短編棚

黒子の風邪
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ガゴッ


「・・・あれー、?」


ゴールに入らず、帰ってくるバスケットボールを拾い唸った。
シュートが入らない。

いつもは危ういながらに7割入るのに。
今日は1割入るか入らないか、


「黒子君も来てないし、」


1人コートでドリブルを続ける。
次シュートして、入らなかったら休もう

そう思ってシュートの構えをした時
ズボンのポケットに入れてるケータイが音を鳴らした

メールだ、


「・・・? あ、」


黒子君、 不思議に思いつつ、ボールを脇に挟んで
ケータイを開き、メール画面に移動


「”すみません、風邪引いたので行けなくなりました”」


短い謝罪文、と風邪引いたっていう報告。
あー、 と頬をかく。

ゴールのすぐ近くに座り込み、返信


「”分かった。 こっちは気にしなくていいよ。
 風邪大丈夫? 家族の人は?”」


ボールで遊んでいると、意外にも早く返信が来た


「”すみません、ありがとうございます
 少し熱があるくらいなので、心配するほどじゃありません。
 両親は朝から仕事です・・ほったらかしにされました”」


えぇぇ!? 黒子君の親御さん・・・!
高校生とはいえ風邪引いた子供放っていくなんて!


「”え、じゃぁ今家に1人? ちゃんとご飯食べてる?
 ・・・お見舞い行きたいんだけど、大丈夫そう?”」
「”1人です。 ご飯は・・朝に軽いの食べただけです
 別に構いませんが、風邪移らないでくださいね?
 家の鍵、開いてると思うので チャイム鳴らしたら入っていいですよ”」


