短編棚影

□11月の安堵
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この間久々に個人ランク戦にとっ捕まえた山吹曰く、
中高の学祭が被りB級ランク戦が始まったばかりの10月が、
大学勢のシフトが1番ピークな時期で毎年凄まじいらしい。

どう凄いかは聞けてねーけど正直あまり聞きたくはない。
あからさまに怪訝な顔を見せると山吹は軽く笑って続きは言い留めた。

・・・半年くらい前は杜若を見て山吹に似てると思ったもんだが、
以前となんら変わらない山吹の反応を見て、
杜若に似てると思うようになってんだから友人付き合いの侵食を感じる。

毎回2週目の水曜は調整でB級ランク戦は休みで、
そこにねじ込むように突っ込まれた修学旅行の日程。

三門市外は新鮮だったがゾエと鋼と穂刈が寺に行くと嬉々として言うもんで、
死ぬほど興味なかった俺はいってらと雑に見送って3人と別れた。

さて、1人。 1人で居ること自体は特に苦じゃないが暇だな。

行く宛もなく近隣をぶらつくと観光地なだけあって土産屋がよく目に留まる。
そいやなんか兄貴に指定で土産頼まれてた気がすんな、なんだっけか。

今日思い出せなかったら明日聞きゃいいやと土産屋の前を通りすがったが、
更に先にある土産屋の前で足を止めている三門第一の制服を見た。

店の商品を手に取ってまじまじと見つめる横顔に妙に覚えがある。
・・・やっぱ杜若じゃねーか。

声が届くくらい近付いて「よぉ」と声を掛けたら少し驚いた顔が振り向いた。


「え、わ、カゲ」
「杜若1人か?」
「1人じゃないよー、王子と水上と人見と・・・・あれっ?」


振り向いて辺りを見渡した杜若は最後に気の抜けた声を発した。
思ったより人数挙がったが、周囲にそいつら全員の姿は見受けられない。


「誰も居ねーぞ」
「ありゃ、置いてかれたかな」


特に深刻そうでもなくけろりと放つ杜若は、
連れとはぐれた現状を幾度か瞬きするだけで済ませた。

まぁ高校生だし自由時間だし、杜若が方向音痴だという話も聞かないし、
はぐれたからといいそこまで心配するこたないんだが。


「つーかボーダーっちゃボーダーだが妙な組み合わせだな」


王子と水上は確か同じクラスだったか? 人見は違った気がすんな。

隊もポジションもバラけているし、あまり見たことのない4人だ。
杜若が交友関係広い分、各位と喋る姿くらいは見たことあるっけか。


「あ、これね、高2ボドゲ組」
「ボドゲ」
「カゲも混ざる?」
「どうやったらそのメンツで混ざろうと思えんだよ」


人見は知らねーけど確か成績は良かった気がするし、
王子はチェスつえーし水上は確か将棋が強かっただろ。

こん中で1番成績が普通寄りの杜若に至っては、
一時期俺がパズルの解答仰いで即返事が来る程度には頭キレるのを知ってる。

眉を顰める俺に対して杜若は浅く吹き出すように笑った。


「わりと運要素多いのもやるからそこまでガチな思考勝負はしてないよ。
 水上とかたまに場に大爆笑沸き起こすレベルのやらかしするし」
「それは面白そうだからちょっと見てみてーけど」
「飛び入り大歓迎」

「・・で、何見て置いてかれたんだ」
「あ、見てこれ」


杜若がずっと手にしていた商品を手の平に乗せて俺に見せる。
白と黄色のふわふわした毛並みの狐と思しきストラップだった。


「また随分かわいー奴を・・・」
「触り心地が凄く良くてさ・・・あ、黒い方はカゲに似てる」


商品棚に背を向けていた杜若が背後にあった色違いの方を指した。
上から下まで真っ黒な毛並みで目が金色、既視感。 ・・・あぁ・・・


「否定しきれない顔してる」
「言わんでいいわボケ」


クツクツと笑いを堪える杜若が棚から黒い方も取って、
買ってくると言いながらレジの方に歩いて行った。

いや、黒い方も買うのかよ。
杜若は笑いながら買いに行ったけど俺へのからかいの材料とかではなさそう。

でもタメ連中アレ見たらぜってー俺だって笑うじゃねーか。
咎めるには弱い理由に頭の中をペンで雑に塗り潰して溜息を吐いた。

購入を終えて店の前で待機してた俺に杜若が駆け寄る。
狐2匹は鞄の中に仕舞い込まれたようで目の届く範囲には見当たらない。


「カゲ行きたいとことかないの?」
「あ? あー・・・ない」
「あー、近くに水族館あるけど人多いかな。 気になる?」
「・・別にいーけど」


買ってくると報告されたからなんとなく待ってたけど、
この後杜若と回るのはちょっと予想してなかった。

驚いた2秒の溜めを若干の躊躇いとして受け取ったのか、
歩き出す様子のない杜若はスクバの中から修学旅行のしおりを取り出す。

この辺って何あるんだろうと小さく呟きながらページを捲り探ってる。

今日は体調崩してない分学祭の時みてーに酔いは起こさないはずだし、
今挙げられた水族館っつー候補が嫌だったわけじゃないけど。

こいつの気遣ってるっぽい感情は度々肌を刺していく。 律儀な奴。
そのわりに荒船の片想いには対応が雑っつーか・・・

・・・いや待て。 急に繋がった思考に思わず眉を寄せる。

今回といい先月の学祭ん時と言い、後なんだ、クソ能力聞かれた時か。
他人にゃ理解及びきらない俺のクソ能力にまで気を使うこいつが。

自分に向けられてるにしろ、関係ねー奴へのものにしろ、
他人の恋愛感情を面白がるような奴か?

それは、ねーだろ、多分。 杜若だぞ。
じゃぁなんだこれ。 なんか認識食い違ってる?


「・・・荒船ってよぉ、杜若のこと一目惚れっつってるけど」
「? うん」


脈絡のない質問に杜若が不思議そうにしおりから顔を上げた。

人間性から導き出された考えは大体当たってやがんだ。
悩むくれーなら聞いとけ、そっちのがハッキリする。

浅く吐いた息を戻すように浅く息を吸う。


「ガチ恋じゃねーんだよな?」
「そう聞いてるよ」


はぐれた時と同じくらいの変わらない声音でけろりと返ってきた。

あっさり判明。 ほら見ろ、ほら見ろ。
今がどうかは知らねぇけどやっぱそうじゃねーか。

数ヶ月前からの妙な違和感と勘違いが晴れて、
しゃがみこむと同時に思わずなっがい溜息を吐き出してしまう。


「えっどうしたのカゲ」
「・・・なんでもねー」
「いや急にしゃがみこんでなんでもないわけないじゃん」


動揺半分気遣い半分の杜若の声が頭上から聞こえる。
いやほんとこの数ヶ月の引っかかりは一体なんだったんだか。

随分長かった勘違いに自身への呆れを感じる反面、
別の疑問が湧き出てすぐに立ち上がることができなかった。


「(・・・なんで今俺ほっとした?)」



◆次は安堵する自分に違和感が



(・・・つーか荒船アイツは杜若のどこに惚れたんだよ)
(荒船アクション映画好きでしょ、それがパルクールにも刺さったっぽい)
(おめーの動きパルクールっつーのか)
(トリオン体の分だけ別物になってるけどベースはそう)

(まさか生身でも動けんのか?)
(ある程度は。 今制服だからそんな派手なのできないけど)
(・・水族館よりそっちのが面白そーだな)
(はー、男子好きねぇ。 荒船にもリクエストされたんだよ)





 

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