短編棚R

寒色の観察対象
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自分以外人の居ない談話室。 2、3人で座れるソファの端に座り、
肘置きに片腕預けながら新聞を読んでいると扉から数度のノックが響いた。

顔を上げた際に視界に映る白銀の髪。

扉の方へと向けば同時に開く扉と、隙間から覗いた廊下と共に
脇に1冊の本を挟んで片手にカップを持っているメーゼが居た。

扉からは手前の方に座っていた彼にはすぐに目に留まったようで、
彼女はちらりと目線を奥の方にやった。


「ん、スクアーロ1人か」
「おう」


扉を閉めるとソファに座っているスクアーロの向かいにあった、
テーブルの上にあった底の深い皿の中身を確認しに近づいた。

口の付いていないだろうフォークと、四角く黒い物体。
それらが揃って入っていた皿にはラップが掛けられている。


「羊羹らしいがてめぇ食うかぁ?」
「・・ココアのお供が羊羹かぁ・・・」


メーゼが右手に持っていたカップの中身はココアだったらしい。
食い合わせは少々微妙か。

決めかねる表情を浮かべる彼女の様子を見てはふと小さく笑う。


「羊羹食べるかどうかはさておき隣いい?」
「おう」


皿の中身を確認するために屈んだ背筋を伸ばし、
スクアーロの後ろを回り込み、彼と同じソファの一番右端へ。

脇に挟んでいた1冊の本を左手に持つと、ココアが入っていたらしいカップを
机の上へ置き、彼女はソファに腰を下ろした。

ソファに腰掛けたメーゼは自然な流れで脚を組むと、
左手に持った本をぱらりと捲る。

しおりが挟んであったのか1ページ目からではなく、
ある程度ページが進んだ場所から読み出したようだった。

視界の端で読書準備整えるメーゼを横目に、
スクアーロは先程まで読んでいた新聞の字を追う。


「読書なら自室とかの人居ない方が集中できるんじゃねぇのかぁ?」
「なら何故スクアーロは談話室で新聞読んでるのかしらね」
「暇だった」
「私も似たような理由」


お互いに目線もやることなく短い会話が一区切り付く。
それぞれ手元の活字を目で追っていく。

紙の捲る音が不定期に続き、メーゼが持参してきたココアの飲む音が響く。

新聞読むのが一段落したスクアーロは頬杖をつき、
ふと隣に座る彼女の様子を見やった。

一般的な青やブルーと呼ぶにはどこか濃い、
海のような蒼い髪は肩甲骨ほどまで伸びており、
長い方がしっくり来たから伸ばしてるのと本人が言ったのを覚えている。

本に視線を落とす瞳の色は藍色でこいつがまた綺麗だ。
こんな色の宝石だったか見覚えがあるな、アイオライトだっただろうか。

戦闘時に見せるような鋭い殺気は今や見る影もないが、
暗殺者、戦士特有の隙の無さは変わらずか。

片親が日本人だと聞いているが、すらりと伸びた鼻の筋は
日本人の血が混じっているとは考えづらい。

無口ほどではないが饒舌でもない彼女の唇が、
大きく開かれたところを未だ見たことがない。
・・あ、こいつ唇の形綺麗だな。

随分大人っぽいように感じたがこれがまだ20行ってないとは思いづらい。
どんな半生を過ごせばこのような雰囲気を纏うのか。

本の表紙は見知らぬものだったが、手元の隙間から中身を覗けば英文だった。
推理ものだろうか。 頭がキレるコイツらしい。

本に添えられた指は細く長く、
一般的に呼ばれる綺麗な手に含まれるのだろうと想像がつく。
まさかこの手が剣を握り、人を殺しているなど初見では気づくまい。

爪も綺麗に伸びているように見えるが、
こいつがネイルを付けてんのは見たことがねぇな。

まるで観察のように彼女を見つめていると、
本に視線を落とし軽く俯いたままの藍色がふとこちらを捉えた。

視線が気になる、と言わんばかりに少々呆れたように口端を上げる笑み。


「・・・何?」
「キレーなツラしてやがんなぁ゛」


左手での頬杖を解かぬまま告げた本心に、メーゼは顔を上げた。

相変わらずスンとした表情からは感情が読み取りづらいが、
返事もなく幾度かの瞬きを繰り返している。


「言われ慣れてたか」
「慣れてるけど、スクアーロにまで言われるとは思ってなかったかな」
「は。 なんでだぁ?」

「戦力として使えれば見目は気にしないだろうなって」
「それには同意だが、綺麗なもんを綺麗と思うぐらいの感情はあるぞぉ」
「そうみたいね」


そのまま本に視線を落としかけた、右隣に座るメーゼへと右手を伸ばし、
耳の下から首の裏にするりと指を通す。

後ろに流していたメーゼの蒼い髪を指の間に通すと顔の前まで持っていき、
指の間に挟んだ髪質とその色をじっと見つめては彼は口元を緩めた。


「悪くねぇなぁ」



(・・今初めてスクアーロがイタリア人であることを思い出したわ)
(なんだぁ? 急に)
(イタリア人男性こういうとこあるよね・・・)

(髪触られるのは不快かぁ?)
(そうでもない)







左手は義手だけど、右手(素手)でものに触る
スクアーロさんが地味に好きです。



 

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