ん、 誰も聞いてないこの場所で1人勝手に返事。
地を蹴って、バスケットボールを抱えたまま立ち上がる

黒子君の家行く前にスーパー寄って行こ
今日鞄持ってきて、つくづくよかったと思う

林檎くらいは買っていってあげよ、


―――――


チャイム鳴らして、控え気味に「お邪魔しまーす・・」

許可取れてるっちゃ取れてるけど、
出迎えの居ない他人の家入るのって怖い。

バスケボールを玄関の端に置いて、上がらせてもらう。

泊まりの際に覚えた、黒子君の部屋へ向かうべく
玄関からすぐ右の階段を上っていく

コンコン、


「黒子君ー 私だけど・・起きてる?」
「紅咲さん・・? 起きてますよ・・・、すみません
 起き上がりたくないので入ってください・・」


扉越しでも分かる、だるそうな声
相当辛いんだろうな、と思いつつ扉をそっと押す。

部屋の右端にあるベッドに人1人分の山。
静かに部屋に入って扉を閉める

ベッドのすぐ脇にまで来ると、肩まで
掛け布団を被って少し辛そうな黒子君の顔


「・・今日、行けなくてすみません・・」
「気にしないでってば。 風邪じゃしょうがないじゃん?」


しかも今日はやたらシュートの調子悪かったし。
心の中で付け加えると、黒子君は小さく俯いた


「熱、測った?」
「いえ・・、体温計取りに行く元気が・・・」


うーん、それは困ったなぁ・・
頬をかいて、ズボンのポケットから右手を出す

そしてそのまま黒子君の額にペタリ


「・・紅咲さんの手、冷たいです・・・」
「ポケットに入れてたから、温まってる方だよ。
 結構熱あるねぇ・・寒気はする?」
「少し、ですが」


あー、じゃぁまだ熱上がるかもなぁ・・
机とセットらしいコロコロ付きの椅子を引っ張ってくる。


「食欲はある?」
「どう、でしょう・・軽いものなら」
「軽いっていったって黒子君、いつも少食じゃない・・
 林檎、買ってきたんだけど、食べる?」


そう言って片腕にかけている、白いスーパーの袋を持ち上げる
それを見た黒子君は、ちょっと驚いたように頭を上げた

すぐに頭痛でダウンしたみたいだったけど


「半分くらいなら・・、食べたいかもしれません・・」
「ん、分かった。 キッチン借りるね?」
「はい・・、」


鞄をベッドの横に立てかけて、そのまま部屋の出る。
・・・・うん、あの風邪は辛そう。

っていうか黒子君のお母さん、早く帰ってきてあげてよ

軽い足取りで階段を下りていく。
同様泊まりの時に覚えたリビング兼キッチンに直行。

包丁とまな板・・・あ、凄い分かりやすいところにある

お皿も2枚お借りして、
これまた分かりやすいところにあった塩も取り出す


「物色するようなことにならなくてよかった・・」


本気で今そう思った。

とりあえずは林檎を真っ二つ。

片方は塩水を入れた皿にボチャン、これは食器棚にしまっておく。
他人の家の冷蔵庫を物色するのも気が引ける

もう片方はそのまま林檎の皮むき。
食べやすいサイズにカット

これまた分かりやすい場所にあった
フォークを皿に乗せて、とりあえずこれで林檎OK

ダイニングテーブルの上にあった体温計を手に取り、
そのまま黒子君の部屋に直行。


「入るよー」


体温計と林檎の皿を片手にドアを押す。
相変わらず黒子君は動いた形跡がない

が、起きている気配はある


「黒子君? 林檎、と体温計。 持って来た」
「あ・・、ありがとうございます・・・
 体温計の場所、 よく分かりましたね・・」
「ダイニングテーブルの上に置いてあったの。
 黒子君のお母さんが出かける前に置いたんじゃないかな?」


そう言うとあぁ・・、と納得したような顔の黒子君。

黒子君はゆっくり起き上がって、林檎の皿を
布団越しに膝の上に置いて、体温計を手にとって計り始めた


「いろいろとすみません、」
「あー、もうだから、そんなんいいって
 私が好きでやってるんだし、礼には及ばないよ」


腕を伸ばして背伸び。 今まで迷惑かけてたの、
って言われたら そりゃぁ私だろうしなぁ

看病くらいやるし、

どうやら測り終わったらしく、体温計を手渡された。
体温計の数値を見て、ちょっとビックリした

・・・・、38度4分


「その、いろいろとありがたいんですけど・・
 紅咲さんに風邪が移らないか、心配なのですが・・」
「バカは風邪引かない、って言うよ」
「・・・移らないならいいんです」


フォークに林檎を刺して食べる黒子君を見て、小さく笑った
風邪って結構人変えてるなぁ、なーんて。


「・・これから用事とか・・ありますか?」
「? いや、何にもないよ。」
「そうですか、 あの、」


フォークを持つ手を止めたまま、こっちに向き直った。
それでベッドの端を、小さくポンポンと叩いて

わけが分からず、ポカンとしてると小さく絞るように


「・・ここに座って欲しいです」


・・・黒子君、やっぱちょっと人変わってない?
小さく笑って、指定された場所に座った。


「人肌恋しい?」
「かも、ですね」


そのまま林檎を食べきり、フォークを皿の上に乗せた。
食べ終わった空の皿を借り、机の上に仮置き。

黒子君の首がカクッ、となったのを見て また笑った


「寝ていいよ。 黒子君が起きるまでは居るつもりだから」
「・・・紅咲さん、優しいですね・・・」
「んー、優しい かぁ」


もぞもぞとベッドに潜り込む黒子君
掛け布団からはみ出している片手に、自分の右手をそっと乗せた

黒子君が布団の中で、ぴくりと反応したのが見えた


「私はいつもこんな感じだよ」


小さく握り返された右手を見つめた後、
静かに寝息が聞こえてきた。

・・・・おやすみ、黒子君
心の中で思って、表で笑って。

・・・私も寝たいなー、



(・・・、何で紅咲さん 僕の上で寝てるのですか・・、?)
(う、ん・・〜・・、)
((・・・起きるまで待ちますか、))

((右手を見てみたら、寝る前触れた手が繋がれてた))





 

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