短編棚

風の如く消えて
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音もなく舞う葉のように、零れ落ちる水のように
見えず掴めない風の如く、消えていった。

何故、何故。 どうして。

問いかけても、問いかけても。
彼女からの答えはなかった。

いつも呼べば答えた貴女が。

帝光中のバスケ部をやめた瞬間、貴女は消えた。
僕の前から、何の前触れもなく。

何故、何故。 どうして。
僕が、バスケを嫌いになったから?


「・・・こ・・黒子!」
「っ、!? ・・あ、火神君・・・」
「随分ぼーっとしてたな。 悩みか?」
「悩みというか、たそがれてました」


・・・いけない、 教室の窓から吹いて来る涼しい風を
感じていたらつい、思い出してしまった。

誰よりも僕の側にいた、彼女を。


「珍しいじゃねーか、物思いに耽ってるなんてよ?」
「そうですね。 僕も今の今まですっかり忘れてました」
「・・・・何の話してんだ?」
「・・すみません、こちらの話です」


もう冬ですし、1年くらいは経つんでしょうか。

未だ鮮明に覚えてるんですよ?
顔とか声とか、触れてくれた優しい手も。

窓の外を少し見て、小さく溜め息をついた。


「、火神君」
「あ?」
「大事な人が自分の前から、前触れなく
 居なくなった時って、火神君ならどうします?」


・・・急に、不安になった。

行方不明、消息不明。 死んではいないと思うので、
今までそんな心配もしてなかったけど。

何だか、急に。


「大事な人、ねぇ 居なくなった直後なら、
 そいつが行きそーなとこ、片っ端から探していくけど」
「・・っていうか、今生きてるんでしょうか。」


外の景色から視線を外さずに言うと、
火神君が急に動きを止めた。 というより固まった。


「・・・そいつ、生きてんの? 死んでんの?」
「分からないから困ってるんです。」


少し眉をしかめて、前を向いた。
嗚呼、何だか急に貴女が恋しくなりました。

僕の名前を呼ぶ優しい声、
もう一度くらいは聞きたいものです。

目を瞑ればすぐに聞こえる


(テツヤ)


こんなに鮮明に覚えているのが不思議なくらい

廊下の走る音だとか、教室内の話し声。
教室の扉が開く音の雑音だらけの中でも。


「テツヤ」


・・・・

たった1秒だけ、雑音が全部カットされて
その声だけが僕の耳に届いた。

幻聴、まさか。 でも、何でですか・・?

教室の扉を見ると、僕と同じ淡い水色の長い髪と
僕と同じ淡い水色の優しい目と、綺麗な笑顔

ここの、誠凛の服を着て。


「・・おい、黒子・・・?」


周りの時が、止まったような感覚がした
ガタリと音を立てて、立ち上がる


「ねえ、さん・・・・」
「姉さ・・・っは!?」


現状が分からないまま、慌てる火神君を見ながら
彼女は当然のように教室に入っていく。

僕の目の前にまで来て、少しだけ僕を見上げた


「久しぶり、だね?」
「何で、ここに・・何で誠凛の制服、着てるんですか」
「何バカ言ってんの。 私が誠凛の2年だからです」


制服のリボンを軽く引っ張って、
似合う? なんて笑う彼女、基 僕の姉さんは。

1年ぶりに会ったわりに、全然変わってなくて。
でも、それでいて 少し大人っぽくなったような気がした。


「ちょっ、は!? つかお前、姉貴居たの!?」
「・・・さっきまで話題の中心だったじゃないですか?」
「大事な人としか聞かされてねぇよ!」
「黒子桜です。 生徒名は苗字、紅咲だけど」


多分この1年で、姉さんの方にもいろいろあったんだろう
でも、今聞いた苗字以外は。 本当に何も変わってなくて

笑顔で何もなかったかのように、僕の前に立つ僕の姉は。
幻覚とか、幻聴とか、そんなものじゃなくて。

本物で、 僕の、たった1人の


「姉さん、 ・・・姉さん」
「なぁに、テツヤ」
「・・・姉さん・・っ」
「姉さんだよ、テツヤの。」


体が動いたのは無意識だった。

気がついたら姉さんを抱きしめていて、
姉さんも苦笑いしつつ、僕の背中を叩いてくれて。

まさか高校生にもなって、って思いましたけど
一度、直に触れていたくて。

子供相手のようにあやす優しい声も、
背中で優しく叩かれる手も、何もかも。

酷く懐かしくて、とても落ち着いた。
・・・なんて、きっと姉さんは知りません



(・・感動の再会してるところ悪いけどさー、)
(・・・本当に雰囲気ぶち壊しです、火神君)
(ってかテツヤ、意外と凶暴そうな子と友達になったのね
 久しぶりに弟に会ったお姉さんはビックリだよ。)
(きょ、凶暴そうってどういうこと・・・すか!)

(同じバスケ部なんです。 ・・新しい、光です)
(・・そっかそっか。 また、バスケはやってるんだ)
(はい。 やっぱり諦めきれませんでした
 ・・・それに、姉さんも戻ってきそうな気がして)
(ごめんごめん。 来月からはまた一緒に暮らせるよ
 お母さんにもそう言っておいて。 怒られそーだけど、さ)





 

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