短編棚

黒子の家にお泊り
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「・・あーぁ、本格的に降ってきちゃった」


濡れて雫の垂れる髪をわしゃわしゃと掻いた。
髪から垂れ落ちた雫が首や肩に飛び散る。

上から下までびっしょりだ。 流石に気持ち悪い。

学校からの帰り道、急に雨が降ってきた。
天気予報じゃ今日は1日晴れるって言ってたのに。

詐欺だ。 そりゃ外れることもあるかもしんないけど。

雨が降り出してからシャッターの閉まっている店に駆け込んだものの、
既にそこそこ濡れて制服のシャツが肌に張り付いている。

屋根はいうほど広くなかったけど、野ざらしよりかは大分マシだった。


「・・・どうしよう」


しばらくは止む気配の無い、重い空と止めどなく降る雨を見上げる。

途方に暮れてしまった。

近所に知り合いの家なんてないし、自分の家はここからまだ距離あるし。
ていうか雨にやられたところが冷たい。 身体も冷やしそうだ。


「は・・っくしゅ」


込み上げてきたものを吹き飛ばし、鼻と口元を手で覆う。
参ったな、くしゃみまで出てきた。

ぺったりと張り付くスカートや服を絞るものの、
全身濡れたこの状態では慰めになってるのかどうかすら怪しい。


「・・・紅咲さん?」
「うえっ?」


自分の名を呼ぶ、突然聞こえた耳慣れた声に顔を上げる。
青い折り畳み傘を差し、こっちを見ていたのは黒子君だった。


「黒子君、 今から帰り?」
「はい。 雨のせいか普段より早く切り上がって」


そう言い終えると、私が立つ店の屋根まで入った。


「・・・紅咲さん、びしょ濡れですね」
「天気予報を信じた結果がこのザマねー」
「あ、あぁ・・一応晴れ予報でしたよね・・」

「黒子君は折り畳み傘持ってきてたんだ?」
「いつも鞄の中に入ってるんです、だからそれで」


なるほど。 頷いて、顔に張り付く髪を後ろにかきあげた。
唯一救いなのは、制服が透けないことだ。

張り付いてて気持ち悪いけど

ふと黒子君を見た時に、目が合った。


「・・黒子君、帰らないの?」
「びしょ濡れの紅咲さんを放って帰れませんから」
「最悪濡れて帰るよ。 風邪引くかもしれないけど」


帰れないよりは、 って続けようとした時に
差したままの傘を、こっちに傾けた。


「よかったら送っていきますけど」
「え、でも・・こっからだと黒子君の家、通り過ぎちゃうんじゃない?
 しかも私の家って、 そこそこ結構歩くんだけど」
「そのくらいなら気にしませんよ」


でも、と続けた私に黒子君が一歩外に出た


「あまり乗らない提案かもしれませんけど」
「? うん」
「僕の家に来ませんか?」
「・・・はい?」


意外な誘いに声が裏返った。
黒子君ちに? どうしてまた急な提案。


「そのままだと紅咲さん確実に風邪引きますし、
 僕の家なら近いですし・・、風呂も貸せるんですけど」
「・・・黒子君の親御さん達に迷惑かけない?」
「大丈夫だと思います」


・・・うーん、と小さく唸ってると
鞄の中を手探りで探る黒子君

お目当ての物らしい、真っ白のタオルを取り出すと私に手渡した


「慰めにもならないでしょうけど、一応」
「・・! ありがとう、借りるね。 ・・風呂も借りていい、かな?」
「はい。 どうぞ」


斜めに傾けられた青い折り畳み傘に、遠慮しつつ入った。
だってびしょ濡れだし。

頭には借りた白いタオルが。


「紅咲さん、そんなとこ歩いてたら雨で濡れますよ」
「いや、黒子君が濡れちゃうってば。 私びっしょりじゃん」
「お気遣いはありがたいんですけど・・」


左隣に黒子君、真上に青い折り畳み傘。
前も後ろも右隣も、雨の街。

傘持ってるのに濡れちゃったら悪いじゃん?

