短編棚

笑い上戸なピアニスト
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4時間目、授業が音楽のため音楽室に向かう僕と火神君。
音楽室の中から響いたピアノの音色に、2人して足を止めた。


「・・・何で足止まってんだよ」
「火神君の方こそ」


音楽の先生・・・ではない、さっき階段ですれ違ったばかりでしたから。

火神君が音楽室の扉を開けた。

音楽室の中はクラスの人が大半集まっており、気になるピアノに目を向けると
同じクラスの女の子が鍵盤に細長い指を滑らせていた。


「音楽ってよく分かんねーけどさ」
「・・・上手ですね。 それは僕にも分かります」


顔を見合わせて席についた。
僕は相変わらず一番後ろの窓際だった

ピアノの音が、心地いい。 寝そうです・・、

終わりを迎える曲・・ 刹那、さっきの和やかな曲とは
また打って変わって、テンポの速い譜の多い曲。

眠気が一瞬にして飛んだ。
授業開始2分前の出来事、


「今から授業だし眠そうな人ちゃんと起きてねー!」


ピアノの方か、ハッキリした声。

周りがそういう雰囲気だったのか。
でも、見透かされた感が凄くて


「やっべ・・、マジ寝そうだった」
「同じくです。 眠気飛びましたけど」



―――――



僕の前には音楽室・・・の半開きの扉。
昼休みにも関わらず、音楽室からピアノの音が鳴る

けど、授業前に聞いたような滑らかなものではなく
試行錯誤しているような、そんな音色。

同じ場所を何度も弾き直している


「(・・・忘れ物取りたいんですよね)」


半開きの扉に手をかけた。
意外と音なく、難なく入れた音楽室

彼女はまだ僕には気付いていない


「んー・・・と、こことここを半音高く・・、」


ブツブツ言いながら、また鍵盤に指を滑らせる。
さっきとはまた少し違った音で、

邪魔しないように鍵盤側に移動すると、
手書きらしい楽譜が置かれていた

そしてシャーペンと消しゴムで、
その楽譜に修正を入れていく紅咲さん


「ここは半音低く・・・」
「・・・作曲ですか?」
「わぁぁ!? っえ、わ え!? いつの間に・・!」
「さっきから居ました」


背もたれのない椅子の上で、
驚いた表情のまま固まる紅咲さん


「驚かせてすみません。 苦戦しているようでしたので」
「あ、いや うん。 こっちこそごめんね?
 えっと、まず質問の答えはイエス」


・・・作曲ですか、って聞いた答えですか。


「誠凛の応援歌を作ってるの」
「・・・応援歌、ですか?」


聞き慣れない言葉に、首を傾げた。

確かに夏はバスケ部だけじゃなくあらゆる部活で試合や大会はありますが。


「ふふ、先生ってば面白いのよ。 ピアノが弾けるだけなのに、
 『作曲頼む!』って頼み込んだの。 やったことないのに」
「・・・初めて作曲に挑戦してる、ってことですか?」


頷く紅咲さん。

右も左も全くわかんないけどねー!
と、言ってのけ笑い出した彼女を見た時は、僕も小さく笑った

随分笑い上戸なピアニストさんですね


「もう手探り状態。 1つ半音変えては弾き直して確かめる。
 この繰り返しだよ もう授業サボっちゃおうかなぁ、」
「音楽の授業で人のこと起こしておいてサボるんですか」


小さく溜め息。 音楽には一筋、他は道なし?
そんな僕の心境を知らず、彼女は疑問符浮かべたまま


「え? 黒子君も起こしちゃった?」
「起こされました」
「あらら、ごめんね。 って、実際皆を
 起こすつもりだったんだけど」


紅咲さんは笑いながらポロンと、1つの鍵盤を押す。


「もう一緒にサボっちゃう?」
「僕はどちらでも。 どうせ次世界史でしょう」
「どうせって言っちゃってんじゃん」


授業の時、座っていた席から筆箱を手に取る。
その後、ピアノから一番近い席の椅子を引いて


「子守唄にはならないと思うけど、いいの?」
「大丈夫ですよ。 紅咲さんが起こそうとしなければ」
「そう言われてもなー」


そう言いながら、主旋律を片手で弾く紅咲さん

座って肘杖をつく。 んー、と悩む素振りを見せた後、
紅咲さんはピアノを弾いたままこちらを向いた


「あ、なら1曲リクエスト応えるけどー」
「・・・眠れそうな和やかな曲お願いします」
「オッケー! その1曲弾いたら、作曲戻るね」
「頑張ってください」


左手の人差し指と親指をくっつけて、
リングにした、OKのサインを僕に見せた後

彼女はピアノに向き直り、弾き始めた。

眠気に誘われるのは、それから20秒後のことだったりして。



(おーい、黒子・・って寝てんじゃねぇか。
 もうすぐ授業始まるぞ。 ピアノん前座ってる紅咲も)
(そーいう火神君も眠そうじゃん。 サボればー?)
(あー・・確かにねみぃ、かも ・・・サボろ!)

(同じ格好して寝てる・・・似た者同士だなぁ。
 ふふ、サービスでもう1曲弾いちゃお)





 

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