短編棚M

受験生の悩みですか?
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コトン


「張り切ってますね」


テーブルの上に食器が乗せられた音に気付いた、
4人席のテーブルを占領している1人の学生さんは顔を上げた

ぽりぽりと頭をかきながら、少し眉を寄せた学生さんは
割りと常連でお互い顔も名前も知っている。

ついでにうちの住人の先輩だ。
何かと縁があるらしい


「あー・・受験生だしな。 もう時間もねーし」
「大学行くの? 専門?」
「とりあえずは大学のつもり。 あ、桜ここ分かる?
 合ってるか不安なんだけど」
「うーん?」


どれ、とちょっと屈んで 開かれた参考書の1ページを覗く。

この辺、と指された指の当たりを数行読む。
・・・自分が持っている知識との違和感。


「ここの順序違うんじゃない?
 確かこっちが先に起こったはずだから・・」
「っあー! そこか、くそっ・・サンキュ」


消しゴムで枠の中を2つほど消し、順序を入れ替える学生さん。
・・・基、宮地君。 高尾君と緑間君の先輩。


「にしても結構難易度高い問題やってるねぇ・・
 この本とか私、もう分かんないよ」


適当に一冊手に取った参考書をペラペラとめくる。
あ、ダメだ この冊は序盤しか分からない。


「まーね。 ってか桜、仕事しなくていいのかよ?」
「今人居ないからちょっとくらい大丈夫だって」


参考書を数冊捲る私を見ながら、
宮地君はシャーペンの動きをふと止めた

参考書から視線を外して目を見合わせる。 ん?


「唐突だけどさ 何で桜、大学とか専門行ってねーの?」
「え?」
「や、桜頭いーじゃん。 何で大学とか専門とか
 行ってねーんだろって。 ・・なんつーか、不自然?」


不自然? そう言われたのは初めてだな。

参考書を捲る手を止めて、閉じて。
腕を組んで何でだろうねぇ、と呟いた。


「・・んー、まぁ。 割りと高1の時から決めてたんだ。
 高校卒業したら社会人になるーって」
「へぇ」
「まぁバイトだけじゃ1人暮らしは辛いものが
 あったっていうのもあるし。 ってか授業料がね・・」


頭抱えながら唸ると、 あぁ、と納得したような声も届いた。

店長の「ここに就職する?」っていう
割りと本気な笑顔もあったわけだし。

笑いながら参考書を机の上に戻すと、
その動作を見ながらの宮地君がぼそっと呟いた


「・・恵まれてんだな」
「んー、そうでもないよ? 先生は大嫌いだったし。」
「・・・え? お前、 人を嫌いになったりすんの?」
「え? 宮地君、貴方 私を何だと思ってるの?」


・・・・一しきりの沈黙。

シャーペンを動かす手も止めちゃって。
勉強の邪魔してるな、って思いつつ退散の声を掛けようとした時。

さっきの呟きより、もっと小さい声で宮地君も口が開いた


「・・・女神?」
「・・っふふ、何で女神よー」
「性格的な意味でだけどな!?」
「それでも女神とかないわ。」


ってかホントに女神のような性格の
持ち主だったら人を嫌いになったりしないわ。

ないない、手を振りながら宮地君の座る4人テーブルから離れた。

キッチンに戻ろうとすると
カランカランと扉の開くベルの音。


「いらっしゃいませー ってあら、黄瀬君」
「お、紅咲っち。 シフトこの時間だったんスか?」
「そー、今から後1時間ほど。 あら、笠松君も」
「・・・どうも」


黄瀬君の後ろで小さく会釈をした笠松君と、
黄瀬君に ごゆっくり、と声を掛けてキッチンに戻った。



―――――



「おう、笠松に黄瀬」
「あっれ、宮地さんじゃないっスか」
「何でお前居んだ」
「勉強ー」


さっき桜が出してくれたタルトをつまみ食いしてると
通りがかった海常の面々。 といっても2人か。

学校同士がそう遠くないのもあって
無論練習試合も何回か重ねていて。

とどのつまり顔馴染みなわけで声をかけた


「・・すげー参考書の山っスね・・頭痛くなりそうっスわ」
「宮地は大学なのか?」
「おー。 笠松は?」
「専門行こうかなっていう気はしてる」


・・へー。 ちょっと意外?
専門ってことは何か目的あんのか・・っと


「夢とかあんの?」
「特にねーけど、 体育教師向いてそうって言われて
 なるほどな って納得してる感じ。」
「あー、それ聞いて俺も納得したわ。 絶対向いてる」
「・・・笠松先輩、通路向かい側っスけど座ります?」


通路挟んだ4人席のテーブルに指を指した黄瀬に
笠松はあ、おう と返事をした。

・・・そうか、受験の悩み抱える同志がここに居るじゃねーか。





(そーいや黄瀬、桜を何かに例えるなら何?)
(紅咲っち? ・・うーん、 天使?)
(ぶっちゃけ俺とそんな変わんねー返答じゃね?)
(誰が天使って?)

(うわっ、紅咲っち! いつから居たんスか!?)
(ご注文取りに来ましたー。 ご注文は?)
(アップルパイ1つ)
(あ、バナナパフェ1つっス!)





 

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