右肩に鞄をかけて、右手で頭をわしゃわしゃやってた。
・・・・やっぱりすぐは乾かないか、

んー、と1人 苦笑してると左手が誰かに握られて、
そんなに強くない力で少し引っ張られた

誰かなんて確認しなくても分かってる


「ちょっ、黒子君・・」


肩がくっつきそうなくらい、引っ張られて白黒した。
控えてたんだって、 って抗議しようとしたら


「紅咲さんが濡れないことの方が優先です」
「あ・・・り、がと・・」


若干赤くなってるであろう顔を、隠すように少し俯いた。

黒子君の顔が意外と近いし、肩は相変わらずくっつきそうだし。
左手は軽くだけど握られたままだし。

気にしてなかったけど、相合傘だし・・今気付いた、


「(・・黒子君って、意外と男の子、?)」


握られた私の左手を見た。

振り解けば、すぐに離れてしまいそうな手。
きゅ、と小さく握り返したら、答えるように少し力が入った。


「・・紅咲さんには悪いんですけど、僕は今日ツイてるみたいです」
「へ? 何が、?」


急に呟くように話した黒子君

顔を上げると、やっぱり普段より至近距離な黒子君の顔。
黒子君は足をふと止めて、自分の足も止めた。


「だって、紅咲さんがこんなにすぐ近くに居るんですよ」
「・・・・それってツイてるの? こんなだよ、私」
「はい。 とても」


黒子君の顔は、まぁ分かりにくかったけど。
薄っすらと笑みを浮かべてて、


「・・・そ、う」


それしか何も言えなかった。
あれ、黒子君ってこんな子だったっけ、


「紅咲さん」
「え、!? はい!」
「ここです。 僕の家」


黒子君が指を指した場所は、青い屋根の白い一軒屋。
どうやら2階建てのよう。

手を繋がれたまま、一歩引っ張られて意識が戻る


「入りましょう」
「あ、うん」


扉の前で折り畳み傘を閉じて、扉を開けてくれる黒子君
玄関もそこそこ広くて、とりあえず2人立つのは余裕の広さだった


「風呂場からバスタオル持って来ます。
 母さんにも説明してくるので、ちょっと待っててください」


ん、と小さく頷くて、黒子君は玄関からすぐ左の部屋に入っていった


「風呂貸してあげてもいいですか?」
「あらっ 構わないわよ! 部活の人?」
「いえ、友達です」


そんなやり取りが聞こえた後、すぐ廊下に出て
もう少し奥の右の扉に入っていった。

次はすぐに出てきて、片腕にバスタオルを1枚抱えてた


「どうぞ」
「ありがと・・ひゃー、もう制服張り付くー・・」


苦笑いしてるとドタドタと、黒子君のお母さん? が
その左の部屋から出てきた。


「まぁ! 女の子じゃない!?」
「? 言ってませんでしたっけ」
「友達としか言ってくれてないわよ もしかしてテツヤの彼女さん?」
「え、」


バスタオルで頭を被せてた私が、一瞬固まった。
え、彼女じゃないんですけど

黒子君も一瞬黙った後、呆れたように言葉を発した


「・・・彼女じゃないです。 紅咲さん困ってるじゃないですか
 母さんは引っ込んでてください」
「えぇ? 最近テツヤ、お母さんに冷たくない?」
「気のせいです」


そう言って、左の部屋に黒子君のお母さんを、
押し込む黒子君を見て笑った。


「明るいお母さんだね」
「時々うるさいのがたまにキズです」
「まぁまぁ。 素敵なお母さんだと思うけど」


靴下を足首まで下げて、脚をバスタオルで拭き取っていく


「大分乾きましたか?」
「雫が落ちない程度には。 本当助かるよ、ありがとう」
「お気にせず。 靴下濡れてるなら脱いじゃってください」
「はいはーい」


壁に手をついて、片足の靴を脱ぐ。 そして靴下もベリッと
もう片足も同じように脱いだ。

脱ぐ時に靴がグチャ、っていった。


「靴下は何とかなるとして、問題は靴ですね」
「乾燥機とかある?」
「ありますけど、乾くのに数時間くらい掛かりますよ?」


・・・あっちゃぁ。 額に手を打った
うーん、と悩んで とりあえず家に上がらせてもらう


「・・最悪濡れたの履いて帰るかなー、まぁその時考えよ。
 風呂、先に借りてもいいかな?」
「はい。 こっちです」





 
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