポン宣言。

・・・あ、いやこれ自風と場風のダブ南だ。
まだ若干諦めてない節が見える。 怖い。 逃げきりたい。


「アカンなぁ、やっぱ悪いわー」
「逆に私は怖いくらいツイてるかも、ツモ良すぎる」
「ばっ、紅咲やめろ! 取るなら今吉か緑間からだかんな!」
「断る。 紅咲の餌食にだけはなりたくないのだよ」


普段なら餌食とか人聞き悪いとツッコミを入れるところなのだけど、
火神君が食らったら死ぬ手が着々と出来上がりつつあるので口を噤んだ。

いや、普通3順連続でドラ牌引く?? 3枚揃っちゃったよ。

でも現状ドラ以外の役はほとんどないに等しいからまだ4翻、
そんで私が親なので満貫、12000点・・・あっ。


「ごめんなさーい! 暗槓!」
「え。 ・・・げっ、ドラカン」
「ドラ4枚か・・・」
「ほら見てみぃ、桜高手や」

「今吉君か緑間君に当てないと火神君が吹っ飛ぶことが確定してしまった」
「ひでぇ死刑宣告だ」
「桜のせいで3位のワシまで吹っ飛び怪しくなってきたんやけど」


前の局も倍満であがっているので分かりやすく運の波が来ている。
カンしたので次のドラ表示牌も捲る。

・・・・黒子君以外の全員に戦慄が走った。

2つ目のドラ表示牌は、1つ目と同じものを指している。
ということはつまり、私のドラ4が倍になりまして。


「ドラ8かぁぁぁあ!!」
「盛り上がってまいりましたー」

「親で倍満確定か、緑間もハコる可能性出てきたな」
「そうですね、紅咲からの3倍満直撃で死にますね・・・」
「やったやん、死なば諸共」
「嬉しくないのだよ」


ハズレの牌を引かないってくらい運が良い。
ここまで運が良いと最終局とはいえ冒険したくなってしまう。

ドラだけで8翻か。 これに3翻くっつけたら3倍満。
うーん、ポンチーせずに染められるかなぁこれ。


「紅咲さん、今これ何が起きてるんですか」
「ニュアンスだけどね、麻雀って大体役を作って役を重ねまくったら高得点!
 って感じだけど、ボーナス牌は1枚持ってたら1ポイントなの。
 それを今私が4枚×2倍で8ポイント持ってるんだよね」

「親の8ポイントってどれくらい凄いんですか?」
「麻雀のゲーム開始時って全員25000点スタートだけど、
 直接ぶつけたらその人を1000点にまで追い込める」
「鬼なんですか?」
「違いねぇな」


麻雀を知らない黒子君の冷静なツッコミに、
据わった目をしてる火神君が同意を示した。

鬼なんてそんな言いよう・・・

いや5万点オーバーの私が親で倍満手作ってること自体は鬼だわ、
私も絶対相手したくないもん。

黒子君への解説の間にも着々と手は完成に近づいていて、
テンパイになりリーチ宣言をすると各席から微かに悲鳴が聞こえた。

最終局面で点数トップの親がテンパイ宣言、誰がどう見ても威圧。


「ほんっとに嫌なんだけど!!」
「いやー・・・絶対振りとーないわぁ・・・
 言うてこの順位で降りるんも惜しいな・・」
「どうぞ振って。 更地にしてあげる」

「麻雀分からないけどこれだけは分かります、
 今の紅咲さんは魔王かラスボスのそれ」


ら、ラスボス。 ちょっと皆力強い頷きやめてよ。

一発の振り込みは避けようとかろうじて安全そうな牌を投げていく各席。
数順回って自分の引きを見た瞬間、ツモアガリ宣言して牌を倒す。


「あ、俺死んだな」
「実は染まってるんだ〜」

「・・・これ何翻だ?」
「えーっとね、リーチ、門前もつくしね・・」
「あ、待ち、めっちゃ嫌な予感するで?」


残念ながら裏ドラは乗らなかったけどそれはそれでほっとしている。

ドラ4枚持ってて3倍は流石にシャレにならない。
そこまで来たら運ではなく多分呪いを信じ始める頃合い。

・・・えー、リーヅモとドラ8で10翻、そんで混一色・・・


「あっ、数え行った・・・? 13翻〜48000点!」
「マジで役満出しやがった!」
「アッカンなぁ今日は。 桜が良すぎんねん」
「紅咲10万点乗ったか? 点棒数えるぞ」





(青峰! わりーけど麻雀代わってくんねぇ!?
 紅咲が強すぎ! 即死する! ハコる!)
(は? 何、今日桜ノってる日?)
(大袈裟だなぁ、ちゃんと南4局まで行ったじゃん)
(最終局で数え役満出す奴の台詞ではないのだよ)

(どれ、南3、今吉2翻・桜8翻・・・小三か、
 4局、桜親で13翻・・・バッカじゃねぇの!?)
(そう思うだろ!? 代われ!)
(ぜってー嫌! 殺されたくねぇ!)
(こーら! 青峰君人聞き悪いこと言わないの!)





 

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