短編棚影

□12月の贈物
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終業式間際の学校、世間はクリスマスモードで日々日々年末を感じさせる。
ボーダーでもB級ランク戦が残り数回で今期の全日程が終了する頃だ。

山吹隊は新隊員が入ることなく変わらず山吹と楓の2人体制だが、
3人以上で組まれた隊が大半でしっかり力を付けて作戦を練る分、
最近は上位入りすることすらかなり怪しくなってきた。

更に楓が去年頃から目標にしていた影浦への狙撃は、
絵馬の加入以降完全に手が付けられなくなってしまい、
影浦隊は上位の1枠、しかもトップ争いをしている。

今期が終わればA級挑戦権が得られるだろうという噂が挙がるほどだ。

それに影浦隊に入った狙撃手の絵馬は、
狙撃手の中でも屈指の実力を誇る鳩原が師匠に付いたらしい。

うーん、流石。 現状を思い返しながら楓は眉を下げながら笑みを零した。
目標であった影浦とのマッチング頻度が下がってもやることは変わらない。

この後はB級ランク戦ラストスパートの作戦会議の予定だった。
代わり映えしない廊下をぱたぱたと走りながら山吹隊作戦室へ向かう。


「あ、杜若」
「お? カゲ」


先の交差点の曲がり角からひょっこりと姿を現した黒い佇まい。
先程まで脳内の端っこに存在していた標的で友人の姿を視界に留める。

影浦は彼女の姿を見るなり足を止めて楓を待つ様子で、
それに倣うように楓も影浦の前でぴたりと足を止めた。

影浦が待つ形で合流したわりに言葉を発す様子はなく数秒の黙り込みが続く。

お互い話さずに目を合わせている2人は、
傍から見れば交差点で見つめ合ってる謎の人達で少々奇妙だ。

表情を読めないながら数度瞬きを繰り返した金色の瞳が一瞬逸らされ、
影浦は不意に肩に掛けていた黒い鞄をがさごそと漁り出す。

目当ての物が見つかったらしい影浦はそれを取り出すと、
ん、と一言、眼鏡ケースほどの細長い箱を楓に差し出した。


「・・・やる」
「え、私?」
「クリスマスプレゼント、っつーことにしておけ」


予想外、と言わんばかりに驚いた様子の楓の目が見開き手元が若干泳いだ。

クリスマスにしては少々フライングも過ぎる時期だった。
何も用意していなければ今何も持っていない、普段ある菓子すらない。


「いーっから黙って受け取れよ!!」


差し出された箱を素直に受け取っていいものか、
楓が微妙に迷った矢先追撃するように影浦が吠えた。

・・・心が読めるわけじゃないと彼は言うが、
状況次第でマルバツ三角くらい分かるなら充分読めていると思う。

迷いも把握された上で黙って受け取れと言われてしまえば、
流石に無下にはできず、楓は恐る恐ると影浦の手から箱を受け取った。


「ありがとう?」
「・・・おう」
「私なんも用意してないよ」
「貰おうと思って渡してんじゃないから別にいい」


そうは言われても。 その続きを言うのは留めたが楓の眉は少し下がった。

ラッピングされた細長い箱に少し視線を落とし、
開けていいかと影浦に聞けばあっさりと許可が得れた。

派手に破いてしまわぬようにその場でラッピングを解いて、
包装紙を自分の鞄の中に入れる。

箱を開ければ数センチほどに渡った装飾品が1つ入っていた。

蔦のように伸びた金色をベースに、はめ込まれた赤いガラス。
その赤はガーネットのようなワインレッドで、色合いがとても良い。

正直、楓的にはストライクだった。


「ヘア・・ピン?」
「いや、耳。 イヤーカフっつーらしい」
「あ、成程」


解説に納得する傍ら、突然好みの品が目の前に現れて動揺する。

しかもそれが、アクセサリーなどに頓着のなさそうな、
影浦からのプレゼントであることにも驚いている。

金と赤の対比が美しいイヤーカフを散々見つめた後、
楓はゆっくりと顔を上げて影浦の顔を伺った。

ガラじゃない自覚があるらしい影浦は、今度は分かりやすく目を逸らした。


「・・・キレーな色してたから、杜若なら似合いそーだと」


購入した意図は今述べた通りで本心で、
ただ似合いそう以上の深い意味はない、つもりだった。

少なくとも喜ばせようという意図はなかったし、
杜若の好みがどうとかも考えてなかった。

クリスマスプレゼントは口実に過ぎないけれど。

その品が購入から1週間ほど鞄に眠っていたことは、
タイミングがなくて眠らせていた影浦本人しか知らない。

楓は影浦の発言を聞き届けて数度の瞬きを繰り返すと、
表情を和らげて息を吐き出すように小さく笑う。


「随分な口説き文句だなぁ・・・」
「っはァ!? ふざけ、」
「いやー、普通好きな奴に言う台詞だよそれ」


影浦本人をからかうというよりは感想を述べたに過ぎない様子の楓に、
口元を歪ませ息を詰まらせて数秒、最後に影浦は舌打ちをして目を逸らした。

それが本当に友愛であったなら誤魔化せたかもしれないが、
既に秒数が掛かりすぎて今弁解しても怪しくなるだけだ。

・・・然程深い意味を持たなかったプレゼントが意味を持ちそうで困る。

鋭いことを言いながら目の前に居る男の心情に気付かない楓は、
受け取ったイヤーカフをじっくり見つめるとふっと笑った。


「綺麗。 ありがとう、付ける」
「・・・今かよ」
「・・・付け方分からん」
「貸せ」


影浦の一言に楓は手にしていたイヤーカフを差し出した。

それを受け取った影浦は楓の髪で覆い隠れた左耳が見えるように、
指を通して天パ気味の髪を耳に掛ける。

付けられる側の楓からは、緊張といった類の感情は一切感じない。
・・・それを少し不服に思う。

こいつこの距離でなんとも思わねぇのかよ。
それに対して微かに早くなった自分の心臓の音には目を瞑った。


「カゲもなんか要る?」
「いらねー」
「ネックレスとか」
「アクセもんつけねーし」

「ゴツい指輪とか似合いそう」
「聞けよ」
「聞いてるよ」
「・・・」


楓の視界の端に映るイヤーカフを装着させようとする影浦が、
ほんとに聞いてんのかよと言わんばかりに顔を顰めた。

本当に発言自体は聞いてるよ、膨らんだ想像が口から出て来るだけで。

皮膚薄くて骨ばった良い手してるから指輪似合うと思うんだよな。
黒いのとかチェーン付いたりしているのとか。

頭を傾けながら思考をまとめるように目を瞑っていると、
耳を何かが挟んだ感覚がしてふっと瞼を持ち上げた。

影浦が楓から1歩後ろに下がり、付けられたイヤーカフを見つめる。


「似合う?」
「・・・似合う」
「ていうか似合いそうでくれたんだもんね。 期待裏切らずにいれたかな」


元々表情は大人っぽい方だとは思うが、イヤーカフの分だけ割増されている。

耳に何かが付いているのに慣れていないのか、
楓はイヤーカフの付いた左耳を軽く指先で撫でた。

・・・思えば彼にはなんだかんだ奢ってもらってばかりな気がする。

パズルは5問ごとに、って話で結局3回くらい買収されたし、
学祭の時は後日礼として気になってた店に付き合ってもらったのだ。


「細かいの沢山とでっかいの1個とかならどっちがいい?」
「いらねーよ」
「これくらい答えてよ」

「・・・一定期間継続すんなら細かいの、1回きりなら1個」
「おっけー」
「・・・いらねーって」
「聞こえなーい」


手始めにカゲそっくりなLINEスタンプをプレゼントすることにした。



◆これ贈る方も楽しいんだよね



(おっ、カゲスタンプ珍しい)
(ちょwwwこれめっちゃカゲwww)
(杜若がくれた)
(( ・´ー・`)ドヤーン)

(だめツボwww)
(贈った本人ドヤってるぞ)
(使い勝手よくて悔しい)
(( ・´ー・`)ドヤーン)





 

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